第17話 地下970メートル



 ソナー員であるアンズがアンテナと共に落下した為、艦橋は混乱していた。

 あらゆるリンクが切れて、異常があったという事実に気付くのが遅れたのである。

 気付いた時にはシップ・スパイダルの艦橋から視界に入ったホーネットが、穴から飛び出してきて蜘蛛に向かってくる姿。

 出てきたのは五機。

 濛々と土煙を上げる中、一機のホーネットが飛び出した際に崩落した岩に足を挟まれたが、他の機体に引っ張り上げられて一命をとりとめていた。


「問題が起きたようです」


 ジュジュの隣に立っていたボッシが、淡々と報告した。

 その位は見れば判る。 詳細が知りたいのだ。

 採掘作業でカメラを持っていくことは稀である。

 場合によっては数百メートルもの地下に蜂たちは潜り込んでいくから、無線通信はソナー員が居なくては不可能だ。

 有線機器の存在は邪魔になる。

 何よりも、土煙が舞い光源の無い地下では、カメラを持って行っても良く見えないという根本的な問題もあった。

 だが、こういう時は視覚情報が欲しくてたまらない。 見えないという事実がジュジュにとって非常に疎ましかった。

 ボッシは彼女を一瞥し頷くと、ジュジュは通信を一つ開いて尋ねた。

 相手はクウルである。


「発信は幾つですか?」

『五機』

「誰の……機体ですか?」


 予想されていたのか、即座に答えが返ってくる。

 二機足りない。 子供でも分かる単純な引き算だ。

 聞いても意味の無い事だと頭の中で理解しながらも、ジュジュはクウルに尋ねたが、先に割り込んできたのはスヤンの怒鳴り声だった。


『ちくしょうがっ! アンズの奴! 引きずりやがって!』

「スヤン、聞こえるか。 話してみろ」

『馬鹿が馬鹿した、フラッシュバックだ。 トラウマになって巻き込みやがった! ついでに俺らも死にかけたっ!』

「落ち着け、スヤン。 お前が興奮してどうする」


 先の《土蚯蚓》襲来時の爆炎が原因だろう。 アンズはその精神―――いわゆるPTSDと呼ばれる物に患っていた。

 今回の発破作業を行うまで、誰も気づかなかったし、アンズ本人でさえ自覚していたのか怪しい。

 ボッシとスヤンの通信を横目で眺めながら、ジュジュはクウルに向けて尋ねる。


「信号は辿れる?」


 ホーネットそのものに電子機器は幾つも搭載されているが、機体が稼働している限りは定期的に位置を報せる信号を送っている。

 それは全方位に数百メートルほど飛ばされており、シップが範囲内に居れば必ず捕らえる事が可能だ。

 クウルは沈黙していた。

 ジュジュは眉根を顰めて、艦長席を窺う搭乗員を指でさした。

 その指は電子モニターの一つに向かっている。

 現場のボーリング作業で割り出した数値を入力し、地形図を含めて周辺のデータを更新するのが艦橋の仕事である。

 ここで入力された情報がソナー員のアンテナに送られて、採掘作業が進められるのだ。

 ジュジュの意図を理解した男性が、慌ただしくモニターに向かって電子パネルを叩き始める。


「艦長、コウとアンズが亀裂に落ちたそうです。 それと―――」

『おい! アンズのデータにはあんな場所に亀裂なんか無かったぞ! どうなってやがる!』

「スヤン、気持ちは分かるが落ち着くんだ」

『うっせぇっ! ボッシ! 俺が聞いてるんだよっ!』


 通信越しに何かを叩きつけるような音が艦橋に響いた。

 スヤンは激怒していた……当たり前だ。

 命が懸かっているのだ。

 艦橋に響いていたパネルを叩く音が止むと、小さくクルーの一人が声を上げた。

 ジュジュがそちらに目線だけでチラリと覗けば、口を半開きにしたまま、モニターに視線を向けて首を左右に振る。


