第22話 アルトは実家の話を聞く

 アイリ・ガンフィールドが冒険者になって少し時間が経った。

 今の彼女のランクはE。

 パーティーを組んでいたということもあるが、彼女はハイスペック幼馴染様。

 ギルド内でも高速でランクをけあがっているが、不満そうに僕の方を、ここ宿の一階で見せていた。


「アルトに負けるなんて」

「いや僕の場合は初手しょてがミノタウロスだったから」

「そんななぐさめは良い!!! 」


 ドン! と果汁酒を置いて口元をぬぐう。

 貴族令嬢がするような酒の飲み方じゃないが、気にしたら負けだ。

 

 この国では十五から酒が飲めるようになる。

 恐らくだがエリック様が一緒に飲みたくて酒を飲ませた可能性がある。


われているのでしょうか? 」

「いやしらふだと思う」

「こ、これでですか? 」

「ガンフィールド公爵家については気にしたら負けだからな」


 そう言いながら少し窓の外を見る。

 そこには月明りが見えるのだが、僕にはわかる。

 誰かがそこで隠れているのを。


「お前達も飲むか? 」


 おいアイリ!


 アイリが空気を読まずに窓に向かって言う。

 少し気配がざわつくが、何事もなかったかのように「シーン」とした。


「そうか。残念だ」


 やめてあげて! 彼らは仕事中なんだ!


 アイリの言葉にレナが首を傾げて僕の方を見る。

 なにを言っているのかわからないと言った表情で口を開いた。


「アイリはやっぱり酔っているのでは? 」

「あ~、いや。あ~」


 青い目線から目をらして気まずく笑う。

 そんな僕を不審ふしんげに見るも奥さんに向かって水を頼んだ。

 まだアイリに慣れていないのかいつも強気な奥さんがおどけた様子で水を置く。

 彼女が去るとアイリが豪快に一気飲みした。


「ぷふぁ! うめぇ」

「……残念な方向に成長したな」

「なんだと? これでも淑女しゅくじょだ! 」

「淑女? ……ふっ」

「笑ったな?! 」

「いやだって淑女はそんな酒とか水の飲み方はしない」

「それは淑女に夢を見る男の幻想だ」


 いやいやこんな淑女はいないと思う。

 どこかの山賊の女かしらくらいにしか見えない。

 どこでどう教育されたらこう育つのか全く分からない。

 師匠が何かしらしたのは想像つくが、本当に山にでも放り出したんじゃないか?


「お酒はここまでにしておきましょう」


 レナがそう言い酒を下げる。

 そしていつの間にか机の上に一枚の紙が置いてあった。


「……顔を見せろ、か」


 それを拾い上げて中を見るとそこには見覚えのある文字でガンフィールド公爵ていに来るように書かれていた。

 気配は感じるも姿は見えない。

 やはりプロだなと思いつつもアイリに向く。


「エリック様が帰ってこいだとよ」

「む? 早くないか? 」

「アイリからすれば早いかもしれないが、エリック様からすれば十年くらい経ったと感じているんじゃないか? 」

「そんな大袈裟おおげさな」


 アイリがめんどくさそうに言うが、僕は冗談を言ったつもりはない。

 その昔一日離れただけで「娘欠乏症」なるものを発症して暴れていたのを見たことがある。

 これは引きってでも帰らないとエリック様が暴走しかねない。

 と思いつつも手紙に再度目を通す。


「……早めにお願いします、か」


 はしの方に付けしたみたいに書かれていた。

 これはヘリア様だな。

 恐らくもうすでに「娘欠乏症」を発症しているのかもしれない。


「アイリ。明日出発するぞ」

「えええ~。明日も依頼を受けたいんだが」

「諦めろ。それとも冒険者ギルドにエリック様がやってくるということになっても良いのなら別だが」

「よし明日向かおう! 」


 アイリが席を立ち意気込む。

 その様子を微笑ましく顔をゆるめながらちらりとレナを見た。

 彼女も笑顔を浮かべている。


 最初はどうなるかと思ったけれど、問題なくアイリとレナは打ちけた。

 仲良きことは良い事だと思いながらも明日に向けて早めに寝た。


 ★


「アイリィィィ……ごふぁ! 」


 公爵邸に着くなりエリック様が吹き飛んだ。

 アイリの渾身こんしんの一撃が火をいたのだ。

 しかしエリック様も慣れているようで、すぐに立ちあがり僕に向いた。


「アルト君。少し話があるのだが、良いかい? 」


 少し真面目な顔を作りエリック様がそう言った。


 エリック様を先頭せんとうに公爵邸を行く。

 きらびやかな内装ないそうを通り、大勢の使用人達に頭を下げられながらもエリック様の書斎しょさいに入る。

 初めて入る部屋に警戒しながらも、すすめられるまま席に座るとエリック様は僕に言った。


「君からすれば思い出したくないことかもしれないが、一応伝えておいた方が良いかと思ってね。今日来てもらったのは、君の元実家『レギナンス伯爵家』の事だ」

「アイリ関係じゃなかったのですね」

「……君が私の事をどう認識しているのか非常に気になる所だが、今はそれどころじゃないからやめておこう」

「それどころじゃない? 」


 僕がオウム返しをすると大きくうなずくエリック様。


「つい先日の事だがレギナンス伯爵家から大量の離職者が出た」

「!!! 」

「理由は、当時騎士だった男の殺害らしい」

「騎士の殺害?! なにをしているのですか、あの家は! 」

「私にもさっぱりだ。帰って来た諜報ちょうほうからの情報によると、レギナンス伯爵家の次兄『エルド・レギナンス』が騎士宅に押し入り家ごと燃やしたとか」

「……『賢者』のスキル」


 ポツリと呟き少し考える。


 賢者のスキルを使えば簡単だ。

 だがわからない。

 何でそんなことを。


「何故そんな凶行きょうこうに走ったのか。正直理解が出来ないが、元騎士の一部から聞くと殺害前に訓練があったそうだ」

「訓練? 」

「あぁ。何でもスキルを使いこなすためのものだったとか。それでエルドは滅多めった打ちにされたらしい」

さか恨み? 」

「その可能性は高いだろう。だがそこまで過激な性格だっただろうか? いやそもそも訓練をするような性格ではないと聞いているのだが」

「その通りですね。確かにエルドはプライドが高かったと覚えています。しかし騎士に向かって行く度胸どきょうのある人物とは思えません」


 強欲で傲慢ごうまん。それがエルド・レギナンスだ。

 しかしながら「努力」と言う言葉からほど遠い人物で、痛い目を見るのがわかっている所に飛び込むような人物ではない。

 強制されても訓練なんてしないだろう。


 それが訓練?

 ありえない。

 幾ら『賢者』のスキルを得たからと言って、近距離戦闘がメインの騎士と訓練なんてありえない。

 百歩譲って遠隔えんかくからの射撃訓練くらいだ。


 僕とエリック様が話していると突然部屋にノックの音が響いた。

 返事をすると薄い服を着た人物があわてた様子で入って来る。


「た、大変です! レギナンス伯爵領で、あ、悪魔が発生しました! 」

「「なに?! 」」


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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