第6話 ランクとは?
ランク7を誇る師匠は、めちゃくちゃ強かった。
ただ人の住む街か村への移動と常識の勉強、魔力操作の訓練だけじゃ退屈だと師匠が言い出し、何故か急遽模擬戦をしようという事になったんだ。
そこまでは良かった。
想定外だったのは、見た目は綺麗な美魔女な師匠が、ナノマシンで強化された俺よりも遥かに高い身体能力を持っていた事だ。
これがランク1とランク7との差なのか、スピード、パワー共に及ばない相手と相対するのはいつ以来だろう。
あれはまだ子供で、ナノマシンの融合パーセントが低かった頃の俺が、ジジイにヒグマと闘わされた時以来か。
あの時も何度も死ぬかと思ったけど、あの時以上の危機感をビンビンと感じている。
ドガッ! ビュン! シュバッ!
師匠の動きを先読みして避け、力を受け流し反撃する。
空気の流れ、気の流れ、魔力の動きを全身で感じとる。
師匠の戦い方は、女性らしくないと言うか、豪快と言うか、何だか大雑把だ。
ステータスは圧倒的なのに、この世界では武術の理が発展していないのかもしれない。
この世界では、敵は人型や四本足の獣だけじゃなく、バリエーション豊富な魔物も含まれる。
そうなると、対人戦に於いて、長い歴史と経験に基づいた武術が生まれなくても不思議じゃない。
ひとつ間違えれば、掠っただけで骨が折れ皮膚が抉れる師匠の攻撃を、俺は積み重ねた技術で捌く。
必死の模擬戦を終えて地面に大の字になって荒い息を調える。
ナノマシンの割合が増えてから、こんな短時間で疲れるなんて初めてだ。体力的には、まだまだいけるが、神経が擦り減った感じだな。精神的に疲れた。
「ハッハッハッ! 楽しいなシュート。お前の保つ武術の理は実に興味深い。私が更に上に行けると確信したぞ!」
「ハァ、ハァ、ハァ、元気すぎだろ師匠。どんどん強くなりやがるし……」
「ハッハッハッ、これもシュートのお陰だな」
師匠の言うように、模擬戦の途中から師匠は俺の動きを学びだし、どんどんと強くなっていた。その相手をする俺の気持ちにもなれって言いたい。
「だいたいランク1のシュートが、ランク7の私とまともに模擬戦を行える時点で、どれだけシュートが出鱈目な存在なのか自覚しろ」
「ハァ、ハァ、そうなんだろうな」
ランクの一つの違いは、とても大きいらしい。俺がランク4のキラーラビットを狩れるのは、ナノマシンの所為で、ランク0の範疇に収まらない身体能力に加え、潜り抜けた修羅場の数、様々な武術の術理、マジックアイテムと化したグルカナイフの性能のお陰だろうと師匠は言う。それでも普通はあり得ないらしい。
「本来、ランクを上げるのには長い時間と鍛錬が必要さ」
「師匠がランク7っていう事は?」
「私はエルフの血が入っているから見た目通りの年齢じゃないからね」
「へぇ~、エルフって居るんだ」
「シュートの世界には人種しか居なかったんだね。この世界には人族以外にも色々と居るのさ。まぁ、混じりっ気のない純粋な人族なんて、ほとんど居ないだろうけどね」
純血の人族って響きだけで、厄介そうな匂いがプンプンとしているな。
「話が逸れたね。ランクを上げるのには時間がかかるが、手っ取り早い方法があるのさ」
「闘いだな」
「その通り。しかもランクの高い魔物を狩ると上がりやすいのさ。ランク0のシュートが、ランク4のキラーラビットを何匹か狩れば、当然上がるって事だね」
ランクアップすると確かに実感する程身体に変化はあるが、それ程劇的なものじゃない。師匠曰く、成長限界の蓋が一つ取れたと世間では言うらしい。
実際、俺も師匠との模擬戦で体のキレがどんどん良くなっていた。
「こんなに短期間で続けてランクアップするなんて普通は有り得ないんだけど、シュートには村に着く迄に、あと最低でも一つ、出来れば二つランクを上げてもらうからね」
