第5話 土蚯蚓



 凍った時間が溶ければ、その速度は早いもので。

 コウがカプセルから目が覚めてから、時間でいえば三日間が過ぎていた。

 人類のホームである地球に照らし合わせれば、72時間。 この惑星ではまだ陽が沈む気配はなく二つの恒星が元気に大地を焼いている。

 シップの中での生活に一定のリズムが出来始めていた。

 殆どを宛がわれた部屋の中で過ごすので、つまらないと言えばつまらない。

 寝台と椅子、食事のためのテーブルが狭い個室に納められていて、飾りつけもされていない鉄と扉に囲まれた殺風景の部屋の中。

 やることと言えば、人間には避けられない欲求を満たす事と、移民船の事故についての資料や惑星ディギングにおける歴史を調べること位だ。

 後はせいぜい、クウルと雑談に興じるくらいで、いい加減に暇になってきた。

 心の整理は、ついたと思う。

 このシップ・スパイダルに乗っている皆が言っている事は、決して大袈裟な物じゃ無いということ。

 コウは部屋に用意された端末の名前に座って嘆息した。

 のけ反る様に背もたれに体重を預けて、天井を見上げる。

 無理やり鉄釘で鋼の板を取り付けたような、無骨な天井が見えた。

 そのままコウはゆっくりと目を瞑ってその景色を追い出すと、脳裏にアンズの声が蘇る。


 なにができるの?


