「一族の恥さらし!」と言われ追放された僕はレアスキル【叡知の魔導書】で無双する~初級魔法一つしか使えなかったスキルが魔石で覚醒し空想魔法を使えるようになりました~

蒼田

第1話 アルトは追放される

「アルト! お前をこの家から追放する! 」

「出て行け! 一族の恥さらし! 」


 その言葉に僕は愕然がくぜんとした。

 え? 追放? なにを言って......。

 口をパクパクさせていると、やたら豪華ごうかな机の前で父『ザック・レギナンス』がつばを飛ばしながら言った。


忌々いまいましいあの女も死んだことだ。これでようやくこの家から無能を排除できる」


 それを聞き真っ白だった頭に血が上る。

 赤い絨毯じゅうたんみつぶすように前に出た。


「母上の事を馬鹿にするな! 」

「それはお前が無能なせいだろうがっ! 」

 

 顔を赤くし怒る父上に一瞬ひるむ。

 しかし母上の事を馬鹿にされて僕も黙ってはいられない。


「僕のスキル『叡智の魔導書メーティス』はまだ検証けんしょうしきれていません! 時間があれば——」

「今日、エルドが『賢者』スキルを授かった」


 父上が言うと僕の顔から血の気が引く。それを感じてか隣の少し小太りな弟『エルド・レギナンス』がいやらしい笑みを浮かべて僕を見た。

 そんな、賢者スキル?!


「これでわかっただろう? このレギナンス伯爵家は代々賢者スキルを発現させた者が代をぐ。もしアルト、お前が賢者スキルをさずかっていたのなら話は違ったのかもしれないが現実は違う」

「この伯爵家は俺が盛り上げて行くからよ。安心しな」

 

 ニヤニヤとしながらボソボソと呟くと片手に黒い炎を出す。

 あれは漆黒の炎ゲヘナ・フレイム?!

 賢者スキルを手に入れたというのは本当なのか。


「それとも一層の事俺の従者じゅうしゃでもするか? それなら死なずに済むかもな」


 更に炎を大きくさせて顔をゆがませた。

 しかしそれを父上が手で止める。

 エルドは不快そうに父を見上げるが、それをかえさず僕に向いた。


「エルド、やめておけ。わしも今すぐここで火あぶりにしたいのは山々だ。しかし流石にていが悪い。よって魔の森への追放を言い渡す! 」

「ちっ。まぁいい。これからは俺が伯爵家のあと取りだ。魔の森でみじめに食われて死んでしまえっ! 」


 ははは、という不快な声が部屋に響く。

 こうして僕『アルト・レギナンス』は、家名を捨てた。


 ★


 カタコトと音が鳴る。

 目に映る星降りの挿絵さしえから目を放し、窓の外を見る。

 もうレギナンス伯爵領は出たようだ。


「こんな時も勉強ですかい? 」

「気をまぎらわしているだけだよ」


 窓から正面の騎士に目を移して答えた。

 部屋を片付けて出て行けと言われたので本を持って出て来たわけだ。

 これらは母上が買ってくれた大事な本。

 母上は「知識は裏切らない」と言っていたけれど、今回ばかりは信じることが出来そうにない。


「はぁ。それにしてもむくわれねぇですね」

「仕方ないよ。エルドに賢者スキルが発現したんだから」

「神様も不公平なことをなさる。珍しいスキルとはいえ、扱い方すらわからないちんちくりんなスキルをアルト坊ちゃんに渡すとは」

「こらこら。流石にそれはまずいよ」


 苦笑いを浮かべながら「顕現けんげん」ととなえてスキルを発動させる。

 すると目の前に一冊の魔導書が浮かび上がった。


光球ライト


 唱えると目の前に金色に光る魔法陣が浮かび上がり、光球が一つ浮かび上がった。

 それを見て騎士の男は軽くほほゆるませて僕を見た。


「いつ見ても見事なもので」

「それは嫌味いやみ? 」

「違いますよ。魔法が使えない俺達からすれば家宝かほうもんでさぁ」

「そうかな? 」

「ええ、そうです。もしこの光球ライトがあれば野営の時に役に立ちやす。無駄に火を使うこともありません。遠く離れた場所と連絡を取る時、アルト坊ちゃんみたいに光量こうりょうを操作できるのであれば、すぐに異常を他に伝えることができやす。単なる初級魔法一つでも俺達騎士からすれば戦略を大きく変えることのできる、貴重な人材。それを——」