「いや、ランクを上げるには長い時間がかかるって自分で言ったじゃないか」
「ランクの高い魔物と戦えば、早く上がるとも言ったね。まぁ、殺し合いじゃないからそれ程でもないが、私との模擬戦もしっかりと経験値になるからね」
「げっ……」
師匠の見立てでは、俺がランク3になれば、世間のランク5や6が相手でも負ける事はないだろうと言う。
弟子として、師匠の仕事を手伝うには、高い戦闘能力が必要なんだとか。
あれ? 師匠は移動神官で、一応司祭という高い立場の筈だったよな。
神官に戦闘能力が要らないなんて言わない。
師匠から聴くこの世界は、そこらじゅうに危険が満ち溢れているのだから。特に移動神官なんていう事をしているなら戦闘能力は重要だろう。
でも師匠はランクの6は、大陸でも一握りだと言ってたよな。
それに匹敵する力なんて、神官の弟子には過ぎた戦闘能力だと思う俺は間違っているのだろうか? しかも師匠はランク7だよな。
「その変わったナイフは強力だけど、シュートの武器も調達しないとね」
「大きめの街で買うのか?」
一応、あらゆる武器の扱いに精通していると自負しているが、この世界独特の武器なんかがあるかもしれない。そう思うと少しワクワクするな。
そう思ってたんだけど、師匠の応えは違った。
「いや、私専属の鍛治師と錬金術師が居るのさ」
「師匠専属ですか?」
「本当はハンターギルドと教会組織専属だったんだけど、気に入らない客には打たないって頑固者だからね」
「まぁ、職人は拘りがあって当然だと思うぞ」
職人に限らず、天才や鬼才とか呼ばれる人間は、変わったのが多いのはよくある話だ。飛び抜け過ぎているが、ジジイも天才なのは間違いないからな。
ほんの一日程度の付き合いだけど、イーリス師匠だって普通とは言い難いしな。
まぁ、ランク7の英雄が普通な訳ないか。
「そろそろ休憩も十分だろう。立てシュート。そうと決まれば、魔物を狩ってランクを上げ素材を収集、その合間に魔法の訓練と私との模擬戦だ。さあ、楽しくなって来たぞぉ!」
「……大丈夫かな俺」
ランク7になってから、実感できる程強くなるなんてなかった所為か、師匠のテンションがちょっとヤバイ。
それからの俺の日課は、早朝の魔力操作の訓練から始まり、朝食後に師匠に魔法を習う。ただ、ここで師匠が適性を保たない属性はほぼ独学になる。それでも師匠には筋が良いと褒められている。まあ、これでも俺は日本人だと思うから、この手の魔法なんてファンタジー要素は合うんだろう。
その後、魔物を積極的に狩りながらの移動。
夕食後、師匠との模擬戦でボロボロになり、後は寝るまでの時間で魔力とオーラを練り瞑想。
多少の怪我程度、光魔法の練習で自分で治すから、余計に訓練が激しくなる。
流石に野営の見張りは交代にしてもらった。
幾ら俺が数日寝なくても平気だとはいえ、この濃密な鍛錬を続けながらの移動でまったく寝ないのはきつい。
それでも俺が受け持つ時間が圧倒的に長いんだけどな。
そして、そんな日が数日続くと、師匠がランクが上がるのは、蓋が開くんだと言った意味を実感する事が出来た。
自分で自分の身体のスペックに慣れるのに時間がかかる経験を、ナノマシンの注入以外で経験するなんて思ってもいなかった。
そして師匠は本当に俺のランクを二つ上げ、俺はランク3に至ってしまった。
正確には教会かハンターギルドにある魔導具で、身分証を発行してもらう時に測らないと分からないらしいが、そんなのランクアップの瞬間なんて間違えようもない。
俺の武器や防具を造る時に使う素材を集めながらの移動だったので、当初の予定以上に時間がかかったものの、漸く目的の村へとたどり着いたんだけど、俺たちを待っていたのは、望まないテンプレって奴だった。
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