「どうしました」

「か、艦長……その……」


 彼女が声をかければ、ゆっくりと振りむいて絞り出すように応えた。

 その顔は青を通り越して、白くなっているようにも見えた。

 ボッシが端末に近づいてデータを照会すれば、図面と計測値をすり合わせた画面が表示されている。

 計測値と入力値の桁が、一つかけ違っていた。

 俯いて身を震わす男性を見て、ボッシは小さく息を吐くと通信のマイクに成っている部分を抑えてジュジュに顔を向けた。

 同じようにジュジュも胸元の通信機を手で塞いでから


「なんですか?」

「艦長、ヒューマンエラーです」

「……そうみたいですね」

「す、すいません、俺が……」


 艦橋の前に座っていた、俯いていた男性が立ち上がり声を上げるが、周囲の人からの視線に耐えられなくなったのか言葉尻は沈んだ。

 傍に居たボッシは、肩を叩いて。


「今は何も言うな、我々全員の失態だ。 それで、実際にコウとアンズが落ちたのは、どの空洞だ?」

「あ、今……打ち直して……えっと、場所はこっちのモニターに出します」


 時間を掛けずに表示され、モニターの前にボッシは手をかけながら睨んだ。

 ジュジュも立ち上がって、後ろから覗き込んだ。

 地下970メートル。

 シップ・スパイダルがホーネットの信号を得られる範囲の外。

 これが事実ならデータリンクも通信も、何もできない。


「艦長、どうしますか」


 ボッシの声で全員から向けられた視線に、ジュジュは察した。

 どうするか、という問いには複数の意味が込められているのを。

 一つは今後のシップの方針だ。 採掘中の事故が起きた場合、素直に引くことが常套である。

 何より、今回ははぐれたホーネット乗りの生存が確認できない。

 しかも地下深くの縦穴に落ちて、その穴は崩落した土砂によって埋められて掘る事も不可能。

 救出の見込みは限りなく低いと言わざるを得ない。

 ジュジュは顎に手をあてて、誰にも見えないように歯噛みした。


「……スヤンさん、聞こえますか」


 長い沈黙を破って、ジュジュが声をかけたのはスヤンだった。


『……ああ』

「ミスはありません。 ボーリング作業で拾いきれなかった空洞があったのでしょう」

『そうかよ』


 おそらくスヤンは、これが嘘だというのが分かっているだろう。

 実際のところは本人に聞いてみないか限りは分からないが、ジュジュは不思議とそう思えた。

 そもそも、ボーリング自体は数十度の試行に及んでおり、地質や地層を精査している。

 現場で指揮を執っているスヤンも当然、この割り出したデータを下に作業を行っているのだから、言い訳にしか聞こえないだろう。


「それで、救助できる可能性はありますか?」

『あぁ? なんだよそりゃ、あるって言ったら助けるってのか? 冗談だろ』

「予測の落下地点は……地下970メートルです。 可能性があれば、救助します」

「艦長、気持ちはわかりますが、ここは素直に引くべきです」


 スヤンの呆れたような鼻で嗤う声に、ボッシが同意するように強く諫める。

 ジュジュも分かっているのだが、どうしても踏ん切りをつけることができない。

 いや、したくないのだ。

 拳を握り、声を震わせて足掻く。


「……穴に落下しただけなら無事かもしれない、助かっている可能性はありますか?」

『おいおい、本気で言ってるのか。 どうかね、一度も落ちた事なんか無ぇから判らねぇな。

 だけどなジュジュ。 正確な位置も不明、生存も不明じゃ徒労になるだけだ。 今回ばかりは同意はできねぇ』

「正論です、艦長。 ホーネット及び作業人員の損失2。 これで納得して下がるべきです」


