第8話 アルトは食事にありつき堪能する

「アルト。わりぃが俺達はこれから用事がある」

「用事ですか? 」


 そう言うと僕の背中を叩いていた冒険者が大きく頷いた。


「この町を、俺達の町を危険にさらした冒険者クズ共探索たんさくだ! おい、野郎共! 最近来たカップルだ。見つけ出すぞ! 」

「「「おう!!! 」」」

「見つけ出して相応そうおうの罰を与えてやる! 」


 その掛け声と共に十人ほどの強面こわもて達がっていった。

 鬼気ききせまる様子を見て唖然あぜんとする中、レナが呟く。


「彼女達は、確かにミノタウロスから逃げることに成功しましたが……。生きてこの町を出ることは叶わないでしょう」

「いやそこまでしないと思うんだけど」


 軽く指で方陣ほうじんを切りいのるポーズをするレナに僕はツッコむ。

 レナは少し苦笑して歩き出した。


「そう言えばアルト様のスキルは珍しいですね」


 着いていく僕に彼女は聞いた。


 ここに来る前清潔クリーン消臭オーダレスをかけた時、彼女に僕のスキルは見られた。

 魔導書タイプのスキルは色々ある。

 別に見られて困るものではないし、戦闘の時に見られているだろうなと思って隠さず使ったのだけど、興味を引くほどだっただろうか。


 叡智の魔導書メーティスの能力は、僕が教会で調べた時にはわからなかった。

 外から見る分には多分普通の魔導書タイプのスキルと思うだろう。

 だから使える魔法さえわからなければそれでいいかなと思ったんだけどね。


 少し複雑な顔をして歩きながらレナに向かう。


「そうかな? 魔導書タイプのスキルはあると思うんだけど」

「話しには聞きますが実際に見たのは初めてなので」

「そうなんだ」

「ええ。なので珍しいな、と」

「そう言われると確かにそうかもしれないね。だけど物質を顕現けんげんさせるスキル全部が珍しい」


 そう言うとクスリと笑い「確かにそうですね」と答えた。


 スキルには幾つかある。

 一般的なものから戦闘向きなものまで様々だ。

 そんな、幾つか分類方法があるスキルだけど、他の分類の仕方に「物質として顕現させるもの」と「そうでないもの」という分け方がある。

 例えば魔法系スキル。

 通常の『魔法: 初級』ならば魔杖を使い魔法を放つ。この場合、魔杖は自前で用意しなければならず、あくまでスキルは魔法を放つためのものという立ち位置だ。

 しかしながら僕の『叡智の魔導書メーティス』は魔導書を顕現させて、魔杖を使わず、非触媒状態で魔法を放つことができる。

 とても便利な魔法なのだけれどもとても容量キャパシティーを食うスキルで、僕はもう他のスキルを覚えることが出来なさそうだ。


 僕は剣術を使うことができる。しかしこれは『剣術』スキルを保有ほゆうしているわけではなく、単に剣を振るうことができるというだけ。

 剣術スキル保有者と同じ動きをしたら、恐らくボコボコに負けるだろう。


 自分のスキルの珍しさを自覚したところでふと気が付いて、レナに聞く。


「荷物は……、持ってるの? 」

「ええ。宿に置いてきております」

「……危なくない? 」

「荷物を持って依頼を受ける方が危ないので。きちんとしてくれている所みたいなので大丈夫かなと」


 どこか自身気にそう言うレナ。

 危なっかしいなと思いながらも口を閉じる。

 僕が注意する程でもないな。


 彼女について歩いていると立ち並ぶ建物の様子が変わった。

 今更だけど……どこに向かっているんだろう?


「宿に向かっています。そこで昼食を取ろうかと思いまして」

「宿か。そう言えば僕はお昼まだだったね」

「なら、遅い昼食なりますがアルト様もご一緒しませんか? 」


 少し言葉にまりながらも彼女が提案してくれた。

 好都合だ。丁度ちょうどお腹も空いていたし、宿も決めていない。

 この町に来るのは初めてだから、どの宿に泊まればいいのかわからない。

 彼女が泊っている宿は、少なくとも荷物をあずけることができるくらいには安全な宿みたい。

 空き部屋があったら一緒に泊まろう。


「行きましょう」


 彼女の言葉に答えて着いていく。

 そしてそのまま一けんの宿が見えて来た。


 ★


「お帰りなさい。レナちゃん」

「ただいま戻りました」


 レナについて行くと煉瓦れんが状の建物に着いた。

 彼女を先頭せんとうに簡単な両開きの木製扉を押して中に入る。

 すると幾つかの机と椅子が目に入り、奥に一つの受付台が見えた。


 少し足を進めると僕達が来たのを感じ取ったのか、奥につながる廊下ろうかから宿の人と思しき夫婦がやって来た。

 レナの顔を見ると笑顔になって挨拶を。

 そして僕の存在に気が付いたのか、ムキムキの男性が茶化ちゃかしてきた。


「後ろの坊主はボーイフレンドか? 」

「ち、違います、店主さん! 」


 男性の言葉に慌てて否定するレナ。

 確かに違うんだが、そこまで強く否定されると傷つくな。

 レナが否定している時に僕が軽く咳払いをした。

 そして空き部屋が無いか聞いてみる。


「おう。あるぞ。泊っていくか? 」

「ええ。一つお借りできればと」

「待ってな」


 ムキムキな男性が受付に行って帳簿ちょうぼのような物を取り出した。

 レナと奥さんが話している間に僕は彼について行く形で移動する。

 奥さんじゃなくて、この人が受付なのか?

 用心棒のような体つきをしていて事務職とは恐れ入る。

 帳簿と羽ペンを僕に差し出し、記載をうながした。


「で、本当の所はどうなのよ」


 僕が名前を書いていると店主さんが聞いて来た。

 目を向けずに聞き返す。


「……何がですか? 」

「レナちゃんとだよ」


 言わんとしている事は分かるが、本当に何もないのでそのまま伝える。


「なんだ、つまらねぇ」

「いえ、面白さを求められても」

「若いんだ。冒険者同士の色恋いろこいに一つや二つあってもおかしくないだろ? 」

「それ以前に彼女は聖職者ですが」


 と書き終えた紙を出しながら言う。

 すると店主が受け取り台の下に入れた。

 椅子があるのか背を低くして、台にひじをついて、あきれたように言った。


「んなもん関係ねぇよ。そんなこと言ってたら聖職者全員が結婚一つ出来やしねぇ」

「確かにそうですが……、少なくとも僕と彼女はそんな関係ではありませんよ」

「お前さんから見てレナちゃんはどう思うよ」

「さて。今日あったばかりなので何とも」


 そう言い店主に背を向けた。


 女性陣は話を終えたようで解散していた。

 宿の奥から少し良い匂いがただよっている。

 ここにいない奥さん料理をしているのだろう。

 レナを探して周りを見渡す。するとレナは椅子に座っていた。


「アルト様。こちらです」

「今行く」


 大きく元気に手を振るレナに応じて机に向かう。


「……本当に違うんかねぇ」


 後ろから何か聞こえてきたが、気にしない。

 一先ず遅い昼食をとるために席に着いた。

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