第26話 古城はアンデッドの臭い
俺の魔銃作成に使うリストに有った素材を得る為に、ザーレさんと相談してルートを決めた。
まだ小さなリルに長旅はキツイだろうし、出来るだけ効率よく周りたいからな。
そして俺達を乗せた馬車は街道を走り、大昔戦争で滅び廃墟となった言われている都市へと向かっていた。
馭者席に座る俺の横に、チョコンとリルがルビーを抱いて座っている。
馬車から眺める景色を観るのが楽しいのか、鼻歌まで聴こえてくる。
馬車の中からザーレさんが話し掛けて来た。
「シュート、デュハランの情報は頭に入ってるか?」
「ああ、首なし鎧のアンデッドで、物理攻撃がメインだって事は分かってる。弱点は光(神聖)魔法だろ?」
「ああ、シュートなら簡単に討伐できる。何せ相性がいいからな」
ザーレさんが言ったように、物理攻撃メインのアンデッドは、俺にとって相性が良すぎる。
アンデッドに光魔法を撃ては、それ一発で終わるかもしれないからな。
デュハランは、元の世界ではアンデッドではなく妖精の類いだったと思うが、この世界のデュハランは死霊に分類されるらしい。
街道から外れ、嘗て街道だった荒れた道を行くとそれは在った。
そこはどんよりとした魔力が漂う陰鬱な廃墟。
「うわぁ~、ワラワラと居るな」
「にぃにぃ」
「大丈夫、怖くないよ」
馬車で廃墟となった街に入り、大通りを進むと、早速魔物の気配が近付いて来る。
しかもこの廃墟の街に居る魔物は、全てがアンデッドだ。
「ピィー!」
その時、リルが抱いていたルビーが口から光線を放ち、遠くからのそのそと姿を見せたゾンビを消滅させた。
「えっ!? ルビー、お前、そんな事も出来たのか」
「るびー、すごい!」
「ピィ!」
リルが怖いのも忘れてルビーを褒めると、ルビーも誇らしげに胸を張る。
「さすがフェニックスってところか。今のは神聖属性の光線だろうな」
「じゃあザーレさん、マリアさん、ルルースさん、リルを頼みます」
俺は馬車の守りをマリアさんとルルースさんに任せて、一番強い気配の方向へと駆け出す。
胸のペンダントを握ると黒い兎面が俺の顔を隠す。
廃墟の中心に、禍々しい魔力の気配を捕らえている。多分、あれがデュハランだろう。
「にぃにぃ! がんばってねぇ!」
リルに手を振り周辺のアンデッドに向け、神聖属性の範囲攻撃を発動する。
「ホーリーレイン!」
広範囲に光の雨が降り注ぎ、アンデッドが次々に煙を上げて形を保てず消えていく。
ゾンビやスケルトン、グールなどの実体のある魔物だけじゃなく、ゴーストやレイスなどの実体を持たない魔物も魔石を残して消滅する。ゴーストやレイスの何処に魔石が有ったのか不思議だよな。
俺はポッカリと空いた道を、デュハランらしき気配へ向け駆ける。
大通りの真ん中に、配下のアンデッドを引き連れ、黒い馬鎧を装備したスケルトンホースに跨った、漆黒のフルプレートに身を包んだ騎士が居た。
ただ、その騎士の兜は左腕に抱えられ、顔が有るべき首の上には、鎧から禍々しい黒い煙のような魔力が立ち昇っている。
デュハランが右手に持つロングソードで俺を指すと、一斉に手下のアンデッドが動き出す。
「ホーリーレイン!」
勿論、そんなのに付き合ってやる理由はない。
俺も素材集めで忙しいんだ。
ちゃっちゃと退治させてもらう。
範囲を拡げて放った「ホーリーレイン」で、取り巻きの大部分が昇天する。
「ホーリーアロー!」
それでも辛うじて残ったアンデッドに、光の矢をばら撒く。
「ホーリーレイン!」
ガシャンッ!
ダメ押しの「ホーリーレイン」でデュハランの乗る馬の方が先に昇天した。
そのお陰で、デュハランが地面に叩きつけられる。
それでも立ち上がり、ロングソードで間近まで接近した俺に斬りかかるデュハラン。
流石にランク6の魔物だけある。
弱点の攻撃を連続で受けても動けるか。
「残念、チャンバラごっこなら地獄で遊びな」
ドンッ!
