第32話 運命のラストドロー!

 フロイの場には攻撃力3800の《月影賢者げつえいけんじゃ―ゴッドアナライズ》がいて、こいつの効果で俺がドローするカードはフロイにもバレバレ。そして《フューチャーデリート》の効果でドローしたカードは名前を言い当てることでゲームから除外される。もし外せばフロイは2000ポイントのダメージを受けることになるが、確認してから名前を宣言するから外す訳がない。さらに《背徳の血統》の効果で戦士族モンスターで攻撃してもダメージを与えられない。

 そして俺の場のモンスターは《七星の首飾り》を装備した《重機装甲ヘヴィメタル―ガトリングドラゴン》一体だけ。そして手札は《イレギュラーバトル》一枚だけ。このカードは発動ターン互いに受ける戦闘ダメージが0になりモンスターも戦闘で破壊できなくなるが、戦闘する自分のモンスターの攻撃力が変化している場合変化している数値分のダメージを相手に与える効果がある。つまりガトリングドラゴンで攻撃すれば《七星の首飾り》の効果で上昇した700のダメージをフロイに与えられる。

 だがそれをやってもフロイのライフはまだ750残る。次のターンが来れば攻撃力3800のゴッドアナライズの攻撃でガトリングドラゴンは破壊されてしまう。そうなれば俺の場にも手札にもカードが無くなる。ドローフェイズに引いたカードは除外されてしまうから、カードを失った俺には打つ手がない。

 それでもまだ希望はある。《孤高の意志》のもう一つ効果でもう一枚デッキからカードを引くことができる。だがこのたった一枚のドローで戦況を変えられるのか?

やっぱり俺の実力じゃフロイには勝てないのか・・・・・


「ユーグに打つ手はないのでしょうか!?立ち尽くしたまま微動だにしません!」

客席がざわついてきた。このままだと遅延行為ってことになりそうだ。これ以上恥をかく位ならいっそ降参サレンダーした方がましだな・・・



「ユーグ!!最後まで諦めちゃダメ!!」

客席から声が聞こえる。声の方向に目を向けるとエリアルが立ち上がって俺を叱咤していた。

「皆期待してるんだよ!!こんなところで諦めるなんてユーグらしくない!!私はユーグが絶対勝てるって信じてる!!」

客席が急に静まりかえった。エリアルの大胆な告白に皆驚いているんだろうな。最も一番驚いてんのは俺だけどな・・・・・

まったく、こんな状況で「期待してる」だの「信じてる」だの言われたら諦めることすらできないじゃないか。勝手を言いやがる・・・・・


思えば俺の周りの人はこんな勝手な奴ばっかだったな。

まだ生後間もない俺を神童とかもてはやしてた両親。飛び級で入学してきた俺に嫉妬してたクラスメイト。初対面の俺に酒を奢らせるヘヴィメタさん。せっかくデュエルを教えようとしてるのに反抗ばっかしてたエリアル。どいつもこいつも自分勝手で気苦労が絶えなかったぜ・・・・・


でも、そんな人達がいたおかげでこんな大観衆の中でも自分勝手にデュエルができそうだ。

勝敗がどうなろうが観客が野次を飛ばそうが関係ない。

デュエルを最後まで諦めない。デュエルを全力で楽しむ。自分が理想とする真のデュエリストを目指す!そして・・・・・

「フロイ!このデュエルが終わる前に最後に一つ無駄話をしてもいいか?」

「こんな時に何だ?」

「俺はデュエルが大好きだ!こんな戦況になっても魂が燃えたぎってる!自分が持てる力を精一杯出せてすっげー楽しいぜ!

でも一つだけ心残りがあるんだ。俺はまだフロイのことをよく知らない。このデュエルで無駄話をしていたのはきっとお前と仲良くなりたかったからだと思う」

「デュエルは勝者と敗者を分かつために行うもの。観客まで集めておいて親睦を深めるためにデュエルをやるなんてずいぶん勝手な奴だな」

「そうだ、俺は勝手な奴なんだよ。お前のことを知って仲良くなりたい。デュエルを楽しみたい。そしてこのデュエルに勝ちたい。全部の願いを叶えて俺の華々しいデビュー戦は完成するんだ」

「お前は勝手で強欲な奴だな」

「強欲じゃなきゃわざわざ『真のデュエリスト』なんて目指さないぜ。

無駄話は終わりだ!デュエルを続けよう!

