第2話 唯愛が歩くと事件にあたる

放課後になって私は烈に校内を案内した。

一緒に歩いてるとみんなチラチラ見てくる。

「あんた凄い人気ね」

「そうですか?」

「そうですかって、みんな見てる目が惚の字だよ」

「興味ないんで。そういうの」

烈は困ったような笑みを見せた。

ふうん。興味ないのか。

一通り案内して、最後に図書室に来た。

中には誰もいない。

私はそれを確認してから烈に言った。

「へ~それにしても上手く化けるもんだね~。雰囲気も何も別人だよ」

昨日の夜に見た烈とは雰囲気が別人だ。

「なんのことですか?」

烈は微笑みながら人差し指でメガネを上げる。

「またまたあ~、私の前でまでとぼけなくていいって」

烈はやれやれと苦笑しながら頭を振るや否やーー!

ドン!!

私の顔の横、壁に手をついた。

「余計なこと言うんじゃねえよ」

柔和な雰囲気が一転して、メガネの奥の眼光が凄味を増す。

一瞬、ビビりそうになったけど、クソ美形の烈が至近距離にいて、このシチュエーションは……

「か…壁ドン?」

ドキドキしてきた。

「はあ?」

「いや、この状況が。誰か来たら噂になるよ」

「チッ」

烈は舌打ちすると壁から手を離した。

ふう……

やっぱ殺し屋モードになると怖いわ。

まだドキドキしてるし。

余裕かましてるふりしても、内心は汗かきまくりだし。

「いいか?俺とおまえは幼馴染。それ以外のことは口にするなよ」

「わかってるよ。だから二人きりのときに言ってんじゃん」

「それよりさあ……どうしたの?烈」

「なにが?」

「殺し屋なんてどういう経緯で始めたのかなって。なにがあったの?」

「おまえには関わりのないことだ」

烈は煩わしそうに言う。

そのとき廊下から何人か話す声がして、ドアが開いた。

一年の女子が三人、なにかを楽しそうに話しながら入ってくる。

「九龍さん、案内ありがとうございました」

烈はあっという間に優等生の顔を貼り付けると、柔らかい笑顔でお辞儀する。

「あ、ああ、どういたしまして」

私も咄嗟に合わせたけど、少しどもった。

そのまま図書室を出る烈。

私も後を追うように廊下へ出た。

すると日向と朋花にばったり会った。

「良かった!二人のこと探してたんだよ~」

私と烈を見て朋花が言う。

「僕達を?」

烈が人差し指をメガネに添えながら尋ねた。

「唯愛の幼馴染って聞いたし、だったら歓迎会しようかって朋花と話してたの」

日向が人懐っこい笑顔で言う。

「ありがとう。でも引っ越してきたばかりで片付けも済んでないんです。帰っていろいろやらないと」

「そうなの?」

「ざーんねん」

朋花と日向は口を尖らせた。

「せっかく誘ってくれたのにごめんなさい」

烈は申し訳なさそうに頭を下げた。

「じゃあ皆さん、また明日」

「いいじゃん。みんなでカラオケでも行こうよ」

私が言うと烈はにこやかに手を振り、背を向けて歩きだした。

なんだろうね……せっかく朋花と日向が歓迎会を企画したっていうのに。

ちょっとくらい付き合いなよって内心ムッとした。

「私らも行こうよ」

烈の背中から目をそらすように朋花と日向の顔を見た。

「あーあ。行っちゃったね」

日向が朋花に言う。

「チッ!狙ってたんだけどなあ~ま、いっか!」

「えっ!?朋花狙ってんの!?」

「唯愛おどろきすぎだよ。だから最初に彼女いるか聞いたんじゃん」

日向が笑う。

そういう意味だったのか!?あの質問は!!

「いやいや、驚くでしょ!だってろくに話もしてないじゃん」

「だって見た目が超イケてんだもん」

朋花が毛先をいじりながら言う。

「そこか」

たしかに烈のイケメンぶりは群を抜いている。

「それに今まで私の周りにいないタイプだし」

「まあ、同じクラスだしチャンスはたくさんあるよ」

「だね」

日向と朋花のやりとりを聞きながら、烈の殺し屋モードを思い出した。

優等生な烈はみんな知ってるけど、殺し屋のときの烈は私しか知らないんだよな~。

悪い香りに満ちて、触れたら切れるナイフみたいに鋭くて、ワイルドな雰囲気がぷんぷんしてる。

あっちも捨て難いんだよね~。

「唯愛なにニヤけてんの?」

「えっ!あ、ああ…なんでもない」

「変なの」

無意識にニヤけてたのを朋花と日向につっこまれた。

私ったらなんで烈にニヤけてんだろ?