 全ての作業に使われる道具は殆どが消耗品だ。

 耐熱・耐冷を備えて、耐粉塵などの処置を全ての道具に行うには手間と時間、そして費用や資源が足りな過ぎて現実的ではないからだ。

 《土蚯蚓》の襲来や今回の作業トラブルによって放棄を躊躇うような装備は、極力排除することに抵抗が無い物を揃えていくのが原則だからだ。

 リスク管理の一環でもある。

 スヤンとボッシ、どちらもシップ・スパイダルにおいては右に出る者が居ないほど、熟達したベテランの艦乗りだ。

 その二人が言う事は間違いじゃない。


「地形図をこっちに!」

「あ、はい……!」


 それでもジュジュは藻搔いた。

 コウ達が落ちて行った空洞の計測値を見ながら、周囲の空間との繋がりを見て行く。

 惑星ディギングの地下に出来た空洞は、自然に出来上がった物は極少数である。

 ほとんどの場合土蚯蚓の通った痕跡であり、地中を削っているせいで生まれるものだ。

 《土蚯蚓》はどうしてか、理由は分かっていないが地表に顔を出すこともある。

 空洞部と地表部が繋がっている場所が、この周辺にもソナーで割り出した範囲以外にもあるかもしれない。

 それは決して、稀ではない事である。


「……ここ、すぐ近くに深い縦穴が出来てますね。 横穴に繋がっていて……地表からは72メートル……でも、途中で切れているわ、何故?」

「恐らく、そこはボーリング作業での範囲外です。 探査できる限界だったのでしょう」


 クルーの声に、ジュジュはかすかな希望を見た。

 同一の《土蚯蚓》が這って削っていった穴ならば、コウ達の落ちた地下深くにまで潜っていても可笑しくない。

 縦穴が不自然に途切れているなら、コウ達と連絡さえ取れればシップ・スパイダルが誘導できるかもしれない。

 もしくは、シップ・スパイダルで直接土蚯蚓が作り出した穴へと移動し、跡を追う形ならばどうか。


「スヤンさん、ホーネットの掘削余力はどの程度残っていますか?」

『あぁ? なんだと?』

「ジュジュ」


 硬質な声がいやに響いてきて、ジュジュは振り向いた。


「だめだ」


 彼女の視線と真っ向からぶつかり合って、ボッシは否定を言葉にする。

 ジュジュの苦悩は、艦長としての経験を積んでいたボッシには手に取るように分かっていた。

 シップ・スパイダルは初航行であり、艦長となったばかりのジュジュにはまだ理解できないだろう。

 深い地下空洞に外骨格のみで落ちていったホーネットは、衝撃吸収材があっても生存している事は限りなく可能性が低い。

 仮に運よく生き残ったとしても、怪我の度合いによってはすぐに死ぬ。

 それでも生きていたとして、地下空洞は日光が届く事の無い闇の世界だ。

 ホーネットの動力は電気であり、その電力を生み出すのは惑星ディギングの二つの恒星による強烈な太陽光エネルギー。

 制限時間はおおよそで逆算しても6時間ほどが限度なのを、ホーネット乗りでもあるボッシは判っていた。

 更に言えば、コウ達が落ちた穴が《土蚯蚓》によって作られた物とは限らず、例え道が見つかったとしても肉眼では確認できない地下世界を把握することは困難だ。

 どこかで道が途切れている、新たな崩落や地滑りが、或いはそもそもが脱出不可能な構造だったら。

 シップ・スパイダルではシティの訓練課程を修了したばかりの新人も多い。

 救出に向かえば確実に助かり、経験を積める艦乗り達を、道ずれにしてしまう可能性を考えて然るべきだった。

 コウ達の生存や位置も未だに不明。

 ホーネットに頼れない状況でシップ・スパイダルの駆動はリスクが伴い続ける。

 ボッシの短い否定の言葉には、今あげた全ての要因が含まれている。

 