ロングソードをかい潜り、胸へと神聖属性の魔力を込めた掌底を撃ち込む。
『グオォォォォーー!!』
カランッ! ガシャン!
鎧の胸の中心から波紋のように広がった神聖属性の魔力が、デュハランの全身へと浸透すると、禍々しい魔力が霧散し、その場でバラバラと鎧が分解され、兜が地面を転がった。
「相性が悪かったな。素材は使わせてもらうぞ」
生前は騎士だったんだろうか? とは言っても、俺のスタイルは正々堂々って感じじゃないからな。悪く思うなよ。
手早く落ちた剣や鎧に兜、魔石を回収すると、馬車まで急いで戻る。まだまだアンデッドは一杯いるからな。
道に落ちている魔石は後で拾えばいいだろう。
あのデュハランが、この廃墟のボス的存在だったのか、急激に禍々しい魔力が霧散して薄くなって来ている。
今も俺が走りながら「ホーリーレイン」をあちこちに撃ちまくっている所為もあるのか? アンデッドが消滅して魔物の気配が薄れていく。
俺が馬車まで戻って来た時には、戦闘らしき戦いは終わっていた。
マリアさんは、シスターだけあって、神聖属性の攻撃魔法でアンデッドを浄化し、ルルースさんは火魔法でアンデッドを焼いていた。アンデッドには神聖属性と呼ばれる光属性の魔法が効くが、火属性の魔法で焼くのも光属性ほどではないが効果がある。
「もう終わりそうだな」
「早かったな」
「ああ、神聖属性の攻撃に弱すぎるからな」
「にぃにぃ!」
馬車に近付くと、ザーレさんから声がかかる。
その馬車から小さな影が飛びついて来る。
勿論、ルビーを抱いたリルだ。
嬉しそうに抱きついているところを見ると、怖くはなかったみたいだな。
「あのねぇ、あのねぇ、ほねがうごいてたんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「うん。るびーがねぇ、まものをいっぱいやっつけたの」
「凄いなルビー」
「ピィ!」
リルが身振り手振りで説明する姿が可愛すぎる。とても此処がアンデッドまみれだった廃墟だとは思えないな。
「アンデッドの巣窟の雰囲気じゃないな」
「ははっ」
俺がリルを抱いて話し相手をしていると、ザーレさんが呆れた顔でそう言う。
「で、目的の物は手に入ったのか?」
「ああ、あとは途中の散らばる魔石を回収すればオーケーだ」
「りる、おてつだいする!」
「ピィ!」
抱っこしているリルが元気よく手を上げて、魔石を拾う手伝いをしてくれると言う。
その真似をしてルビーも片方の翼を上げる。
「マリアさんもルルースさんもお疲れさま」
「いえ、マリアさんは別にして、私はあまりお役に立てませんでしたから」
「そんな事ないよ。ルルースさんも火魔法で活躍したよ」
馬車を護ってくれてたマリアさんとルルースさんにも労いの言葉を言うと、ルルースさんの元気がない。
自分ではあまり役に立っていないと思っているみたいだけど、流石にアンデッドには神聖魔法の方が相性がいいから仕方ない。
この場合、リルと馬車を護りきったんだから十分だ。ルルースさんはリルの護衛で来て貰ったんだからな。
俺がそう言うと、ザーレさんやマリアさんの意見も同じだった。
リルが怖がらずにいれたのも、奴隷の時からルルースさんがリルを気遣ってくれてたからだと思う。
「どうしたの?」
「う、ううん。何でもないのよ」
リルが心配したのかルルースさんに聞くと、やっとルルースさんの顔に笑顔が戻った。
その後、全員総出で散らばる魔石を拾い集めて廃墟をあとにした。
次に向かうのは土竜の胆石だ。
モグラじゃない、土の中を棲家にするドラゴンだ。
ドラゴンにも色々と種類がいる中の下位の竜、劣化竜(レッサードラゴン)にあたる。
次は魔法オンリーじゃないと無理かな。
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