転生のデュエリスト

舞零(ブレイ)

プロローグ

 契約は結ばれた

 ここはどこだ?真っ白な空間に永遠に続くかのような階段が不自然に設置されている。俺はなんでこんなところにいるんだ?

 ・・・そうだ。俺は、死んだ・・はずだ。


 思い返してみるとほんとにろくでもない人生だった。プロを目指して都会に来たけど結局レベルが違いすぎてなんの結果も残すことなくドロップアウト、そのあとは酒に溺れて地下の違法な賭けデュエルで生計を立てる毎日・・・。勝てば多額の賞金をもらえるが、負ければ致死量寸前の電気ショックを浴びて病院送り。そんな生活を何年も続けられるわけもなく俺の人生はわずか26年で幕を閉じた、とおもったが・・・。


 なぜか俺はこんな訳の分からない空間に閉じ込められている。出口を探そうにもただただ景色が広がるだけで階段以外は何もない。はは、恐怖なんかよりも笑いが込み上げてきた。これが「地獄」ってやつか?


 そんなことを考えていたら階段から誰かが下りてきた。足音が徐々に近づいてくる。待てよ?この展開もしかして異世界転生するんじゃないか?脳内で1000回はシミュレーションしてきたあれをやるのか!?

 俺は目を閉じて必死にシミュレーションしてきた光景を思い出そうとする。女神が登場して俺に異世界の説明をして超人的なスキルを与えて晴れて異世界に召喚される。物によっては異世界で通じる言語を自動で習得されたりもしてたな。異世界には魔法やドラゴンがありふれていて、主人公は毎日ハーレム三昧!うひょー!!



 足音が近づいてくる!さぁ超絶美人の女神さまとご対面!・・・あれ?

「なんだこのおっさん!?」

俺の眼前には髭をたくわえた白髪のおやじが立っていた。

「おっさんとは失礼だな。せっかく案内をしてやろうというのに」

「ああ?こっちはせっかく女神さまと話すんなら社交辞令の一つでもかましてやろうとしたのにあんたみてぇなおっさんが出てきて拍子抜けしてんだよ!」

「まったく最近の若者は礼儀を知らんな。君の生前の生き方を見ればそれだけやさぐれていても不思議ではないがな」

「いちいち俺の人生ディスってんじゃねぇよこのジジィ!・・・ちょっとまて、俺の生前って言ったか?てことはやっぱり俺は死んでて、今から異世界に転生するのか!?」

「おや、ずいぶん理解が早いな。今からそれを説明しようとしていたのに」

「大変失礼しました!!ええと、あなた様は神様ですか?どうか私に超一級のスキルを与えてくださいまし!あと女の子といちゃつけるような異世界に・・」

「は?スキルって何の話だ?そんなものは与えちゃおらんよ」

「へ?」

「そんな都合のいいもの与えるわけがない。確かにスキルとか言い出す若者はごまんとおったがその者たちはみな生前は大した努力もせずに死んでいった者ばかりだったよ。結局君も彼らと同じか」

「じゃあ大した努力もしなかった俺はどうやって魔獣やドラゴンが散歩してる世界で生きていくんだよ!?」

「安心しなさい。そんな世界に送ったりはせん。君がこれから向かうのは君のよく知るデュエルで全てが決まる世界。君が心のどこかで望んでいた世界。かつて君がたどり着けなかった世界だ」

「だが、俺はドロップアウトしちまった身だ・・・・。そんな世界に行ったところで結果はまた同じじゃないか!もうたくさんなんだよデュエルなんて・・・!俺はただ生活の為にデュエルしてただけで・・」

「ふむ、そう言うと思ったんでな、君に選択肢を用意しておいた。君はのまま転生するか、で転生するか」

「赤子って赤ちゃんからやり直すのか!?」

「左様だ。記憶を引き継いだまま、な」

「そんなことができるのかよ!そんなの楽勝じゃねぇか、余裕でプロになれるぜ!」

「それがそうでもないのだよ。赤子からやりなおす人間は数多くいたが、最初のうちは神童といわれて周りにちやほやされていたが、所詮は子供の頃だけだ。むしろ生前よりも努力を怠り堕落した大人になってしまうケースがほとんどだ」

「うっ・・・そんなにハードモードなのかよ」

「大切なのは努力を積み重ねることだ。どんなに周りから評価を得ようがそんなものは一時のまやかし。どんな才能も時が過ぎれば誰もが当然のようにもてあまし、やがては腐りおちていく。君はどうかな?」

「あんた、まるで悪魔だ・・・。こんな絶望的な選択肢を突き付けて俺はどうすりゃいいんだよ・・・」

「儂は神でも悪魔でもない。ただ人間にチャンスを与えるだけだ。信念を貫きさらなる高みへ到達するか、可能性をなきものにして人生を破滅させるか、その最後を見ていたい」

「俺の人生は地下デュエルの電気ショックで終わったはずだろ!なんでこんなとこに送り込まれてんだよ!」

「君が諦めてなかったからだ」

「・・・は?」

「さっき君はもうデュエルはたくさんだと言っていたが、君の戦略、デッキ構成、デュエルに向かう姿勢は日々向上していた。君もどこかで望んでいたんだろう?、と」

そうだ、だからいい年してガチで異世界転生を夢見たりしていた。だけど・・・


「俺なんかが・・・本当に成功すると思うのかよ?」

「儂は預言者ではない。不確定な未来のことなどわからん。だが君に白羽の矢を立てたことは間違いではないと思っている」

「でも人生をやり直しても成果を出せない奴もたくさんいるんだろ!?」

「確かにそう言ったが、儂が誰かを推薦したのは初めてでな。儂以外にも異世界転生者を決めるものはおるが、どいつも冗談混じりに人間を選定しておる者ばかりでな。儂はそんな選定基準に飽き飽きしていた。君なら他にはない可能性を提示できる」

「本気で言ってるのか?」

「もちろんだ」


俺は(よく見たら神の宣告のイラストに似てる)おっさんの手を取った。契約は結ばれた。まだ確信は持てないけどこの世界なら俺が本当になりたかった「真のデュエリスト」になれるかもしれない。

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