 頑なで意思の強く籠った、言葉をぶつけられ。

 ジュジュが子供の頃から、両親と共に優しい眼差しを向けてきたボッシの射るような視線に貫かれて彼女は慄いた。

 こうまで強く救出に反対する。 

 ボッシの判断はこれまでの航行でも狂うことなく、まこと的確であり彼さえ居れば大丈夫だと安心さえしていた。

 そんな彼が、断固たる姿勢を崩さない―――ジュジュは顔を俯かせようとして、両手を握って服を潰した。

 ここで頷いてしまえば。

 この場で首肯してしまえば。

 本当に終わりだ。

 ジュジュは、艦長となってから彼女自身が掲げた、シップ・スパイダルの目標。

 これだけはジュジュだけが決めた、約束。

 全員で無事にシティへ、戻る事。

 貫き通せなかったら、蜘蛛の母ではいられなくなる。

 ふっ、と脳裏に最後に会話をしたコウの言葉が蘇った。


「……いやよ」


 時間をかけて。

 それでもボッシのように眼に力を込めて、真っ向から見返して。

 短く簡潔な否を突きつける。 声は自分でも自覚できるほど震えていたが。

 それでも、服の胸元を握りしめて、通信機を抑える事もせず、彼女は喉を震わせた。


「この鋼鉄の蜘蛛に乗り込んだ時、言ったはず。 艦長はボッシがなるべきだって」

「……」

「テメェがトップなら、この騒ぎも仕舞いにするさ。 クソみてぇな博愛主義に目覚めることなく黙って判断を受け入れる。

 こっちだってどれだけド正論を吐かれてるか、なんて理解してるからな」

「クルー全員の命を天秤にかけるのですか?」

「ボッシ。 推した。 そしてここまで導いてくれた。

 神輿に乗って黙って居りゃ仕事が終わる、それは今でも変わらねぇ話だろうよ。 そう、今までは少なくともカスすら霞む存在価値しか無かったのが"自分”だった」


 半ばボッシの声を無視した形で、ジュジュは話を続けていた。

 喉を抑えることも無く、しっかりとボッシの真正面へと立って、顔を上げて。


「でもな、ボッシ。 いいか。 シップ・スパイダルの艦長はジュニエルジュ・ジュール・カイト・シル・ジュジュエット、この私。

 もうそれは他のどこの誰が、神や悪魔だろうが、艦長になると決めた時点で、この話は覆らなくなったんだ。

 そして半端者の半人前ばかりでも、この蜘蛛の艦の目標を忘れてるトンチキは居ねぇはずだ。

 例えこの場に私が一人きりだったとしてもだ! 全員で生きてシティに戻ることだけは、艦長として絶対に諦めねぇぞ、ボケカスがぁっ!」


 目の前のパネルを力一杯に叩き、感情を吐露するジュジュの声は、通信を通して艦全体に響き渡った。

 肩で息をしているジュジュの叩いたパネルの音に従って、地形図が前面の大型モニターに映し出される。

 ボッシは溜め息を吐いた。

 前言を悔いたのだ。 ジュジュの態度を硬化させてしまった、と。


「シティに全員で戻るのよ。 ポイントを変えて次の採掘に向かう。 ついでに逸れたホーネットを探せ。

 スヤンさん、30分の休憩を取った後に蜂が出れるように準備を進めろ」

『本気かよ……』

「スヤン、待て。 艦長の心中は察しました。 ですが、今は理想をしまい込んで現実を見つめるべきです。

 我々は艦乗りとしてシップ・スパイダルに乗り込んでいます。 命を懸けて。

 しかし、死に繋がりかねないリスクを無駄に増やしてはいけません。 冷静になってください」

「同感だぜ、ボッシ。 命は大切だ。 テメェは最悪ギリギリの限界点を見極めろ。 これはする。

 経験の足りないヒヨッ子どもには絶対出来ない事で、癪だが頼れるのはプロのテメェしか居ねぇからだ。

 いざとなったら私のケツを叩いてぶっ飛ばしな、二つの恒星にまで突っ込んでいってやるから」

「ジュエット……」


 ボッシはその声に、根負けするように目元を手で覆って言ってしまった。

 艦長のジュジュが通信をそのままにして、艦全体に響き渡る様に意図を宣言してしまった時点で、言葉はもう届かない。

 救出ではなく採掘を目的にすれば、効率に目を瞑るなら作業自体は可能だ。

