第5話 理解と絆のキーカード
俺はこの問題をクロス先生に相談することにした。ヘヴィメタさんに相談することも考えたけど、あの人も今は駆け出しのプロデュエリストだ。今は大事な時だし余計な負担はかけたくない。クロス先生なら教育者として適切なアドバイスをくれるかもしれない。大見栄切って結局先生に頼るのはちょっと情けないような気もするが仕方ない。
さっそくクロス先生にエリアルの件を相談した。
「そうか、ユーグのいうことも聞いてくれないか」
それがクロス先生の第一声。せっかく期待していたのに俺じゃ解決できなくてがっかりしてるんだろうな。
「正直君にこんな話をしたのは申し訳ないと思ってる。生徒の問題は本来教育者である私たちが解決するわけだし、君は今年卒業を控えている多忙な身だ。私たちが非力なせいで・・・すまない」
「あ、謝らないで下さいよ!先生はわるくないんですから」
「そう言ってくれると気は楽だが・・」
まさかクロス先生が俺のことをこんなに気にかけてくれるなんて思わなかった。俺は自分でやると決めた宿題を投げ出しそうになってた所なのに。
「でも、正直嬉しいよ。ユーグは私に相談してくるなんて。君は優秀だから誰の力も借りずに課題をこなしていくと思っていたから」
「そんな、僕だって苦手なこともあるし挫けそうになる時だってありますよ。そんな完璧な子供いませんよ」
「君を見てると『こんな子が本当に学生なのか?』って思うときがあるから」
「・・・・・買いかぶりすぎですよ」
「そうだな、生徒が教師である私を頼ってきたんだ。私も精一杯の助言をしないといけない!ユーグ、ありがとう!」
「ありがとうって、こっちのセリフですよ・・・」
「エリアルのことは私も少しは聞いてる。彼女は立派な屋敷に住んでるお嬢様だ。元々デュエルには興味はなく両親に無理やり入学させられたようだ。今まで自由奔放に生きてきた令嬢が急にこの学校に押し込められた訳だし反感を持っても仕方ない。まずはそんな彼女の心をわかってあげなきゃいけない。エリアルの心を開くんだ、彼女のことをちゃんと見据えてあげなきゃな」
「はい、エリアルと真剣に向き合っています」
確かに、今まで俺は「どうやったら彼女がデュエルを覚えてくれるか」ばかり考えて、エリアルが何を考えているかなんて想像もしてなかった。頭ごなしに好きでもないデュエルの話ばかりされても興味を持たないのは当然かもしれない。
そうだ、この感覚・・。俺だって経験してるじゃないか。俺もあっちの世界じゃ勉強が大嫌いでロクに先公の言うことなんて聞いてなかった。自分には関係ないことだって棚上げにしてた。まずはそこからメスを入れなきゃいけない。
エリアルに「デュエルは楽しい」って教えなきゃいけない。ありがとうクロス先生!ようやく光明が見えてきたぜ!
その日の放課後いつものように校庭で待っているエリアルの所にむかった。なんだか彼女がいつもよりしゅんとしてるような気がする。
「待たせたねエリアルちゃん。まずは、ごめん。今まで僕は君のことをちゃんと見てなかった。エリアルちゃんにデュエルを教えることばかり考えていてたからつまんない授業になってたと思う」
「別に・・ユーグは悪くないよ。あたしこそごめん・・なさい。ユーグの話全然聞いてなくて。あなたも一生懸命やってるのに、いうこと聞かないあたしの相手なんかして」
どうやらエリアルは今までのことを詫びているようだ。彼女の急激な態度の変化に驚いていた。おそらく、クロス先生が手回ししてくれたんじゃないかと思う。
「よし!お互い反省してるんだし今までのことは全部チャラにしよう!じゃあ気持ちを切り替えて授業をしようか!エリアルちゃん、君にこのカードの使い方を伝授しよう」
俺はポケットからあるカードを取り出した。それは《ドールフェアリー》というモンスターカードだ。エリアルはこのカードを「雑魚だし使えない」とぼやいていた。カードのイラストには妖精の姿をしたかわいらしい女の子が移っていて、その顔はエリアルそっくりだ。エリアルはおそらくこのカードを使いたいが、どうやって使っていいのかわからないんだろう。せっかく好きなカードが見つかったのに実戦で役に立たないんじゃ不憫だ。
「このカードは確かに攻撃力も守備力も0だし単体では大した役に立たないかもしれない。相手のモンスターの攻撃力を500上げて自分を手札から特殊召喚できる効果は一見デメリットに見える。でもこのカードと組み合わせるとどうだろう?」
俺は再びポケットからもう一枚のカードを取り出す
「この《孤高の烈火》と組み合わせればコンボになる。《孤高の烈火》は相手モンスターの攻撃力が上がった時に上がった数値分自分のモンスター1体の攻撃力を上げてデッキから1枚ドローする効果がある。これで自分のモンスターの攻撃力を上げつつ手札の補強もできるわけだ。それだけじゃなく、このカードはアドバンス召喚のコストとしても優秀だし使い道はたくさんあるはずだ。このカードをよく見て自分だけのコンボを考えてみてほしい」
「うん。そう言われるとなんかこの子使えそうな気がする!ユーグ、ありがとう!」
エリアルが満面の笑みを浮かべてこちらを向いた。あれ?エリアルってこんなにかわいかったのか・・。思えば今までの授業では彼女はいつもしかめっ面で笑顔なんて一度も見せてなかったからな。
「じゃあ今日の授業はここまで!《孤高の烈火》は君にあげるよ」
「終わるの早くない?・・でもいい事聞いたし別にいいや。またいろいろ教えてね、ユーグ」
エリアルの笑顔見てたら恥ずかしくなってきた。彼女の顔を見れなくなって授業を切り上げてしまった。意気揚々と俺から貰ったカードを握りしめながら離れていく彼女のうしろ姿をただ呆然と見つめていた・・・。
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