第3話 驚き
昼休みにな食堂横のテラスで朋花、日向と三人で昼ご飯を食べた。
その間の話題は、やっぱりというか、朝の七海の件についてだった。
二人と会話しながらも、烈と話したこと、仕事に関わることは伏せた。
「私は……親を売ったほうが建設的かなって思うよ」
「えっ」
私と朋花は日向の口から出た意外な意見に驚いた。
日向は日向で、驚いている私たちを見て驚いている。
「なんか変かな…?」
「いや…変っていうか…ねえ」
朋花が私にふる。
「うん…考えもしなかったから」
私も日向を傷付けないように返した。
「だって、あの子たちは親が勝手に作った借金で迷惑してるわけじゃない?」
「まあ……たしかに」
「言われてみれば……」
日向の言わんとすることは理解できた。
なにか自分たちのためではない、保証人になった挙句の現在なのだから、そうした考えもあるよなって。
「だからサクッと切って自由になればいいんだって」
日向はカレーパンをぱくつきながら言った。
「自由?」
「そう。自由。親がいるのは有難いことだろうけど、それが全てじゃないし絶対でもないって思うの」
「たしかにクソみたいなヤツはいるよね。子供殺しちゃうような」
日向の言葉に朋花が同調した。
「ねえ?日向、自由って?親を排除して自由になるの?」
「うん。そういう人いたし、私はその人がやったこと、考えは正しいと思うんだよね」
日向はいつもと変わらない、鈴が鳴るような声と愛らしい笑顔で話した。
「その人って……?」
「前の施設で一緒だった人。私に凄く親切にしてくれたんだ。口にこそ出さなかったけど、私は勝手にお姉ちゃんって思ってた」
日向の口ぶりから、その人は日向にとってはとても大事な存在だと感じた。
「今はどうしてるの?」
「さあ……ある、急に日いなくなったから」
「へ~なんかミステリアス……その人って男の人?」
朋花がお茶を飲みながら聞く。
「ううん。女の人。すごい綺麗で優しくて……強かった」
日向は遠くを見るように語った。
「それっきり連絡なし?」
「うん。でも多分元気なんじゃないかな」
朋花に答えると日向はクリッとした目を私に向けた。
「唯愛に似てるかも」
「わ、私!?」
「うん。悪いこと、不正なこと、そんな奴等を許せないってとこが」
「そんなことないって!私はそんなにたいそうなもんじゃないから!」
私が手をバタバタして否定すると日向は笑った。
「ごめん。なんか語っちゃったね、私」
照れくさそうに言う。
「なんか深かったよ!今の日向」
「そう?」
朋花が肘でつついて茶化すと、日向も楽しそうに合わせた。
日向は私の……私たちの親友。
それは揺るがない。
でも、今さっき口にした日向の価値観。
これは私たちと会う前の日向がいた環境から築き上げられたものだと思った。
私たちの知らない日向……
烈ほどでないにしろ、私たちが想像できないような過去があるのかも……
朋花とじゃれ合う日向を見て思った。
放課後になると私は烈と合流するために、日向と朋花には用事があると言って別れた。
待ち合わせ場所はいつもの公園。
私が行くと烈は先にいて、ベンチに座っていた。
「おっす!」
私が声をかけるとスッと立ち上がり、ニッコリと微笑んだ。
「じゃあ行きましょうか」
「あー!ちょっと待って!飲み物買ってきて良いかな?」
「飲み物?」
烈が人差し指でメガネをクイッと上げる。
「急いできたから喉乾いてさ」
「大丈夫。ちゃんと飲み物があるところですから」
いや、今飲みたいんだけど!
と、言おうとしたら烈はすたすたと歩きだした。
しかたない……
私も後に続く。
「ねえ?これから会う人って烈のボス?」
「ボス?まあ、だいたいそんなもんと受け取ってくれたらいいですよ」
「じゃあ私のボスにもなるわけね」
「それは違いますよ」
「えっ」
「唯愛さんのボスは僕です」
「そうなの!?」
「だから僕の言うことには従ってもらいますよ」
爽やかな顔で宣言された。
私は烈の子分か……
まあ、新米だしな……
……
ドン!!
「な、なんですか!?」
いきなり烈に軽く体当りした。
「別に。ちょっとね」
ボスと手下という関係にちょっと納得がいかなかったから八つ当たりした。
「やれやれ……」
烈は呆れたように頭を振った。
そして歩くこと十数分。
烈がふっと指さす。
「ここです」
「ここ……?」
そこはマンションの一階に構えたオシャレな感じのカフェだった。
ここにいるのか……
烈に殺しの仕事をまわすボスが……
自分が緊張してくるのが否が応にもわかった。
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