 稼働可能なホーネットは五機も残っている。

 それは況や屁理屈にすぎないが、やろうと思えばやれない事はないだろう。

 そんな思考が脳裏に過り、ボッシはジュジュの決意に折れようとしている自分を自覚して天井を見上げてしまった。

 被っていた帽子を一度脱いで、くるりと手の中で一度回すと、帽子をまたかぶり直して。


「分かりました。 限界だと判断したら、覚悟をしてくださいね、

「結構」


 そんな区切りが付いた所だった。

 まるで見計らったかのように一本の通信が艦橋に届いた。

 その声は聞き慣れないものであり、まずもって艦橋に通信を行うような者ではなかった。


『微弱な救難信号を受信しました』


 声の正体はクウルの傍に控えているはずの、ガイノイドのメルだった。

 ジュジュは思わずモニターの一つに表示されている、ホーネットからの信号を確認する。

 光点は五つで変わらず、何かの混線かと思ったが、続くクウルの捕捉するような声でそれは否定された。


『捉えた信号はメルのアンテナから。 発信先はまだ特定できてない。 多分、どこかからの混線』


 何かに気付いたかのようにジュジュは顔を上げた。

 休憩場でコウが見せてくれた、左腕に装着された過去の遺物。 個人用の携帯端末だ。

 千年の眠りから覚めて、唯一の彼の私物だろうソレを、注視していて知っているのは、このシップ・スパイダルにおいてジュジュだけである。


「クウル、メルの受信アンテナはどこで?」

『? 私の祖父から貰った物。 アンドロイドに興味を持ったからって、プレゼントされた』

「《祖人》ね?」

『え? うん……そうだけど……なんで判ったの?』


 半ば確信を抱いて問いかけた尋ねに、帰ってきた言葉は予測通りのもの。

 ジュジュは勇気をもって踏み出した一歩先に、光明が見えた気分であった。

 シティ周辺では通信の混線で済ませたかもしれないが、ここは大地の海の上である。

 受信した信号は《祖人》から渡された、高精度なアンテナ。

 ジュジュはモニターからは眼を話さず、視線だけでボッシを流し見た。


「少なくとも、一人は生きている。 ボッシ……彼よ」

「……スヤン、聞いていたな。 ポイントを変えて採掘を続ける。 準備をしろ」

『ちっ、扱き使いやがって。 後で覚えてろよクソったれ、通信終了だバカヤロー!』

「……ごめんなさい」


 荒々しくスヤンからの通信が途切れると、ジュジュは誰にも聞こえないほどの声量で、謝罪をこぼした。

 方針が決まったのならば、呆っとはしていられない。

 救難信号の精査や交信が可能かを打診し、可能ならば位置の割り出しをメルのアンテナ経由で行えるかを願う。

 クウルは自信の無さそうな曖昧な返事を返したが、ジュジュはそれに頷くとボッシと次の採掘ポイントの細部を詰める。

 ホーネット乗りにはソナー員が必ず必要だ。

 艦橋と現場を繋ぐ大事な役割を担っており、ホーネットたちの目と耳にならなければならない。

 現場に身を置く以上は実務となる、掘削や採掘の作業は言うに及ばず、現況のあらゆる場面を俯瞰できなければならず、機器の知識はもとより地層・地勢における危険や状況判断も必要だ。

 ソナー員に求められる役割は総合的な能力が高くなければ、務められるものでは無いのである。

 このシップ・スパイダルでホーネットのソナー員になれるものは3名。

 アンズ、スヤン、そしてボッシだけだ。

 

「では、艦長。 私も休息に入ります。 作業が始まってからは、艦橋の事をお任せします」


 鉄面皮のままそう言って退室するボッシに向かって、ジュジュは口を開くことなく頷き、頭を下げた。

 そして、顔を上げ、指示棒を振り上げて声を張った。


「次の採掘ポイントに向かいます! 脚を出してっ!」

 

 一時間ほどの待機を経て、シップ・スパイダルはジュジュの命令によって動き始めた。

 億劫そうに鋼鉄の蜘蛛脚を突きだし、のろのろと移動を始めたのである。


 

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