 実のところを言ってしまえば、コウには突き刺さる物があった。

 こうしてモニターに映る資料を捲って惑星ディギングの歩んだ歴史や、今日にいたるまでの事情を知れば知るほど、その思いは強くなった。

 実感こそない物の、今はもう千年も前のこと。

 移民船に乗り込んだ時、コウはまだ学生だった。

 専攻していたのは、宇宙船外での修復作業やデブリ除去などを担う小型の作業機体免許の取得を主としたものである。

 この荒涼の大地で役立てるような技術は、きっと持っていない。

 そうなるとアンズだけではなく、自分を拾ってくれたシップ・スパイダルの全員の期待を裏切ってしまったように感じて、なんだか居た堪れない気持ちが湧き上がってくるのだ。

 別にきっと、何も出来なくても彼らの対応は変わらないのだろう。

 それは資料からも読み取れるし《祖人》に対しての考え方はおおよそ理解したつもりだ。

 ゆっくりと目を開いて、端末を横目で眺める。

 この装置も、随分と自分が日常的に触れてきた物と違う部分が目立つ。

 まず、原始的だ。 入力装置は有線コードで直接つなぐ必要があり、口頭で命令も出来ない。

 標準的に搭載されていた補助AIも当然なく、いちいち面倒な手順を踏まなければ調べごとも捗らない。

 唯一救いと言って良いのは、千年たっても使ってる文字が変わっていない事だろうか。

 単純に読み書きができるだけではなく、プログラムその物に使われている言語も一緒だった。

 ふと、コウは自分の左腕に装着しているリストバンドに目を落とす。

 黒いベルト部分の中央に、蒼い宝石がくっついているデザインの物で、実はこれは個人用の携帯端末だ。

 用途は様々。 個人バイタルも見れるし、相手の身体に触れればその人のバイタル情報も取得できる。

 データベースとしての機能もあるし、音声会話、周囲の気温や湿度などの環境情報の取得など、多機能である。

 固定端末への接続用に、細い電子スレッドコードが搭載されており、惑星ディギングに降り立ったコウにとって洋服以外では今は唯一の私物と言えた。

 とはいえ、規格の違いから繋げられる端末も無いので、その機能はオミットされているのに等しいのだが。

 それも千年前の環境を前提にしたものばかりなので、この個人端末に入ってるデータが役に立つことは無いのだろう。

 せめて専攻していた艦外作業用の修復機体リペアマシンナリーがあれば別だろうが、無い物をねだっても仕方がない。


「あぁぁ~~っ、もうっ! どうすりゃいいんすかねぇ!」


 女々しいと自分でも思えるが、どうしても頭に過るのは移民船に搭乗する前の出来事ばかり。

 友人や父親はどうなってしまったんだろう。

 飛散してコウのようにまだ眠っているのか。 それとも、調べた歴史の中に消えてしまっているのだろうか。

 忘れようと別の事を思おうとしても、時間が経った時にふいに気になってしまって集中できなかった。

 電子音が響く。

 テーブルに備え付けられた端末からは、艦橋から直接繋がる通信機器が設置されている。

 冷却装置の駆動と、その振動だけで驚いてしまったコウの話を聞いた艦長のジュジュが、わざわざ備え付けてくれた装置だ。

 すぐには取らず、暫くしてからコウは息を吐き出して受話器を取った。

 声の主は、副艦長のボッシ。


「コウです。 どうしたんですか」

『休んでいるところ悪いな。 少し騒がしくなるから、驚かない様に連絡をしておこうと思ったのだ」

「ああ、冷却装置がまた動くんですか?」

『いや、ミミズが来た』

「み、みみず……?」

『うん? まだ知らぬのか? 端末で《土蚯蚓》について調べて見たまえ。 少し忙しくなるが、大事にはしないから安心してくれ』


 ボッシの声は落ち着いた声色だったが、その発言は矢継ぎ早だった。

 言い終わるのが早いか、通信が切れるのが早いかと言った具合だ。

 どうせやることも無い、とコウは言われた通りに《土蚯蚓》について端末を弄って検索した。


「おわっ!」


 同時、艦内に轟音が響き、冷却装置の駆動とは比べ物にならない振動が大地を揺らした。

 思わず端末に身体ごと寄せてしがみつく。

 慣性によって体が引っ張られる感覚から、シップ・スパイダルが動いている事が分かった。 

 上下に、時に左右に揺れ動く室内に、言い知れぬ恐怖を覚えながら、端末に表示された映像に視線を向ける。

 《土蚯蚓》

 そう呼ばれる生物が、この惑星ディギングには居る。

 大地の底を縦横無尽に掘り進み、小さい個体で3メートルを越える大きさ。

 巨躯なものであれば海洋生物であるクジラと変わらないほど成長し、その巨大な体躯を振り回す惑星ディギングの厄災。

 シティの発展を妨げ、人類が急激な人口低下する原因ともされ、資源採掘の大きな障害となっているのが、現住生物であるこのはた迷惑なミミズ共であった。

 言葉でこそミミズと称しているが、巨大な細長い岩石が移動していると言った方が良いだろう。

 あえて近い生物を参考に、呼称されているに過ぎない。

 これが今、現れたということだろうか。

 こんなバケモノみたいな奴等が。

 コウは振動から立ち上がる事も出来ず、モニターに映し出された《土蚯蚓》を凝視していた。



「艦橋だ。 繋がっているか」

『へいへ~い』

『聞こえてます』

『大丈夫です』

『通信状態、良好』

「結構だ。 クウル、全員の状況はしっかり見ておけ」

『了解』

『そっちで捕捉したのは、大きそう?』


 例の宇宙服のような分厚い服装に着替えたアンズとスヤンを始めとした《ホーネット》乗り達が艦橋のボッシに答えを返す。

 頭部をすっぽりと包み込むヘルメットを被り、特殊素材で作られたバイザーを降ろして視界を確保。

 普通のガラスでは照りつける二つの恒星の熱波に焼かれ、溶け落ちてしまうからだ。

 艦外作業機ホーネットの座席部に乗り込むと、機体から何本も飛び出しているコードを引っ掴んで、ヘルメットや艦外作業服に空いている穴に突っ込んでいく。

 これらを接続することで、温暖の激しい場所での活動をするための調整機器だ。

 熱波や酷寒の中で動けるよう、冷気や暖房を送り込み、ホーネットに付けられた尾部のジェネレーターを利用して、作業者を守るための装置である。


「まだ地表に姿を現していないから大きさは不明だ。 艦橋のデータでホース馬級からエレファン象級を予測している。 数は多くても15体は居ないだろう」

『へっ、余裕じゃねぇか。 めんどくせぇな』


 ボッシの声にスヤンがおどけた調子で応えた。

 スヤン以外のホーネット乗りは、曖昧に同意する様に笑った。

 スヤンのその笑い声に鼻を鳴らす。

 個人の端末からアンズの機体に通信が入る。 このタイミングで何を?

