第27話 最強の切り札
俺とフロイのデュエルは大会主催者のゴーサインも出て、このスタジアムで行うことになった。俺は一旦スタジアムを出て控室でデッキの調整をしている。試合開始まであと25分。フロイは今のプロの世界ではトップクラスに強いデュエリストだ。勝つためには俺も全力を出さないとな・・・。
コンコンっと、控室のドアをノックする音が聞こえた。
「ユーグ、入っていい?」
「どうぞ」
ドアが開けられて入ってきたのはエリアルだった。彼女とは今日一緒にこのスタジアムに入ったはずなのになんだか久しぶりに顔を合わせたような気がする。それくらい色々なことが起こった。
「まずは、優勝おめでとう。よく頑張ったね」
「ありがとう、エリー。君が支えてくれたおかげで俺はプロになれた。これからもじゃんじゃん活躍するからな!でも自分で啖呵切っといてなんだけど、まさかいきなりフロイとデュエルするなんて思わなかったぜ。でもこのデュエルはプロとしてのデビュー戦だし思いっきり楽しんでいくぜ!」
「・・・・・ユーグ、無理してない?」
「・・な、何言ってんだよ?俺は無理なんか・・・」
「だってヘヴィメタさんに勝ってからずっと泣きそうな顔してるよ。今もそんな顔してる。私の前では我慢しなくていいよ・・・」
「バカ・・俺は泣いてなんか・・・ていうか、あれだけ努力してようやくプロになれたんだからもっと嬉しそうな顔してくれよ!入ってきたからずっと暗い顔してるじゃないか!俺は・・・エリーの為に頑張ったのに・・・」
「ごめんね、暗い顔してて。じゃあ・・これでいい?」
エリアルが急に俺を抱きしめてきた。お互い相手の顔は見えない。手に持っていたカードが落ちた。その一枚をエリアルが拾う。
「このカード濡れてるよ。・・・ユーグ、やっぱり泣いてたんじゃない?」
「・・・・・うん。本当はずっと泣きたかった・・・ヘヴィメタさんにとどめを刺すときも、観客に怒ってる時も、フロイと話してる時も、ずっと・・・」
「よく我慢したね。ここなら誰も見てないから」
俺はその後しばらくエリアルの胸の中で泣き続けた。もう感情の抑制ができなくなっていた。ここ数年分の涙を出し切るようにガキみたいに泣きじゃくった。
「俺さ・・・ヘヴィメタさんと全力で戦うって約束してたのに、いざ勝てるって所まできたら怖くなっちまったんだ。ヘヴィメタさんに嫌われたくなかった・・・。
でも、あの人はずっと俺が強くなることを望んでた。だからヘヴィメタさんを蹴落としてでも前に進まなきゃいけないって決心できたんだ。
そんな真似した奴が泣いてちゃいけない。俺がやったことを泣いて許してもらおうなんて虫が良すぎる。そう決めたんだけどな・・・」
「私はヘヴィメタさんじゃない。ユーグがどっちを選んでも嫌いになったりしない」
「スタジアムでは言えなかったけど、ヘヴィメタさんに謝るのはずっと先になりそうだ・・・・・」
「・・・・・私、ずっとユーグに謝りたかった。ユーグに私の夢を聞かれた時、あなたにプロになってほしいって言ったから、こんなつらいデュエルをやることになっちゃって・・・ごめんなさい」
「謝らないでくれよ。俺は自分の意志でプロデュエリストになることを選んだ。エリーに言われなくてもこの道を進んでたと思う。俺が理想とする『真のデュエリスト』になる為には、プロデュエリストになることは必須条件だからな」
「『真のデュエリスト』になれればあなたは本当に幸せになれるの?・・・こんな辛いことばっかりなら私はこれ以上応援できない!ユーグに・・幸せになってほしい」
「安心してくれ。俺がデュエルしてるのは自分が楽しみたいからさ。
絶対にエリーを悲しませるようなことはしないって約束する!」
「・・・うん、信じる。だって今のユーグは笑顔に戻ってるし。・・・ユーグは強いね」
「強くなんてないさ。俺みたいな弱い奴でも、支えててくれる人がいるから立ち上がることができた。もしエリーが来なかったらフロイとのデュエルをすっぽかして逃げてたかもしれない。・・・ありがとう」
「・・・そうだね。せっかくヘヴィメタさんからカード貰ったのに涙で濡らしっちゃったし」
「涙なんてすぐ乾くだろ。あの人に返す時には跡なんて残ってない」
「証拠隠滅ができてよかったね」
「うるさいなぁ」
エリアルも俺も笑顔に戻った。俺はもう大丈夫だ。
「よし!デッキはこんな感じでいいか!」
「結局調整する時間はほとんどなかったけど大丈夫?」
「まぁ、なんとかなるだろ。ありがとうエリー。君のおかげでいいデッキに仕上がった」
「私は何もしてないけど・・・」
「そばにいてくれるだけで十分だよ」
「・・・・・私も一応デュエリストなのに『アドバイスは必要ない』って言われてるみたいで微妙にムカつくんですけど」
「考えすぎだろ・・」
乙女心は複雑すぎてわからねぇ。
「冗談だよ。・・・ほら、試合開始までもう10分切ってるよ。急がないと」
「おう!」
「最後の試合頑張ってね!」
「おう!いっちょかましてくるわ!」
「いってらっしゃい!」
エリアルは客席に戻り、俺はスタジアムに向かう。
ありがとうエリアル、元気出たよ。
このデュエルがどんな結果になっても受け入れられる気がする。
エリアルにはひとつだけ訂正したいことがあった。ヘヴィメタさんから渡されたカードは、俺が手にした時にはもう濡れていた。きっとあの人も涙を流しながら俺に
ヘヴィメタさん、やっぱり俺は鬼にはなれなかったです。年下の女の子の胸の中で泣きじゃくった弱虫な俺は人を捨てるなんてできそうにないです。エリアルがいなければあなたを地獄に送った罪悪感に押しつぶされてデュエルなんてできそうになかったです。
でも、俺には仲間がいます。決して鬼には持つことができない
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