(二)-10

 さらに隣では後ろをチラチラ見る輝彦の顔をじっとにらみながら小声で「うざい」「きもい」等とぶつぶつ言ってくる女性がいた。二〇代だろうか。特に変わった所もなく学生にも見える。ボブカットの内側に赤に近い紫の色を入れているので、一般企業の事務職などのような仕事をしているようではなさそうだ。

 電車がブレーキをかけるたびに私の体が女性の方に移動し、彼女を押すようなかたちになってしまうのだ。

 他の乗客に押されてというのももちろんあるし、電車のブレーキが急というのもあるのかもしれない。しかしいずれにしたって、他の人たちだって同じ状況にもかかわらず、隣の若い女性は私の体が彼女の肩に触れるたびにぶつぶついいながら輝彦の腕を小突いてくるのだ。一体どういうつもりなのだろうか。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る