第3話 希望の扉を開ける鍵
それから数日間、私はここを脱け出すことばかり考えていた。
でも出る方法がない。
仮に出られるとしても、街ぐるみでグルなんだから逃げきれない。
考えなしに脱走しても、後から殺されるなら意味は無くなってしまう。
いくら考えても良い方法は思い浮かばない。
諦めかけたある日……
客との何気ない会話が希望の扉を開ける鍵になった。
その日の客はヤクザの幹部。
この街ではなく、隣街の。
名前は村木。
村木と私が一回やった後に、ベッドで横になりながら話している時だった。
「殺し屋?」
「ああ。俺らの業界じゃ知らない奴はいねえってほどの凄腕よ」
「ウチの組が対立する組に勝ち、俺が出世したのもそいつのおかげだ」
「そうなんだ」
私が相槌をうつと、急に客の顔が曇った。
「どうしたの?」
「ただ、できることなら二度と関わりたくないけどな」
「恩人みたいなもんなのに?」
「違うんだよ。あいつはまるで別もの……ヤクザの俺が言うのも変な話だが、あいつは極悪さ……あんなおっかねえ奴はいねえ。向こうの気分次第でこっちの首がいつ飛ぶかわかったもんじゃねえ」
「なにそれ…?」
強面で知られるヤクザの若頭がおびえているように見えた。
「俺達ヤクザは社会のルールから半分はみ出して生きている。相応に悪さもするし人だって殺す……極道だからな……でも半分だ」
ベッドのわきに会ったタバコを手に取って続ける。
「だがあいつは……すべてが逸脱している……人種や国家、家族、組織やイデオロギー、宗教、そうしたあらゆるものと関係なく生きている……俺達の感覚は全く通用しない奴なんだ」
なにがあったのかとかは話さなかった。
でも冷や汗をかいてるのはわかった。
「汗かいてるし、シャワー浴びる?」
「そ、そうだな」
嫌なものでも追い払うように頭を振ると、客はバスルームに歩いて行った。
一人、ベッドに残った私は思った。
殺し屋……
凄腕の殺し屋……
私の、私たちの自由を妨げる奴等を殺してもらえばいい!!
希望の閃光が煌めいた。
正義がないなら悪に頼むしかない。
悪を制するには、より悪に、悪を超えた悪、極悪をもって制するしかない。
ベッドから飛び降りるとバスルームへ行った。
「さっきの話、いろいろ聞きたいの」
「なんだよいったい?」
「その手の話、好きなんだ……ダメ?」
「そんなこと聞いてどうするんだよ…?」
「小説」
「えっ」
「私、小説書きたいの。そういうサスペンスとかミステリーの。殺し屋なんて格好の材料じゃない?」
咄嗟とはいえ我ながらよく言ったと思った。
本なんてさっぱり読んだことない。
「おまえが小説~…」
怪しそうに眉根を寄せて私を見る若頭。
「スペシャルサービスするから」
ギュッと股間を握った。
「おほほっ!!わ、わかったよ」
体を洗ってあげてから再びベッドへ。
そしてスペシャルサービスをしてあげた後に聞いた。
殺し屋のことを。
どうすれば頼めるのか?
請負額の相場は?
そんな恐ろしい奴と会うときに、なにを注意すればいいのか?
そして名前と聞いた。
悪魔とも死神と恐れられる殺し屋の名前を。
「邪羅威(ジャライ)」
それが殺し屋の名前だった。
次の日になって私は自分の考えを恋華と夏樹に話した。
「殺し屋!?」
「シッ!」
驚いて声を出した恋華の唇に指をあてる。
夏樹も目を丸くしてる。
「ほんとにそんなこと考えてるの?」
恋華が小声で聞いてくる。
「うん」
「そんなのバレたら私たちが鯨螺たちに殺されるよ」
「だから絶対に秘密にするんだって」
二人が不安気に顔を見合わせる。
「私たちが自由になるにはこれしかないよ」
「でも年月が過ぎたらここを出れるんじゃない?」
夏樹の問いに首を振った。
「ここでのことは絶対秘密なんだから……まともに出れるわけがないよ」
「どうなるの?」
「売り飛ばされるの。外国とかね。あとはここの客に買われて囲われる。飽きたら棄てられる」
「ええっ……!!」
二人とも絶句した。
「私たちみたいな小娘が、ここの連中をどうこうなんて土台無理なんだよ……まともに考えたら」
「そうだけど」
「幾らするの……頼むのに」
「恋華……」
「最低でも1千万」
「そんなお金……どうすれば」
「貯めるしかないよ」
「いつまでに…?」
「私たちがここにいられる間…あと三年以内に」
ここを出たらどうなるのかわからない。
だからいる間に自由にならないと。
今が15歳だから……18歳までに。
「でも私たちじゃあ依頼できないよ……どうやって外と連絡とるのさ?」
夏樹の言うことはもっともだった。
「そこは考えてあるから任せて」
賭けみたいなものだった。
最終的には昨日の若頭経由で頼むしかない。
でもスムーズにいくかな……?
ヤクザなんて利害でしか動かない連中だから。
それでも金を貯める間になんとか考えるしかない。
「このことは私たちだけの秘密にしよう」
「でもみんなが自由になるんでしょう?みんなでお金貯めた方が早くない?」
夏樹の言うことはもっともだ。
でも――
「秘密を知る人数が増えれば、それだけ漏れる確率も多くなる……だから」
私の言いたいことを理解してくれたらしく、二人はうなずいた。
このことは三人の秘密になった。
当然だけど日向も知らない。
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