第6話 月

電車に乗って地元に着くと、夕方二人で行った公園に向かった。

公園のベンチに座った頃に私は自分の中の変化に気が付いた。

現実に目の前で人が死んだことに対する驚き。

私の中に「あんな奴等は死んでざまーみろ!」と思う気持ちがある。

私は今まで悪いことは許せないと思っていた。

人殺しなんて極めつけだと。

でも……

現実にあいつらを見て怒りと憎悪が吹き上がって「こんな奴等は生きる資格がない!!」と思った。

そして今は……スカッとしてる。

そんな自分に驚いた。

すぐ横にいる烈君を咎めようとかそんな気持ちはさらさら無かった。

「どうした?」

「えっ……いや……ありがとう」

「ん?」

「助けに来てくれて……それにあんな強いなんて思わなかった…」

凄まじいまでの強さだった。

目にも止まらないナイフ捌き。

私の目の前にいる烈君はいったい何者なんだろう?

「別に助けに行ったわけじゃないよ」

「えっ…そうなの…」

じゃあなんであのタイミングで?

「仕事だから行ったんだ」

「仕事って……?」

「あいつらを殺してくれって」

「それはつまり……」

「鈍いね。わかりやすく言うと殺し屋だよ」

「こっ…んぐっ!!」

いきなり口を手でふさがれた。

「大きな声だすな」

低い声で言われた私は頷く。

烈君の手が離れた。

烈君が殺し屋!?

「ねえ?マジで言ってんの?」

「ああ。信用するかどうかは唯愛次第だ。別に信じなくてもいいけどな」

信じられないよ。

だって、あなた私と同じ高校生じゃない。

でも……

あの強さは並じゃない。

本当に殺し屋なのかも……

「そこのDVD見せてくれ」

「う、うん」

私はバッグごと渡した。

烈君はその中から一枚だけ取り出すとライダースジャケットのポケットにしまう。

「ここに映ってる子の遺族から頼まれた。あいつらの始末と動画の消去。こいつは俺が始末する。あとは好きに処分しな」

「ま、待って……遺族って、そこに映ってる子は」

「自殺したよ。一年前の今日、ついさっき俺が乗り込んだ時間にな」

言葉がなかった。

死んだなんて……

それも自殺……

「今日、この時間に奴等を殺してくれ。これが依頼内容の最低条件だった。そこへ行ったら唯愛がいただけだ」

「そう……その人たち、遺族は警察には?」

「言ってないよ。告発したところで奴等は死刑にならない」

烈君は立ち上がった。

「さて。今日は最後の一人を殺るか」

「最後……まだ仲間がいるの?…はっ!!」

物凄い速さで抜かれたナイフが私の首筋の前でピタリと止まった。

「おまえだよ。唯愛」

「な、なんでよ!?」

烈君の目は底冷えするように冷たい。

「俺の殺しを見た。目撃者は生かしておけねえ」

固まって声すら出ない。

ビルに入る前を思い出した。

ビルに入らぬよう忠告した人がいたことを。

あの人はもしかして烈君が殺しに来ることを知っていたから私を止めた?

冷たい刃が首筋に触れる。

そしてスッと離れた。

そのままナイフをフォルダーに収める。

「な、なんで?」

「今回だけは見逃してやる」

「えっ…い、いいの?」

「借りがあるからな」

「借り?借りってなに?私、烈になんか貸してた?」

「なんでもねーよ。それより」

烈君は座ったままの私に合わせるようにしゃがむと、顔を近づけた。

「今日のことは忘れろ。誰にも口にするな。もし誰かに話したら……そのときは躊躇なく殺す」

「烈ーー!!」

感極まった私は抱きついた。

「なっ!なんだよ!?」

「もう!こんなカッコよく強くなってさあ!どうしたのよ!」

「はあ?」

「私も仲間になるよ!」

「なに言ってんだ?おまえ」

「悪党をやっつけて世直しするんでしょ?私もやる!っていうかやりましょう!一緒に悪人をやっつけよう!!」

二人で見廻りしたのを思い出した。

「バカッ!離れろ!」

烈は私を引きはがす。

「子供の遊びじゃねえんだよ」

「烈だって子供じゃん!私と同い歳のさあ!」

「付き合ってられねえな……声かけるんじゃなかった」

「えっ?なに?」

「なんでもねーよ。じゃあな」

烈は私に背を向けて歩きだした。

「おやすみ!」

ピタッと止まって振り向く。

「約束は守れよ。忘れんな」

「わかってる。任せて!」

呆れたように首を振ると烈はまた歩き出す。

私は後を追うように駆け出した。

「ねえ!一緒に帰ろうよ!」

「方向が違うだろ」

「途中までいいじゃん!ほら、夜は物騒だしさ」

「はあ…好きにしろよ」

ため息混じりに言う烈の横に並んで歩いた。

「ねえ?月が綺麗じゃない?ほら」

「興味ねえよ」

素っ気なく言う烈を見てクスっとすると、月を見上げた。

烈は根っこの部分、真ん中は変わってない気がした。

あの月みたいに。

月も変わってない。

小さい頃に二人で見上げた月と。



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