第8話 友との別れ 新たな旅立ち
ついにデュエルスクールを卒業する時がやってきた。卒業式は学長の長ったらしい話から在校生送辞、卒業生答辞と前の世界の卒業式とほとんど変わりない形式のものだった。卒業の証のバッチを手に入れて卒業生9人は今日でこの学校を去ることになった。そして今は卒業式が終わってスクールの生徒と先生が全員でパーティを催していた。
「しかし、今年の聖杯祭は驚いたよ。まさかあんなコンボを見せられるなんて。デュエルは僕が勝って優勝できたけどあの試合は実質トムの勝ちでいいよ」
「トムの勝ちデース」
「うん、あれは僕の勝ちでいいよね」
「トムの勝ちデース」
「ペガス、一応僕が優勝したんだからな!」
「トムの勝ちデース」
「そればっかりだな!」
パーティではクラスのみんなと思い出話に花が咲いていた。卒業したらなかなか会えなくなるし今のうちに語っておかないとな。
「でもユーグはいいよなー。あのヘヴィメタさんと同じチームで活動するなんてな。俺なんて結局親父の農家継ぐことになったのに」
「いいじゃねーか農家。俺は一応デュエリスト目指すけどまだ何も決まってないんだぜ。ユーグは卒業してすぐにプロだし次元が違うよ」
「そんな・・・僕はまだプロの世界で一度もデュエルしてないんだよ。自分の実力で通用するかなんてわからないし不安でいっぱいだよ」
「大丈夫だろ、あのヘヴィメタさんの引きでチームに入ってんだろ?あの人が雑魚デュエリスト推薦して自分のチーム弱くするわけないだろ。ヘヴィメタさんの人を見る目を信じろよ」
「そう言ってくれると助かるけど・・・」
「ユーグ君なら大丈夫だよ!」「クロス先生とあんなすごいデュエルしたんだから自信持ちなよ!」「ユーグ君かっこよかったよ!」
「うおーーー!!!なんかいけそうな気がするぜ!!!」
「お前急に調子づいたな」
クラスの女子が俺の背中を押してくれた。男なんて単純な生き物で女子に応援されるだけでやる気になるものだ。
「みんな卒業おめでとう!」
「クロス先生!ありがとうございます」
「君たちの授業ができて幸せだった。卒業してもいつまでもみんなは私の教え子だよ。・・・いつでも帰ってきてくれ」
先生は寂しそうに俺たちを祝福してくれた。考えてみればこの人まだ26歳なんだよなぁ。俺なんて26の時は完全に腐ってたし・・・
「先生今までありがとう!」「必ず帰ってくるぜ!」「俺実家暮らしだし徒歩10分で帰れるわ」
クラスのみんなもクロス先生を讃えていた。本当にいい先生だった。
「あれ?あの人ってもしかして・・・」
「キャーーーヘヴィメタ様ーー!!!!!」「ほんとだヘヴィメタ様よ!」
さっきまで俺の応援をしてた女子も含めてヘヴィメタさんに群がっていった。どうやら今日は特別な日だからわざわざ来てくれたらしい。俺の卒業祝いってことで来てくれたのかもしれないけどしばらくは女子の相手で忙しそうだ。
「ユーグ、卒業おめでとう」
「ああ、ありがとう・・エリー」
ほとんどの女子がヘヴィメタさんに集まっていったがエリアルだけは俺の元に来てくれたらしい。エリアルとは何週間もデュエルを教えるうちに次第に惹かれあっていった。俺の授業でデュエルの腕が上達していくエリアルの姿はデュエリストレベルが既にほぼカンストしている俺には眩しく映った。彼女の純粋さは卒業を控えて将来に不安を抱えている俺の心を解きほぐしていた。今や彼女は俺にとって・・・
「ユーグぅぅ、お前なんで俺に言ってくれなかったんだよ!まさかこんないい女がいたなんてなぁ!俺嬉しいよ!」
「いや、その・・・」
いつのまにか俺の近くにいたヘヴィメタさんが俺の色恋を茶化してきた。