 また説法せっぽうが始まった。それを苦笑いを浮かべながら僕は彼の事を思い出す。

 彼は母上がレギナンス伯爵家にとついでくる時に連れて来た騎士の一人。

 僕が小さな頃から世話をしてくれている人の一人だ。


 彼が言っている事は分かる。しかし、ことレギナンス伯爵家においてはそのようなことは些事さじであり、当主を受けぐには賢者スキルか、それにじゅんずるスキルをなければならないのも確かで。

 不本意ながら、本当に不本意だがエルドに賢者スキルが発現してしまった以上僕が出来ることは殆どない。

 可能性があるのならば、この希少な叡智の魔導書メーティスというスキルを解明し、自在じざいあやつることが出来れば話は違ったのかもしれないが、今となってはそれもかなわないわけで。


「——って聞いてますかい? アルト坊ちゃん」

「聞いてるよ」


 本当か? と疑うような顔を僕に向ける。


「ったく何で軍部の旦那がそのことを理解していないんですかね? 理解していりゃぁ追放じゃなくて軍に配属させると思うんですが」

「軍部と言っても事務方だからね。馬に乗って戦場をけるわけでもないし」

「はは。これはうめぇ。確かにあの体で馬は乗れねぇですね」

「そう言う意味じゃないんだけどね」


 僕がそう言うと彼は続ける。


「奥様方のいざこざは置いておいても、剣を使えるアルト坊ちゃんを追放するとか馬鹿じゃないですかい? 軍に入って、それこそ功績を上げればあのデブのかぶも上がるでしょうに」

「……剣が使えるっていっても教養程度だから」

「何ご謙遜けんそんを。幼馴染殿と一緒に剣豪『カイ・ガンフィールド』と切り合ってたじゃないですか」

「それでもだよ。レギナンス伯爵家では剣は意味をなさないから」


 肩をすくませ言う。それと同時に馬車が「ガタン」と少し浮いた。

 騎士の男も気が付いたようで顔を引きひきしめる。


「......どうやら着いたようで」


 そう言いながら扉を開ける。

 どんよりとした暗い雰囲気が馬車の中に入る。

 寒気さむけがするような、そんな空気に体を震わせながらも、外の出る。

 この先は危険地帯。

 せめて恩ある彼らをこれ以上危険にさらすわけにはいかないからね。


「……アルト坊ちゃん」


 悲痛そうな顔を騎士達が僕に向ける。

 そんな顔をしないでよ。僕も悲しくなるじゃないか。

 そう思っていると一人の騎士が前に出た。


「アルト坊ちゃん。これを」

「携帯食と短剣? 」

「ええ。ここは魔の森でございます。誰も食事を作る者はおりません。なので——」

「……ありがとう。嬉しくいただくよ」


 カラ元気だけど、彼らに笑顔を浮かべて受け取った。

 不安がないと言えば嘘になる。

 怖くないと言えば嘘になる。

 だけど僕が森に入らないと彼らが処罰を受けることになる。


「皆。元気で」

「可能なら。次お会いできる日をっ! 」

「皆の者。敬礼!!! 」


 バッと音がし、つられて僕も敬礼した。

 少し時間が経つと、その奇妙きみょうなやり取りに、少し時間が経つと耐えきれなくなり「ははは」と笑い声が上がる。

 そんな彼らに手を振り森へ向く。


 そして僕は魔の森に足を踏み入れた。

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