我ながら意味不明だわ。

「今日もサークル活動いこっか!」

「OK!」「だね」

今日の見廻りは新宿歌舞伎町。

「ところでさあ」

「なに?」

日向が歩きながら聞いてきた。

「なんで烈君って敬語なの?」

「さあ?なんか癖なんだってさ」

「へ~変わってる」

「そこがいいかもね♪」

と、朋花がフォローした。

完全に烈はロックオンされたみたいだ。


私たち三人は電車で新宿へ。

みんな集まったのを確認して、見廻りを開始した。

しばらく歩くと歩道で男二人と女一人がもめている。

男はホストみたいなスーツ着て、不自然に頭盛ってるチャラそ~な奴等。

女は派手目で、よく見ると私たちと変わらなそうな年齢。

そのうち男の一人が女の子の腹に蹴りをいれた。

「おい!何やってんだー!!」

私は怒鳴ると走り出した。

みんなあとに続く。

「な、なんだ!?」

「なんだよてめえら!?」

男二人がビビる。

いくら女子高生といっても20人近い人数が走ってくるんだから、それだけでも「超圧力」だろう。

「今、暴力ふるっただろう!?」

私が詰め寄る。

「はあ?なんなんだおまえら」

一人が顔をしかめて私たちを見渡す。

「私らはこのへんの治安のためにパトロールしてんの」

「特に女の子が変な目にあわないようにね」

朋花と日向が言う。

男二人が顔を見合わせてヒソヒソ話してから、私に言った。

「あのなあ、なんだか知らねーが、この女はなあ、わけのわかんねー難癖つけてきやがったんだ!!」

「だから俺らが〆てんだよ!なんか文句あんのかー!?」

難癖…?

地面にお腹を抱えて座り込む女の子を見た。

「だからって暴力ふるって良いわけないだろ!!」

「うるせえな。とにかく関係ねー奴は消えな!」

「邪魔すんな。クソガキ」

「はあ?ふざけんな!このクソホスト!」

「なんだと!?」

「おまえら女から金もらって生きてるくせに、その女を足蹴にするとかマジでクズなんだよ!!」

「舐めるなクソガキ!!」

一人がいきなりパンチをフルスイングしてきた。

左腕でガードしたまま、相手の顔面に掌底打ちを叩きこむ。

「グゲエッ!!」

鼻血を出してのけ反る相手の股間に蹴りを一発。

完全にダウンした。

「てめえっ!!」

もう一人が組み付いてきて私の両手を掴んだ。

瞬間、鼻っ面へ頭突き。

「ひぎゃあっ!!」

私の腕をつかんでいた手が離れる。

今度はこっちがふらつく相手をガードレールに突き飛ばした。

鈍い音と一緒に背中を強く打ちつけた男が崩れ落ちる。

「おととい来やがれってんだ!!」

動けなくなった男二人に言った。

「やるー!唯愛」

「キレがいいね♪」

女の子を助け起こしながら朋花と日向が言った。

「大丈夫?とりあえず移動しよっか」

他のメンバーを先に行かせて、私と朋花、日向はこの子を大通りまで送ることにした。

「大丈夫?痛くない?」

「うん…ありがとう」

歩きながら話す。

「ねえ?名前は?私は唯愛」

「私、朋花」

「日向ね。よろしく!」

「みんな高二だよ」

「えっ?じゃあ、あたしも一緒だ」

「私は麻美」

「麻美はさっきの奴らとどういう関係?」

私が聞くと麻美は一瞬言い淀んだ。

「ちょっといい……?」

「ん?」

「あなた達って…その、顔広いのかなあ……?」

麻美に聞かれて三人顔を見合わせる。

「まあ……それなりに。なんで?」

「この街で友達が消えちゃって……そうしたら死んでたの」

「死んだ……?」

「先週ニュースになった東京湾で女子高生の遺体が発見されたっていうの……あれが私の友達」

「ええっ!!」

私と日向、朋花の三人は麻美の話を詳しく聞くことにした。



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