第16話 人生の分岐点
「あの時俺はプロデュエリストになると誓った。でも結局現実の壁にぶち当たってろくに結果も出せないまま諦めちまった。彼女との約束を守ることができなかった」
「でもマスターは精一杯頑張りましたよ!♡」
「フレシアちゃんありがとう。・・・・・でもわからない。なんで彼女のこと忘れてたんだ?失ったのは俺のつらい記憶のはず。ここまで見る限り彼女は俺にとって恩人じゃないか」
「気になるならこのまま見てみるといい」
「俺」はプロデュエリストになる夢を諦めた。だが彼女にプロになると言ってしまった手前むざむざと地元に帰ってそんな報告をするのが恥ずかしくなっていた。他の奴らにも知られたくなかったから地元に帰りたくなかった。だからと言って生きていくためには金が必要だ。デュエルだけが取り柄で勉強なんて全くやっていなかった俺には社会で働くなんてことはできなかった。そうなればデュエルで生計を立てるしか術はない。自暴自棄になっていた俺は「地下デュエル」に辿り着いてしまう。
そこで行われるのは今まで「俺」がやってきたデュエルとルールは一緒だが「俺」の常識を覆す光景が広がっていた。
勝者には称賛の歓声が送られるが敗者には致死量寸前の電流と嘲笑が浴びせられた。勝者にも観客にも敗者を心配する奴なんていない。
ドロップアウトした「俺」にはここしかデュエルを活かせる場所がなかったが、ここでのデュエルに魅了されていた。そこでしか得られない勝利の喜び、命を懸けてデュエルをするスリル、そしていくら敗者を罵っても誰にも邪魔されない秩序の欠落。
「ぐわーーーーー!!!!!」
今日も「俺」とのデュエルに敗れた奴の悲鳴を聞く。電流によって焼けただれた肌と肉が焼きつく焦げた匂い。ヒートアップする観客。「俺」はここでの異常なデュエルに満足気に笑っていた。
「俺」は電流を浴びて意識を失っている男の元に近づく。そしてその顔面を何度も蹴っていた。男の顔からは大量の血が流れているが意識を失っているから悲鳴も上がらない。
「思い知ったかブタ野郎!ざまぁねぇな!!ははははは!!!」
観客もレフリーも止めるどころかさらに歓声が大きくなっていた
「やめろ!!!」
俺は仲裁に入ろうとしたが俺の手は「俺」の体をすり抜ける。ここで俺はこれが過去に戻っているのではなくただの幻だと気づく。
「もう・・やめてくれ・・・・・」
「これが君が過去にやってきたことだ」
「ぐわーーーーー!!!」
「俺」がデュエルに負けて電流を浴びせられていた。観客は「俺」を見てゲラゲラ笑っていた。
「ざまぁみろ!」「さっさと引退しろ!」「さんざん人蹴ってきた報いだな!」
観客は「俺」に野次を飛ばし続けた。
これは26歳の死ぬ直前の「俺」の記憶。廃人のようにくたびれていて栄養失調なのか体は痩せ細っていたし顔つきもげっそりしていた。
病院に運ばれた俺は治療を受けたが長年の無理も祟って意識が戻ることなくそのまま絶命した。
「俺」は結局一度も彼女に会いに行かなかった。必ず帰るという約束は反故にされていた。待ち続けている彼女に約束を守らなかった罪悪感を感じることもなく・・・・・。
俺の死に際を見終わって元の真っ白な空間にもどってきた。
「全部・・・思い出したよ・・・俺の過去を・・・ちくしょう!!!なんで彼女を迎えに行ってやらないんだよ!プロ諦めるのは仕方ないにしてもせめて彼女には会って事実を話すべきだろ!俺はくだらないプライドのせいで彼女の気持ちを踏みにじった!そして謝罪の言葉もなく勝手に死んでいった・・・」
「すべては過ぎ去ってしまった事だ。いまさら後悔しても何も変わらない」
「俺は納得できないんだ・・・。彼女との約束を破って地下デュエルにのめり込んでたくさんの人を傷つけた。俺の生き方は悪魔みたいだった。こんな奴が過去を忘れて自分のことを誰も知らない異世界でのうのうと夢追っかけてたなんて笑わせるぜ・・・」
「マスター・・・そんなに自分を責めないで♡」
「こんな奴許さないでくれ・・・俺は最低なデュエリストで・・最低な人間で・・最低な男だった」
「君はプロになる夢を諦めその事実を告げずに黙っていた罪悪感から逃避するために彼女の記憶を無くしたようだな」
「そりゃ、ずいぶん都合のいい記憶の改ざんだな」
「彼女は君が帰ってくるのを待ち続けた。君の死の知らせを聞いて涙を流していた。その後も何年も悲しみながら過ごしていたようだがやがて彼女は結婚し家庭を持つようになった。今では3人の子供に恵まれ幸せに暮らしている」
「そうか・・・よかったよ。俺みたいなクズ男のことなんてさっさと忘れて別な男と一緒にいた方が幸せだろう。
ところで一つ聞きたいんだけどさ・・・なんで俺を選んだ?こんな奴が人生やり直して犯罪までしでかしてるけど人選ミスってるとは思わないか?」
「君と契約した時にも言ったが、君のデュエルは確実に磨かれていた。プロにはなれなかったが彼女に誇れるデュエリストになろうと必死だったのだろう。あの閉塞的な環境でも君は自分のデュエルを貫いた。『孤高』でありつづけた。だからこそ君を推薦したのだ。彼女の為に強くありたいという君の熱意を見てみたくなった」
「その彼女のことは忘れちまってたけどな・・・・・今思えば『ユーグ』として転生した俺のデュエルは全部彼女の受け売りだったような気がする。記憶はなかったけどデュエルを心の底から楽しむ彼女に憧れてたんだろうな」
「マスター、全部忘れちゃいましょうよ♡」
「・・・・・え?」
「つらい記憶なんてない方がいいに決まってます!全部忘れてまた一からやり直したらいいじゃないですか。そうだ!どうせなら楽に強くなれるようにスキルも付けちゃいましょうよ!転生する世界もあの世界じゃなくていろいろ用意してますよ♡」
フレシアちゃんはカタログみたいな冊子を出してきて俺に見せてきた。そこには様々な世界が載っていてたくさんの選択肢があった。「プロデュエリスト」、「
「マスターが望むならどんな世界にでも転生できますよ。私がどんなサポートでもしてあげます。つらいことなんて何もしないでプロデュエリストになることもできますよ♡」
「フレシアちゃん・・・・・」
こんな経験忘れちまったらどんなに楽か・・・。フレシアちゃんが提示する魅力的な世界に俺は心を奪われた。
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