「照れんなって!で、いつ結婚するの?」
「結婚って・・まだ早いですよ!」
「そんなこたぁないだろ~!お前は働いて稼ぎも得られるんだし」
「エリーはまだ10歳ですよ!」
「女なんて子供が産めればいつでも結婚できるだろ」
「・・ねぇユーグ?子供ってどうやったらできるの?」
「うーん知りたい?まずは男女が・・」
「わーーー!!!そんなこと教えなくていいんですよ!!エリーにはまだ早いです!!」
「まだ早いまだ早いって・・ということはあと何年かでこの子と結婚して子供作るってことでいいんだよな?」
「・・・もお、黙っててくださいよ!!!」
スクールのみんなの注目が俺たちの会話に向けられ全員笑っていた。めちゃくちゃ恥ずかしい・・・。エリーはよくわからないながらも楽しそうだった。この子の笑顔もしばらくの間見れないと思うと寂しい。
「ユーグ、酒持ってきてくれよ」
「何言ってるんですか?スクールに酒なんてある訳ないじゃないですか」
「なんだよしけてんなぁ」
「ヘヴィメタさん・・自由過ぎです!」
「できれば酒でも飲みながら話したかったけど・・・、言っておくがなユーグ、俺はたとえお前でもチームの足を引っ張るようなデュエルをしていたら遠慮なくダメ出しするし、もしかしたら抜けてもらうかもしれないぞ。絶対に甘やかすようなことはしないからな」
「はい、承知してます」
「でもな、それは俺も同じだ。もし俺がチームに泥を塗るような男になったら俺のこと見放してもいいからな」
「まさか・・・ヘヴィメタさんはチームのリーダーじゃないですか」
「リーダーなんて形式的なものさ。チームに序列なんてものはないし互いに何も言わなくなったらそれこそチームとしては終わりだ。どんな些細なことでも必要なことは言うべきだし時には厳しいことも言わなきゃいけない。ぬるま湯に浸かってるようじゃチームの成長にはつながらないからな」
「流石ヘヴィメタさんです・・そこまでチームというものを考えているなんて」
「勝つために当然のことをやってるだけだ。・・・でも安心したよ。ユーグにも支えてくれる人ができたみたいだからな」
「・・・・・まぁ、今更否定しませんよ。エリーは僕にとって大事な人です」
「エリーちゃんに誇れるようになる為にも腹括らないとな。一緒に強くなろうぜ、ユーグ!」
「はい!」
「何の話してたの?」
エリアルが俺たちの話に興味を持って近づいてきた。
「男同士の話だよ」
「なにそれ?エッチな話?」
「そんな訳ないだろ、変なこというなよ」
「そうだよエリーちゃん、ユーグは君のこと好き過ぎて他の女になんか興味ないってさ」
「ちょっ・・ヘヴィメタさん!」
「え?お前エリーちゃん以外の女が好きなのか!?」
「もう!変な方向に話そらさないで下さいよ!!」
でも、ヘヴィメタさんの言う通りエリアルを大事な存在だと思っている。ここは男としてけじめをつけておかないと。
「エリー、必ず帰ってくるから。待っててくれ」
「・・・・・うん」
エリアルは恥ずかしそうにそう言ってくれた。女の子が自分の帰りを待っててくれるんだ。俺も強くなって帰ってくるぞ!そしてエリーと結婚・・
・・・・・なんだ・・・この感じ・・・この言いようのない罪悪感は・・・
「どうしたのユーグ?顔色悪いよ?」
「ああ・・・・・何でもないよ・・・ちょっと食べ過ぎたのかな・・・」
「そう・・・」
なんだか嫌な思いに駆られたが、パーティはお開きになり俺の6年間のデュエルスクール生活は幕を閉じた。
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