墓地の《孤高の意志》の効果発動!このカードと墓地の《孤高の魂》をゲームから除外してデッキからカードを一枚ドローする!

この一枚に勝負を賭ける!己が未来はカードで決める!行くぜ!デステニードロー!

・・・来たぜフロイ!これで勝負に必要な駒は全て揃った!」

「見せてもらおうか、お前のデステニードローを」

「俺は魔法カード《イレギュラーバトル》を発動!これで互いのモンスターはこのターン戦闘で破壊されず戦闘ダメージも0になるが、攻撃力が変化した自分のモンスターが相手モンスターに攻撃した場合、変化している数値分のダメージを相手に与える」

「それでも与えられるダメージは700ポイント。俺のライフを0にはできない」

「わかっているさ!そして俺は今ドローしたこのカードを発動する!

魔法カード《ギフトマインド》!このカードは発動時にライフを払い、払ったライフ500につき一体 《ラフトークン》をフィールドに特殊召喚する!俺は1000ポイントのライフを払い2体のラフトークンを特殊召喚!だが召喚するのは、お前のフィールドだ!」


ユーグLP1300→300


《ギフトマインド》の効果で2体のラフトークンがフロイの場に特殊召喚される。その姿は妖精のようで、笑顔でフロイの場で小躍こおどりしている。

「なるほど、考えたな。これで俺の場に3体のモンスターが現れガトリングドラゴンの攻撃回数を増やすのが狙いか。《ギフトマインド》は本来自分の場にトークンを出してアドバンス召喚のリリースに使うのが定石だが、こんな使い方もあるんだな。

だがガトリングドラゴンが効果を使っても攻撃できるかどうかは運頼みだ」

「確かに弾丸が発射される確率は二分の一。フロイのライフは残り1450。3発の弾丸が全て命中しなければライフを削り切れない。これは確率12.5%の賭け。

それでも今の俺にはこのコンボに賭ける以外に勝つ手段はない!」

「呆れた奴だ。まさか運否天賦うんぷてんぷで俺に挑んでくるとはな」

「お前に勝てるならギャンブルでも何でもやってやるぜ!

バトル!この瞬間 《七星の首飾り》の効果でガトリングドラゴンの攻撃力は700上昇!

ガトリングドラゴンの効果発動!相手モンスターの数だけシリンダーに弾丸を装填し二分の一の確率で発射する!モンスターは3体、よって弾丸は3つ!

この攻撃で全てが決まる!ヘヴィメタさん、力を貸してくれ!

さぁ運試しだ!ファイア!!」


3つの弾丸のうち1つ目が発射されゴッドアナライズに命中。《イレギュラーバトル》の効果で、《七星の首飾り》で上昇していた700の数値がダメージとしてフロイに与えられる。


フロイLP1450→750


2つ目の弾丸も発射されゴッドアナライズに命中。フロイに700のダメージ。


フロイLP750→50




運命の3つ目の弾丸・・・これでこの勝負の行方が決まる・・・頼む、当たってくれ!俺とヘヴィメタさん、エリアル、皆の想いに応えてくれ!




弾丸は・・・発射された!

ゴッドアナライズに命中し、《イレギュラーバトル》の効果が起動して《七星の首飾り》で上がっていた700の攻撃力がダメージとしてフロイに直撃。


フロイLP50→0 ユーグwin


「・・・・・見事だ、ユーグ」



「勝者ユーグ!激闘の末フロイを倒し、プロデュエリストとして最高のスタートを切りました!」

スタジアムは最高の盛り上がり。エリアルも喜んでくれている。そして俺も大満足だ!

「楽しいデュエルだったなフロイ!またやろうな!」

「ああ。お前は答えを導き出した」




これは終わりではなく始まり。俺が理想とする「真のデュエリスト」はまだまだ先にあるのだから。

だがプロデュエリストとして勝利を重ねて、デュエルを精一杯楽しんで、たくさんの仲間カードと出会うことができれば少しは近づけるような気がする。

俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ!







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