第15話 「孤高」が生まれた日
「必ず帰ってくるから。待っててくれ」
「・・・・・うん」
俺はエリアルと約束したんだ・・・もう絶対に忘れたりしない・・・
・・・あれ?この女の人は・・・エリアルじゃない・・・誰だ?・・・思い出せない・・・ああ、またこの罪悪感・・・
なんだか手にぬくもりを感じる。花の香りが鼻孔をくすぐる。そこにいるのか・・エリアル・・。今起きるから・・
「マスター!良かったぁ!目が覚めたんですね♡」
「・・・・・なんだこの幼女!?」
知らない幼女が俺の手を握っていた!なんだこのハーレムラブコメみたいな展開!?
ピンク色の髪でやや薄着の衣装。男の欲情をそそるような妖艶な美貌。その見た目は「フレシアの蠱惑魔」そっくりだった。・・・違う!俺は決してやましい感情なんてないんだ!ないけど・・・・・
「君かわいいね~!いい匂いもするし~!ああ~ロリコンになる~!」
「わぁ!マスターに褒められて嬉しいです♡」
「・・・いや待て・・・俺はたしかおっさんの
「マスターの体は私が治療しておきました♡」
「まじかよ!フレシアちゃんのおかげで生き返ったのか!ありがとう!」
俺はフレシアちゃんの手を強く握り返す。
「フレシアちゃん?・・・もしかして私の名前ですか?マスターが名前つけてくれるなんて嬉しい♡」
「ところでマスターって俺のことか?別に君の
「私にとってはマスターなんです!私はマスターが大好きなんですよ♡」
「ええ?俺のことが!?」
「はい!食べちゃいたいくらいに♡」
「・・・え?俺食べられちゃうの?・・・」
「大丈夫ですよ。マスターの頑張ってるところが見たいんで生きてるうちは食べませんよ♡」
「・・・俺の死体は君の胃袋に入っちゃうんだ・・・遺書に『棺桶はいらない』って書いとこう・・・」
「もういいかね?君の仕事はもう終わりだと思うが」
「えぇーもっとマスターとお話したいです~♡」
おっさんが少し遠くからフレシアちゃんに話しかけていた。なんだよ趣味わりぃな、俺たちのラブロマンスを盗み見してたのかよ・・・いや、そうじゃなくて・・・
「おっさん、一つ聞きたいことがある」
「何かな?」
「もしかして俺の記憶は飛んでるんじゃないか?」
「ほう、気づいたか。その通りだ。君の記憶はあちらの世界に転生する際に一部は負の感情と共に分離した」
「やっぱりそうだったのか・・・さっき意識が戻る前に頭に女の人が浮かんできたんだ。顔も名前も思い出せないけど俺はその人に何か悪いことをしたような気がする。たぶんあの人がスクールの卒業式の時に感じた罪悪感と関係しているんだ」
「君は記憶を取り戻したいのか?」
「ああ、取り戻さなきゃいけない。何でかうまく説明できないけど・・・」
「だがそれは君にとってつらい記憶になるかもしれない。知ってしまったら君の成長の妨げになるかもしれない。それでも知りたいか?」
「ああ、どんな話でも受け入れる。教えてくれ」
「よろしい、そこまで覚悟があるなら今から見に行こう」
「・・見に行く?」
おっさんがそう告げた瞬間それまで階段しかオブジェがなかった白い空間が姿を変えた。どうやらおっさんは過去の世界に俺を招待してくれたようだ。この景色は・・・街?・・・そうだ、この街は俺が生まれた街だ。
俺たちは小さなカードショップに来ていた。そこでは数人の少年たちがデュエルをやっていた。どうやら大会をやっているようだ。
「まったく、どいつもこいつもしょうもねぇデュエルしてんなぁ」
少年たちがデュエルをしていたところに急に一人の少年がやってきてデュエル中にも関わらず罵詈雑言を浴びせ始めた。
「おい、俺も混ぜてくれよ」
「えーと、君は大会の申し込みはしてないはずだよね?」
「うっせーな。そんなメンドクセーことしなくてもいいだろ。こんな雑魚ばっかじゃ大会も盛り上がんねぇしな」
横柄な物言いをする少年は店員が静止するのも聞かずに飛び入りで大会に参加した。
その少年は中学生時代の「俺」だった。
「俺」はこんな無茶ばかりする奴だった。対戦相手を執拗に罵ったり申し込みもせずに大会に参加していた。そんな非行少年でもデュエルには勝っちまうんだからタチが悪い。両親にも学校の先生にも注意なんかされないから「俺」の悪意は増長するばかりだった。
「君はデュエルしてて楽しい?」
こんな質問をしてくる女の人が目の前に現れた。年齢は「俺」より少し年上・・高校生くらいか?屈託なく笑っている彼女に「俺」は忌々しげに答える。
「ああ?デュエルなんて勝つか負けるかだろ?デュエルが楽しいなんて言ってる奴はだいたい雑魚なんだよ」
「そうかな?じゃあ私とデュエルしてみる?」
「おう、やってやろうじゃねぇか。瞬殺してやるぜ」
「俺」は彼女に負けた。彼女のデッキ構成もプレイングも「俺」をはるかに凌駕していた。
「お前みたいなデュエルが楽しいとかほざく奴が『俺』に勝てる訳がねぇ。なんかイカサマしてんだろ!?」
「君失礼だね、イカサマなんてしてないよ。私はただデュエルを楽しんでただけだよ」
「これは何かの間違いだ!次はお前に勝つからな!」
「いいよ~何度でも相手になってあげる」
その後も「俺」は何度も彼女とデュエルをするが1度も勝てなかった。「俺」は負けた悔しさから何度も彼女と戦っていると口では言っていたが本当は違う。「俺」は彼女のプレイングに魅了され、デュエルを楽しむ彼女の笑顔に惹かれ、誰も相手をしてくれない「俺」にまっすぐ向き合ってくれる彼女の真摯さに惚れていた。
「なんであんたはこんなに強いのにプロデュエリストにならないんだ?」
「え?特に理由なんてないけど・・・私はデュエルを楽しめればそれでいいし」
「なら『俺』がプロになればあんたより強いって証明できるよな」
「そうかもしれないけど・・・君遠くに行っちゃうの?」
「へっ・・何寂しそうにしてるんだよ、あんたらしくねぇな」
中学を卒業後「俺」はプロデュエリストになるためにこの街を離れることになった。見送りに来てくれる人はいなかった。こんな非行少年誰も相手にしないだろう。
誰もが「俺」の夢を笑った。誰もが「俺」のことを馬鹿だと罵った。誰も「俺」の夢を応援してくれなかった。彼女以外は・・・
「絶対プロデュエリストになってね。私応援してるから・・・」
「・・・・・おう、ありがとう」
彼女は無理に笑顔を作っていた。彼女をこんな顔にさせてることに罪悪感を感じた「俺」は彼女の肩に手を置いてこう言った。
「必ず帰ってくるから。待っててくれ」
「・・・・・うん」
彼女はそっと「俺」を抱きしめてくれた。彼女は孤独だった「俺」の心を満たしてくれた。「俺」は帰りを待つ彼女のために強くなって絶対にプロデュエリストになってやると誓った。
誰にも期待されなくていい。誰にも必要とされなくていい。彼女がいるなら「俺」は「孤高」でありつづける。
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