第31話 暴走する師弟

 ドンッ!


 荒野に何かが砕ける音が響く。


 ドガッ! ドガッ!


 ザシュ!


 炎が弾丸のように地面を抉り、鉄の弾丸が岩を砕く。


 氷の弾丸は破壊した岩を凍らる。


 黒いよく見れば神官風にも見えるコートを身に付け、その腰に巻かれた革製のガンベルトに、漆黒のボディに銀の装飾が施された魔銃を収める。


「想像以上にいいな」


 勿論、これはレーヴァティンのテストに、誰も近づかない荒野まで来た俺だ。


「そうだね。早撃ちがしやすいね」


 そして俺から少し離れて、素早く一発撃っては腰のホルスターに魔銃を収め、また素早く一発撃つのを繰り返すのは師匠だ。



 俺がレーヴァティンの性能試験をするのは当然として、ザーレさんが作った師匠用のガンベルトの具合を確かめる為に師匠もついて来ていた。


「威力はシュートのレーヴァティンが若干上だね」

「ほんの気持ち程度だけどな」

「だけどレーヴァティンは魔力を強引に溜め込んで撃ち出せるんだろ?」

「出来るけど、そうなるともう大砲だからな」


 俺のレーヴァティンはガンツさんとバルカさんが自慢するだけの魔銃だった。


 これからも普通に魔法は使うが、魔法を発動する際の諸々を取り除いて、魔力を流すだけで撃てるのは大きな利点だ。


 流す魔力の量で威力もある程度加減出来るのもいい。


 速射性に関しては、魔銃に勝てる魔法使いは居ないだろう。しかも射程も魔銃の方が遥かに長い。


 ただ、一度に二十本のファイヤーランスを射つなんてのは魔銃では無理な話だ。その辺は、普通に魔法を放つ方が自由度が高い。


「いや、そんな数のファイヤーランスを一度に射てるのは、極一部の優れた魔法使いだけだよ」


 俺が魔銃の優れた部分と、普通の魔法との違いを話していると、師匠から訂正が入った。


 普通の魔法使いは、ファイヤーランスは一本ずつ射つものらしい。


「しかし、シュートの属性切り替えは便利そうだね。残念だけど、私のフラガラッハは改造できそうにないからね」

「だよなぁ。ほんのちょっとの改造くらいなら出来そうだけど、どうなんだろうな」


 師匠がレーヴァティンの属性切り替えを羨ましいと言う。師匠のフラガラッハも神器級だから、改造と一言に言っても難しい。俺もレーヴァティンを造る手伝いをしたから余計に分かる。


「しかし、この抜き撃ちってのは楽しいね」

「だろ。相手は気付いた時にはもう殺されているなんて愉快だろ?」


 師匠はこの抜き撃ちがたいそう気に入ったみたいだ。


 ランク7のステータスも相まって、並の奴らなら気が付く前にあの世逝きだろうな。




 そこで俺は少し師匠と遊んでみようと思い付いた。


「師匠、的当てしないか?」

「おっ、面白そうだね」

「じゃあ、準備するぞ」


 俺は土魔法で標的を幾つも作る。


 威力を最小に絞った法撃で絶妙に壊れる強度で的を作る。


「じゃあ、私からやるね」

「どうぞ」


 師匠が待ちきれないのか、先にやらせろと位置につく。


 師匠はホルスターに、魔銃フラガラッハを収め、目を閉じ静かに精神を集中する。


 クワッと目を開けると、抜く手も見せずにフラガラッハを抜き放ち早撃ちで的を撃ち抜いていく。


 流石に師匠はフラガラッハを使い始めて長いので、一発も外す事なく的を全て破壊した。


 パチパチパチパチ


「おおっ、さすが師匠だな。魔銃の扱いは慣れてる」

「伊達に長年現場に出続けてる訳じゃないからね」


 ランク6になり、日々身体能力や魔力が鍛錬により成長している俺だから見えた早撃ちだ。


 そんな俺でもナノマシンがなければ、もう少し見辛かっただろう。


「よし! 次は俺の番だな」


 的を作り直して師匠が立っていた場所と交代する。師匠の時とは違い、的の位置を全方向にバラバラに配置する。


「ふぅ」


 息を吐き腕をダラリと下ろしてリラックスすると少し腰を沈め、レーヴァティンを抜き撃つ。


 ランダムに散らばる的に派手なアクションで撃ち続ける。


 脇の下から背後を狙ってみたり、ガンアクションを楽しんだ。


 最後にクルクルとレーヴァティンを回してホルスターに収めると、師匠がもの凄い勢いで俺に詰め寄って来た。


「シュート! ズルイじゃないか! なんだそのアクションはっ! 私にももう一度だ!」

「分かった、分かったって!」


 どうどうと師匠を落ち着かせて的を作り直す。どうやら派手なガンアクションが気に入ったようだ。




 それから日が暮れるまで、早撃ちだけじゃなく威力を上げてみたり、はしゃいでしまった。


「師匠、やり過ぎだよ」

「シュート、あんたには言われたくないね」

「いや、あのクレーターは師匠だろう」

「あちこち凍りついてるのはシュートの所為じゃないか」

「「…………」」


 もともと荒野だったからよかったものの、俺と師匠がはっちゃけた結果、あちこちにクレーターが出来上がり、そこかしこに地面が凍った跡が残っていた。


「帰ろうか」

「そうだね。そう言えばお腹も空いてきたよ」

「リルに何て言い訳しようかなぁ」

「素直に謝るんだね」

「そうするよ」


 留守番していたリルの機嫌をとるのに苦労したよ。


 拗ねたリルも可愛いんだけどな。



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