追放者サイド 4 追放者は見限られる

 エルドと訓練をした騎士が死んだ。

 それを知った騎士達に衝撃が走った。


「その話は本当か? 」

「あぁ。本当らしい」

「誰が……」

「思い当たる人物なんて一人しかいないだろ? 」

「そうだが有り得るのか? なんだかんだで言いくるめれそうだが……」

「なら暗殺者を雇ったとか」

「いや。あれだけのことで暗殺者を雇うか? それに、もしそうだとしても早すぎる」

「む……。そう言われると自信がないな」


 緊張を高める騎士達は訓練場で家の垣根かきねを超えた話し合いをしていた。

 話していると「おい! 続報ぞくほうだ! 」と騎士が一人走ってきた。

 息を整え周りに伝える。


「町で聞いたんだが、偶々たまたま通りすがった奴が黒い炎を見たらしい」

「「「なんだと! 」」」


 それを聞き全員が驚く。


 現在知られている黒い炎を出す魔法はたった一つ。漆黒の炎ゲヘナ・フレイムのみである。


 この魔法は通常の火属性魔法と同様に対象物を燃やすことに加えて、対象物が息えるまで燃え続けるという効果を持つ。

 それゆえこの魔法を使える者は少なく、この領内で使える者はたった一人であった。


「エルド様……、いやあのおろか者に『賢者』が発現はつげんしたのは本当だったか」


 一人の騎士の言葉に全員が溜息をついた。

 一番そうであってほしくなった事実を知らされ落ち込む。


「しかし何で夜にもかかわらず、その見たって奴は黒い炎が見えたんだ? 」

「……そこはさっしてくれ」

「あ~、わりぃわりぃ」


 下手へた詮索せんさくをしたものだと思い、男は情報を持ってきた騎士に謝った。


 つまるところエルドを常に見張っていた者が複数いたわけだ。

 この領地に他の家の勢力は多く潜んでいる。

 謝った男の家の者もこの地にいることから、情報源が貴族家の諜報ちょうほうだとすぐにわかった。


 話していると他の騎士が周りに聞く。


「しかしこれからどうするんだ。残るのか? 」


 そう言い全員黙り込んだ。

 レギナンス伯爵家の没落ぼつらくが見え、次期当主が凶行きょうこうに走った。

 となるとエルドの凶行の矛先ほこさきがいつ自分に向かうのかわからない。

 やめたい一心なのだろうが決めかねているようだ。


「俺は、帰る準備を始める」


 その言葉が発端ほったんとなった。


 全員が同調どうちょう帰還きかんすることを決定する。

 この情報をすぐに自分の家の使用人に伝えて彼らは出立しゅったつした。


 ★


「「「今日限りでやめさせていただきます!!! 」」」

「馬鹿を言うな!!! この、レギナンス伯爵家をそう簡単にやめれると思っているのか! 」

「「「はい!!! 」」」


 使用人達のその言葉に顔を青くするザック。

 騎士が一人死亡したのを皮切りに騎士に使用人にと次々とやめてしまった。


 今ザックの目の前にいる者達も同様で辞表じひょうをザックに叩きつけたのであった。


「つ、次の職はどうするつもりだ! 貴族の家をやめて見つかると思うなよ! 」


 あくまで強気つよきで言うザックに、一人の女性が「カツン! 」と音を鳴らして一歩前に出た。

 その強気な姿勢に「ひっ」と声を上げるもメイドは無表情でザックに告げる。


「職ならば幾らでもありますのでお気になさらず」

「なんだと……」


 ザックは呆然ぼうぜんとしかすれる声で呟いた。

 彼女はそんな彼に気を止めず更に言う。


「次の職もすでに見つけておりますし」

「何故それを俺に報告しない!!! 」

「わざわざ報告して、見せしめに殺されたらかないませんので」


 そう言われ、言い詰まる。

 しかしザックも負けていない。


「エルドがっ! 騎士を殺すはずが無かろうが! 妄想もうそうもほどほどにしろ! 」

「妄想ではなく、事実でございますよ。それに私達はレギナンス伯爵家よりも自分の命の方が大切なので」


 「では」と言い扉をバタンとめて使用人達は出て行った。

 ザックは彼女達を見て、椅子にだらんとへたれ込む。


 めていったのはこの家に入り込んでいた他家の者だ。

 諜報まがいの事をしてこの家の情報や領地の情報を流していた。

 そう言う意味ではこの家は健全けんぜんな状態になったと言えよう。


 しかしながらザックはえてそれを見逃していた。

 彼自身が同じことをしているというのもあるのだが、——例え諜報と分かっていても——彼らがレギナンス伯爵家にいないということは他家とのつながりがない事を意味する。

 よって他家の息がかかった使用人や騎士達が辞めて行ったということは本格的に見はなされたと同義どうぎであり、貴族として完全孤立状態を意味している。


「何故……何でこんなことに」


 エルドは生気せいきを失った瞳を泳がせボソボソと呟いた。

 しかしそれに応じる使用人も、騎士も、誰もいない。


 ★


「この後お前はどうするんだ? 」


 旅服を着た男が隣の男に聞いた。


 彼らは元レギナンス伯爵家の騎士達。

 レギナンス伯爵家の異常を伝えた後、直ぐ家に戻るように指示を出された者達だ。

 戻ってこいと言われて帰る所なのだが、戻った所ですぐに職に就けるわけではない。

 特に男爵家三男や子爵家五男のような彼らは力を持っていても使用人達のように技術があるわけではないので、定職ていしょくけるかわからない。


「一旦帰って……。そうだな、冒険者もいいかもな」

「冒険者か」

「あぁ。俺はレギナンス伯爵家に行くように言われる前までは冒険者を目指していたからな」

「へぇ。初めて知った」

「変な貴族のゴタゴタをするよりかはマシだろ? 」

「貴族家の子がそう言ってどうするよ」

「はは。まぁ結局その『貴族家の子』という理由であんなところに行かされたがな」

「「……はぁ」」


 下を向き二人は歩く。

 男は横を見て何かに気が付き、隣の元騎士に聞いた。


「なぁこの町こんなにどんよりとしてたか? 」


 そう指摘してきされて元騎士は顔を上げる。

 右に左に彼が見ると何か感じたようだ。


「……人が少ない? 」

「あ。そう言われればそうだな」

「俺達が伯爵ていり付けにされている間に何かあったのか? 」


 彼がそう言うと、男はあごに手をやった。


「魔物被害? 」

「いやこの周辺は比較的安全なはずだ」


 指摘した男がそう否定すると更に元騎士は考え込む。

 そして顔を上げてぽつりと呟いた。


「……戻る前に他の奴らに連絡を取った方が良さそう……、だな」

「何か異常状態があるのならば一緒に報告しておくべき、か」

「これは戻る前にもう一仕事必要か、ちくしょう」

「はぁぁ。仕方ねぇな。レギナンス伯爵家に恨みはあるが、他のもんは違うしな」

「そうだな。じゃぁもう一仕事と行くか」


 愚痴ぐちをこぼしながらも二人は近くの町にひそ同僚どうりょうに会いに行った。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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