第3章 孤高の魂編

第14話 運命の囚人

 ヘヴィメタさんが逮捕されてから2か月が経った。ここ最近は新聞も読まなくなったので処遇がどうなっているのかわからないが聞くところによるとヘヴィメタさんが有名なプロデュエリストということもあり裁判は長引いているという。でもどうせあの人は死刑になるんだ。潔白を期待しても裏切られるだけだ。俺はもう未来に何の希望も抱かない。あの人を見捨てた俺に未来を夢見る資格はない。



「ちっ・・俺の負けだ。さっさと金持っていけよ」

「どうも」

名前も知らない男が敗北に苛立ちながら賞金を俺に投げて寄こしてきた。

俺は地下の違法な賭博デュエルをして生計を立てていた。貯金はあったが稼ぎがなきゃいずれは底をついてしまうしここ最近は毎日酒を飲んでるから出費がかさむ。何の希望もなくただ毎日を無為に過ごす俺にとって酒は唯一の心のどころだ。意識が混濁するまで酔って嫌な記憶を一時的にでも消し去って眠りにつくのが今の俺にとって最高の贅沢だ。


 あれから警察の人間は俺の元にやってこない。ただハーピィさんをケガさせただけのヘヴィメタさんよりもテロリストの俺の方がよっぽど罪が重いと思うが、のろまなポリス共はまだ襲撃犯を見つけられていないようだ。まったく馬鹿な連中だぜ・・・・・


 いや・・・いっそのこと俺を逮捕して《法の裁き》で殺してくれたらいいのに。それで俺の人生を終わりにしてくれ・・・・・






 ここは・・・真っ白な空間に永遠に続くかのような階段が不自然に設置されている。そうか・・・俺は死んだのか。

 死ぬ直前の記憶はまったくないが酒で記憶が混乱してるんだろうな。ここのところの飲酒量は半端じゃなかったし。

 思い返してみればこっちの世界の生活は前世の俺とほとんど同じだな。プロデュエリストにはなったが志半ばでチームが解散してドロップアウト、その後は酒に溺れ違法なデュエルをして生計を立てる毎日。生活の為に嫌いなはずのデュエルを性懲りもなく続けている矛盾。ははっ・・ここまで共通点があると我ながら滑稽に思えてくるぜ。どうやら俺は人生をやりなおしても結局何も変わらない運命らしい。


 足音が聞こえてきた。ははっ・・またあのおっさんに会うことになるとはな・・・どうせ俺の無様な死に方をみて笑ってるんだろうな。自分の人生の総括を見られて笑われるのはやっぱり癪だし俺は目を閉じて奴の顔を見ないようにした。


「いつまで目を閉じてるつもりかね?」

足音が目の前で止まってからおっさんはそうつぶやいた。

「どうせ俺の死に様を見て笑ってんだろ?目ぇ閉じててやるから思いっきり腹抱えて笑えってんだよ・・・せっかく俺を推薦したのにとんだ出来損ないになっちまったな。ざまぁみろ、ちくしょう・・・!」

「別に笑ってなどおらんよ」

「へっ・・冗談だろ」

そう言いながら俺は目を開けた。おっさんは笑っていなかった。かといって俺に同情するわけでもなく叱責するわけでもなく無表情だった。

「それともう一つ訂正しなければいけないことがある。君はまだ死んでない」

「なに?じゃあなんで俺はここにいるんだよ」

「儂が個人的に君と話しておきたかったからだ。この世界の酒は君の体に多大な負荷を与える。どうやら向こうの世界から来た君はこっちの世界の酒に耐性がないようだ。君はおそらくあと数年で死ぬ」

「ふーん『神の警告』ってやつか?だったらどうした?俺はもういつ死んでもかまわねぇ」

「この世界に未練はないのか?デュエリストとしての栄光も、友との絆も、かけがえのない者たちとの愛も今の君にとっては無用の産物か」

「ははは・・・そんなものただのまやかしだ。どんな夢や希望を持っていても偶然や意図的な悪意で簡単に途絶えてしまうし、友情や愛なんて自分の身を守るためなら簡単に切り捨てちまうもんだ!こんな事実にたどり着くのに俺はもう40年以上使っちまってるんだよ!・・・俺はもう疲れたんだよ・・・いい加減開放してくれ・・・」

「・・・・・わかった。君がそこまで懇願するならもう終わりにしよう。君にとっても儂にとっても不毛な時間はもう終わりにしよう。すまなかったな、君にこんな残酷な運命を背負わせてしまって」

そう言うとおっさんは持っている杖を俺に向けてかざした。杖から光がほとばしりバチバチと音を立てながら次第に大きくなっていく。おそらく神のいかずちでも放って俺を殺す気だろう。ふぅ、ようやく楽になれる・・・。


 脳裏に俺が出会った人たちの顔が浮かぶ。これが走馬灯ってやつか?


 ヘヴィメタさん、俺はあなたよりも先に逝くことになりそうだ。あなたを見捨ててしまってすみませんでした。もしあの世で会えたらさかずきでも交わしましょう。


 父さん母さん、俺を育ててくれてありがとう。あなた方と暮らしていた日々は本当に幸せでした。罪を犯してしまったことを許してください。


 クロス先生とスクールのみんな、一緒にデュエルできて楽しかったぜ。俺が心からデュエル中に笑顔になれたのはみんなとデュエルしてた時だけだったよ。

 

 エリアル、俺のこと好きになってくれてありがとう。俺に愛を教えてくれてありがとう。俺に笑顔を見せてくれてありがとう。俺の支えになってくれてありがとう。俺のこと待ってくれていて・・・

 



 エリアルはずっと俺のことを待っていてくれている!今だって俺が帰ってくるのを待っていてくれているじゃないか!俺は自分の都合ばかり考えて約束を守れてないじゃないか!!

 だめだ死ねない!こんな所で死ねない!今すぐエリアルに会って今まで帰らなかったことを謝らなきゃいけない!今の俺を見て幻滅されようが軽蔑されようが関係ない!もう運命に身をゆだねて現実から目を背けたりはしない!

「待っ・・」

俺の言葉をかき消すようにいかずちが俺の体を貫いた。間に合わなかった・・・


嫌だ・・俺は・・死にたくない・・・・・!


 

 


 

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