 アンズは顔を顰めながら通信機のスイッチを入れた。


「アンズ」

『はい……? なんですか、ボッシさん』

「コウ君にミミズの事を話して居なかったな」

『……すみません』

「義務だぞ」

『分かってます』


 ボッシの注意にアンズは面白く無さそうに答えた。

 施設の案内をしてからアンズはコウを艦内で見かけても無視をしていた。

 本当は《祖人》を任された以上、しっかり全てを説明しなければいけないのにも関わらず。

 判ってはいるが、一度こじれてしまった関係に、どうしても声を掛けることが出来なかった。

 半ば、艦橋からの注意を無視する様に、顔を振ってホーネット起動の準備を推し進める。

 全てのコードを接続、ホーネットのプログラムが立ち上がり、稼働を確認すると、シップの発着場に12機ものエンジン音が唸りを上げて轟音を響かせる。

 この艦外作業機に用いられるエネルギーは全て、二つの恒星から得られる熱射と熱量―――太陽の光で賄われていた。


『進路が逸れてくれりゃ良いんだがな。 面倒がなくてよぉ』

「戦う訳じゃないんだから、何時もとやる事は変わらないわ」

『はん、俺は嫌だね。 何が悲しくて汗まみれ泥塗れでミミズ共の道を作ってやらにゃならねーんだ』

「そうぼやくな、スヤン。 奴等に捕捉されないのであればそれでいい。 だが、難しいと判断すれば出てもらうぞ」


 ボッシの声にスヤンは気怠く返し、アンズを含むホーネット乗り達は思い思いに了解を返す。

 シップ・スパイダルに搭載されているホーネットの数は全部で十二機。

 この部隊は年長者であるスヤンが率いている。 ただ年長者だからと言う理由だけではなく、スヤン以外にホーネットに搭乗して《土蚯蚓》と相対したことは無い者たちばかりだからだ。

