(二)-8

 輝彦がダイニングで椅子に座ってネクタイを緩めたところで、腰まである長い茶髪を揺らしながら美沙恵が寝室からやって来て、ダイニングに入るドアのところで化粧気のない疲れた顔で「お帰り」と言った。

「ビール、ある?」

「冷蔵庫に入ってるわよ」

「取ってくれ」

 輝彦は椅子の背もたれに斜めに寄りかかり、天井を仰ぎ見ながらそう言った。

「そのくらい自分で取ったら? 私だって赤ん坊と一緒で疲れてるのよ」

 そう言うと、美佐恵は「私、もう寝るから」と身を翻し、寝室に戻っていった。

 輝彦は洗濯物と子どものおもちゃが散乱するリビングのソファの上を眺め見ながら、深いため息をついた。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る