第3話 唯愛と羅刹

羅刹が私に用事……

なんだか恐いけど興味のほうが勝った。

サッと着替えてからクローゼットから靴を出す。

圭吾さんたちに気が付かれないように、窓から外に出ると屋根伝いに下へ降りた。

「お待たせ」

「驚いた!身が軽いんだ?」

「えっ…ああ、うん」

「さっ、行こう」

羅刹はサングラスをかけると歩き出した。

「えっ…」

「どうかした?」

「いや、夜なのにサングラスかけて見えるのかなって」

「大丈夫。私、目はいいから」

なんだかくだけた感じの口調に驚いた。

服もその辺にいる普通のファッション。

もしかして邪羅威と会う前、日向と同じ施設にいたときはこんな感じだったのかな?

でも、考えてみたらこの人も私や日向と大して歳が変わらない。

「殺し屋」でなければ、もしかして私たちと同じ学校に、隣の席に座っていたかもしれないんだ……


私と羅刹は近くにある国道沿いのファミレスに入った。

それにしても目を引く人だ。

ここまで来る途中も、羅刹に見惚れたように見る人が何人もいた。

なんだか芸能人と歩いてるみたいで気恥ずかしい。


「ここにしよう」

羅刹は店の奥にある、入り口を見渡せる位置に座った。

ドリンクバーで飲み物をとると羅刹はバグから煙草を取り出して火を点ける。

その仕草が優雅というかなんというか……

様になっていた。

サングラスの奥の瞳がどこを見ているのかはわからないが、なんとなく店内にいる同年代の子たちを見ているような気がした。

「今日はあなたにお礼が言いたかったの」

細く煙を吐いてから言う。

「お礼?私に?」

「ええ。学校の帰り、私のこと言わなかったでしょう?あの記者に」

「ああ…って、見てたの!?」

「ええ。一部始終」

「全然気が付かなかった……」

「バレないようにつけるから尾行なんじゃない」

「ああ……そうか」

それにしても全然気が付かなかった。

正直、ゾッとする。

「どうして私のこと黙ってたの?」

「そりゃあ…同じ仕事する仲間だし……まあ、仁義みたいなもんよ」

私が言うと羅刹はクスクス笑った。

「そっか…そうだよね。OK!」

「それ…日向も言ってた。前の施設にいたときに仲良くしてもらった人の口癖が移ったとか言ってて」

「ふうん」

羅刹は興味なさそうに相槌をうってから紅く艶やかな唇に煙草をくわえた。

そしてさっきのように細く煙を吐くと私に聞いてきた。

「あなた、もう人を殺した?」

「えっ!?」

思わず大きな声が出た。

慌てて辺りを見回す。

「大丈夫。誰も他人の会話なんて関心ないでしょ」

羅刹が煙を吐きながら言う。

たしかにみんな私たちのことなんて気にしていない。

「私は……まだ」

「どうして?」

どうして?たしかに「殺し屋」という仕事考えたら、どうしてまだ殺さないのとなるだろう。

「烈が人殺しはさせないって」

「優しい彼じゃん」

「いや!彼とかそういうんじゃないから!」

私のリアクションを見て羅刹は笑った。

「それよりあのジャーナリストは何?どうしてあなたのことを?」

「一週間前かな。私のことを嗅ぎまわってる奴がいるってわかったの」

「どうして?」

「さあね。それを今探ってる最中だから。あいつが単独なのか?裏でなにか絵を描いてる奴がいるのか?あいつを殺すのは簡単だけど、黒幕がいるなら二度手間になるし」

たしかに……黒幕がいるなら下っ端を殺しても新しい奴が代わりを務めるだけだ。

「それよりも私、あなたに興味があるの」

「私に?」

羅刹は頬杖をついて私を眺めた。

「あなたがいつ人を殺すのか?」

形のいい唇の端がつり上がる。

私が人を殺す……

「この仕事をしてればいつかは起きるって。烈と一緒にこの先もいるならね」

私は……

「わからない……想像がつかない」

「そんなもんだよ。私もそうだったし。自分が人を殺すなんてそのときまで想像したこともなかった」

「あなたも…?どうして?」

羅刹の言葉に誘われるように私は問いかけた。

「フフッ……知りたい?」

サングラスを外して私を正面から見る。

その瞳に魅入られたように私はうなずいた。

「教えてあげるよ。私の゛地獄″を」

「地獄……」

唾をごくりと飲んだ。

「そう。本当の゛地獄″」

羅刹がうっすらと笑った。


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