 この十二機のホーネットの用途は、基本的には採掘用に開発されたものである。

 道具を所持する能力を持っているので、兵器にも転用できるポテンシャルがあるだけで、シティを守る為に配備された物とはタイプが違う。

 戦闘用のものでは無いのだ。

 制御は生身でも動かすことが可能だが、より力を引き出す為のプログラムも作られている。

 ホーネットは人間の動きを延長させることが目的で作られても居る。 掘削作業においては最終的には人の手が必要になるからだ。

 過去、艦外作業機が産まれる前は爆破による、非効率的な手段での資源の回収が主だった。

 広大な大地に眠る資源の回収という面において《祖人》が生み出したホーネットという機体は、この星の歴史を変えたと言って良いほどの大変革だったのである。

 全機の発進準備が整ったところで、スヤンはバイザーを降ろしてそれまでの態度を一変させた。


『掘削工具、発破、作業工程の全確認。 ホーネット全機オールグリーンだ。 どっちも準備完了、いつでもどうぞってな』

「艦長、準備が終わりました」


 報告を受けてボッシが通信装置から離れる。

 シップの後部遠望カメラが映すモニターをじっと見つめて、ジュジュは小さく頷いた。

 端末を操作して、地形図を出しながら声を震わす。


「来るわね?」

「ええ、来ますな」


 二度目の探査でミミズ共との距離がキロ単位で近くなっている。

 《土蚯蚓》どもは大きさはそれぞれ個体差があるし、大きいものほど重力に引かれて動きが鈍くなるのも他の生物と変わらない。

 それでも全長で20メートルを越す《象級》でさえ、その速度は時速100キロを越える速度で移動する。

 小型な物になれば300キロを越える速度を出す個体すらおり、その質量は岩盤のそれと変わらない。

 すなわち、高速の質量の塊が飛び込んでくるのである。

 小型の土蚯蚓であろうと5メートルに及ぶ大きさ、それが200キロを越す速度で次々にぶつかってくれば、シップ・スパイダルでも損傷は免れない。

 下手をすれば動力部などに激突し、最悪は爆発事故を起こすことになるだろう。

 幸いと言って良いのか分からないが、土蚯蚓に明確な意思や理性はない。

 意図的に攻撃を加えてくるといったような、敵意とは無縁で全てが無秩序な移動に巻き込まれる形である。

 つまり、大地を潜って。

 或いは、地表を這って暴れまわるのは全てが無軌道な移動による偶然。

 惑星ディギングに住む者たちにとってはこれ以上ない、はた迷惑な存在なのには違いは無いが。


「シップ最大速度での移動で、エネルギーはどのくら持ちやがるんだ、クソども」

「大方15分です、艦長」

「ん、ボッシさん。 ここいらの測量済みの地形図、空洞、ソナーでの反応、ぐずぐずしねぇでとっとと出してください」


 ボッシは言われた通りにクルーからの情報を、手早く自身の端末で纏めて表示する。

 ジュジュの座る目の前のモニターが別れて、その奥にある地形地図のデータが表示された。

 人類がこれまでに踏破し、命を懸けて記載してきた世界地図でもある。

 時間を確認したのはシップ・スパイダルのオーバーヒートによる機関部停止までの猶予を確認する為だ。

 スパイダルの最高速度は100キロ前後。 脚を這わせておうとつのある大地を疾駆する中でも最大速度が出る船だったが、それでも《土蚯蚓》と比べれば遅い。

 それに稼働時間も長い方ではなく、船体が多い分だけエネルギーの枯渇は早い。

 それが弱点と言えば弱点だ。


「渓谷がありますね」

「誘い出しますか」

「距離の計算を」


 艦橋に詰める数人のブリッジメンバーが鉄のパネルをけたたましく音を立てて打ち込み始める。

 ジュジュの後ろに立って地形図を睨んでいたボッシが、そっと呟いた。


「微妙ですな」

「ええ、そうね……」

「距離はおおよそ五千。 高さは三百三十」

「渓谷への到達予測時間は八百五十二秒です」


 おおよそ14分。 最大船速で動ける範囲内だが、渓谷に誘い込むには時間が足りない。

 ジュジュの眉間に皺がよった。

 艦橋は静まり返り、ボッシを含めてクルーたちはじっと自らの画面を見ながら情報を収集し続け、じっと艦長の判断を仰ぐ。

 目を閉じてジュジュは一つ上唇を噛んで。

 今日から四日間、二つの恒星に照らされた灼熱が終わりを告げる。

 自然衛星による酷寒の闇夜へと移り変わるのだ。

 最大でマイナス二百度を越える世界に、急速に様変わりしていき、氷の大地へ。

