第3話 再会

日向と朋花と別れ、一人で歩いていた。

どうやって千春や他の子たちの仇を討とうか?

歩いていてもそのことばかりが巡ってくる。

とにかく、最低でも二度と関わらせないようにしないと。

やっぱり私がやるしかないな。

「唯愛ちゃん」

「えっ」

いきなり呼ばれて振り向いた。

「やっぱり唯愛ちゃんだ」

そう語りかけたのは、ふんわりしたくせっ毛にメガネをかけた、制服姿の背の高い男子だった。

「あっ……もしかして」

私はこの男子を知っている。

「お久しぶり」

「烈っちゃん!!ウソぉ!?」

「相変わらずリアクションいいね」

烈っちゃんはクスっと笑った。

「えっ!どうしたの!?戻ってきたとか!?」

「うん。一週間前にね」

「その制服って……もしかして同じ学校!?」

「そうみたいだね。明後日から通うことになるんだ。よろしく」

「ええ――!!烈っちゃんと同じ学校とか嬉しいんだけど!」

「大袈裟だな」

烈っちゃんは照れたように笑った。

「懐かしいなこの町」

烈ちゃんが目を細めて言う。

「まだあの公園ある?」

「ああ…!うん!あるよ!行く!?」

「行こう」

私たちは近所の公園に歩いて行った。

中村烈。

私の幼馴染。

近所にある施設の子だった。

ふとしたことから知り合ったのはお互い5歳のころ。

なんか意気投合して、いつも二人でいた。

でも、ある日いきなりいなくなった。

圭吾さんに話したら、良い引き取り手が現れたんだろうって言ってたな……

烈君には良いことなんだろうけど、私は悲しかったの覚えてる。

「なんか私も久しぶりに来たな~、この公園」

近所でも通学路から外れたところはいつの間にか生活圏から外れていた。

二人でブランコに座る。

「懐かしいね!よくこうやって二人で遊んだ」

「そうだったね。あとは見廻りとか」

ほとんど暗くなってきた空の下、私たちは昔を懐かしみながら話した。

「見廻りっていえば、私まだやってんだよね」

「そうなの?」

「ここじゃなくて大きな駅があるところ。メンバーも50人くらいはいるんだから」

ちょっと自慢気に言う。

「凄いな。相変わらずだね。唯愛ちゃんは」

「まあね♪」

冷たい風が頬をなでる。

「烈君は?どうしてうちの学校に?」

「僕を引き取ってくれた人がこの町で仕事することになってさ」

「そうなんだ!昔は急にいなくなったからビックリしたよ」

「ごめん。本当はお別れくらいしたかったんだけど急でね」

そう話す烈君の横顔を見ていた。

面影はあるけど、もう烈君も私と同じ高校二年生。

私と一緒にいつもいた男の子が、端正でどこか陰のある感じのイケメンになってるなんてなあ……

逆に烈君から10年ぶりに見た私はどんな風に見えるんだろう?

「圭吾さんとか元気にしてる?」

「うん。白髪増えたけどね」

「そっか。もうそんな経つんだな」

烈君は口元を緩めると顔を伏せた。

少し黙る。

「どうしたの?」

私が尋ねると顔を上げた。

「なにかあった?唯愛ちゃん」

「えっ」

「さっき歩いているとき、とても思いつめた顔をしてたから。昔からだよね。特に許せないことがあると押し黙って」

「べ、別に大したことないって」

久しぶりにあった人に見抜かれるなんて。

「唯愛ちゃんは顔に出るタイプなんだから」

烈君は柔らかい笑顔を私に向けた。

「烈君って昔から私が思ってること当てるよね」

そういうとこあったな……

でも……

「ほんとに全然大したことないんだから」

「そうなの?」

「うん!」

烈君は眼鏡の奥から優しい目で私を見た。

澄み切った視線から嘘をついていた私は咄嗟に目をそらしてしまった。

「そっか…なら良かった。さっき見たときにそれが気になったから」

「ごめんね!久しぶりなのに心配かけて……そろそろ行こうか?」

「ああ。そうしよう」

二人で立ち上がると公園から出た。

「来週からよろしく」

「こちらこそ……そうだ!そのとき私の友達紹介するよ!女の子だけどさ」

「ありがとう。友達ができるのは嬉しいよ」

私たちは他愛もない会話をしながら暗くなった道を歩いて帰った。

その間、私は千春の件をなるべく考えないようにした。

考えると顔に出るから。

やることは決まってる。


家に帰ってから準備した。

ベッドの下に忍ばせてある特殊警防二本。

伸ばしてみてから、二つの腕で振ってみる。

いい感じ。

いざとなったらこれでぶちのめしてでも千春たちの暴行動画を返してもらう。

お父さんが生きていたら、きっと同じことをしていた。

泣いてる人の声を聞いて無視出来ない。

悪辣なド外道を容認するとか有り得ない。

私の中にある、おとうさんから受け継いだ血が騒ぐんだ。

許せないって!


バッグに特殊警棒をしまうと、圭吾さんたちにわからないようにこっそりと家を出た。







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