 蜘蛛脚の船シップ・スパイダルに備え付けられた太陽光エネルギーによる発電で、動力を確保している為に酷寒の二日間は動く事すら難しい状況になる。

 この間に蓄電していたエネルギーが途絶えると、搭乗員全員が凍死するという意味とイコールだ。

 口元に手を寄せ、歯を噛んで思考を巡らすジュジュに、ボッシが声をかける。


「艦長、ホーネットを出して蚯蚓どもを誘導しましょう」

「船から遠ざけるのね。 でも象級だったらどうしますか。 尻穴が一つ増える位には危険よ。 日没まではどのくらい?」

「おおよそ四時間後です」


 既に聞かれることは知っていたのか、間髪入れずに答えが戻ってくる。

 今から全力で蚯蚓から離れ、4時間でエネルギーを蓄積して酷寒の二日間をやり過ごせるか。

 現在の稼働状況、エネルギーの残量など様々な事に考えを巡らせていたが、やがてジュジュの肩はがっくりと落ちた。

 クリーム色の長い髪が力なく垂れる。

 ボッシは確認を取る様に良いですか、と尋ね、ジュジュは顔を俯かせたまま頷いた。


「スヤン」

『へーい、待ちくたびれてるぜ~』

『真面目にやりなさいよっ!』

『やってんじゃねぇか、うるせぇな』

「元気でよろしいが、残念なお知らせだ。 このままじゃ振り切れない。 蚯蚓はこちらに向かってきている。 ホーネットで誘導してミミズの進路を変えろ」

『はいよ、ボーナスはよろしくなぁ』

『時間は?』


 アンズが尋ねる。

 それは誘導する場所まで、どの位かかるのか、という時間のことだ。

 判明している《土蚯蚓》の数少ない習性の一つとして、山谷の深い場所では進路を変更するというものがある。

 掘削作業機体として運用されるホーネットが出来る誘導というのは、その場で深い谷を掘る事を意味する。

 だからこそ、地面にミミズ共があけた空洞や地形を把握しなければならなかった。

 シップ・スパイダルはいずれにせよ、これから移動をしなければならない。

 誘導を行う地点までは蜂は蜘蛛の腹の中だ。

 ボッシがクルーの顔を見る。 クルーは頷いて二度、パネルを叩くと声をあげた。


「二分後です」

「聞こえたな、二分後だ。 作業の猶予時間は10分。 必ず成功させろ、いいな」

『了解』

『あいよ』

「みなさん、無事に帰ってきてくださいね」

『オッケー、全員、時計を合わせろ、とちるんじゃねぇぞ』

『了解』


 蜘蛛は動き出し、熱砂の中を這いずり回る。

 やがてきっかり二分後。

 蜘蛛の腹は横に引き裂かれて、顎が落ちる様に発着場の出入口が開かれる。

 時速100キロで走るシップ・スパイダルの発着場から黄色の砂嵐を巻き上げる大地が顔をのぞかせた。

 ホーネットに乗り込んだ十二機の作業員に、熱風と砂塵がぶち当たる。

 バイザーを叩く砂利と暴風の音。

 掠れた通信にボッシの声。 直後に命令を下すスヤンの大声が響いた。


「時間だ、行けっ!」

『二分きっかり! おし、行くぞぉっ! テメェ等、ビビんなよ!!』

『行くぞっ!』 

『飛び込め!』


 スヤンが先頭を走り、いの一番にシップ・スパイダルから飛び降りて行く。

 外骨格の四股が持っているのは、作業に使う装置や工具だ。

 それぞれが形状は違えど、数多の道具を使いこなせるホーネットの汎用性はとてつもない物である。

 全ての機体が役割に沿った道具を両手で持ち、発着場を走り出す。

 周囲が次々に熱砂に飛び込んでいく中、アンズも負けじと発着場の床をパワースーツの力で蹴り込んだ。

 蜘蛛の腹から、十二機の鋼鉄の蜂が飛び出していった。

 高速に流れる景色の中で流動する、黄土色の大地に鈍い金属の塊から、速度を殺すためのパラシュートが開かれた。

 まるで羽が生えたかのように。

 飛び降りたホーネットを置いて、蜘蛛は速度を維持したまま走り抜けていく。

 轟音と突風、そして巻き上がる噴煙を残してスヤン達ホーネット乗りの視界を奪った。

 土と砂、そして熱の揺らぎが一気に襲い掛かり、ホーネットは冷却のために水蒸気を外部に吐き出していく。

 着地と同時に、操手はパラシュートを切り離す為に電子パネルを叩き。

 遠く遠く、大地の奥から岩盤を突き破る音が響いた。

 ホーネットと蜘蛛が拭き上げた砂塵ではない。

 土蚯蚓という人類の災厄を誘導することが出来なければ、全員で死ぬことになる。


『さぁ、仕事だ。 気張っていくぜ、テメェら!』


 猶予は10分間。

 蜂による生命を懸けた穴掘り作業が、開始された。



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