第4話 不和



 コウが立ち去った艦橋では、何とも言えない雰囲気に包まれていた。

 彼らも殆どが《祖人》と出会うのは初めての事であり、実際に会ったことがあると言える者はスヤンやボッシといった年長の一部の人間だけだ。

 場の雰囲気が浮ついて落ち着かなくなった様子に苦笑を漏らすボッシを眺め、スヤンはパネルの金属を指で叩きながら口を開いた。


「んで、艦長。 次のポイントに行くのかどうか、ここらで決めとかないとまずいだろ。 あのガキが居るんじゃ危険だぜ」

「コウ君が拾えたのは予定にはない事だったからな。 一度シティに戻るのも検討すべきだろう」


 スヤンの声に応えたのはボッシだった。

 その言葉を聞きながら、ジュジュは前髪を指で遊びながら思考に耽る。

 ややあって、水筒らしき円筒の物を手に取って口に一度含むと、ジュジュは二人を交互に見返してから


「まだ予定の半分にも満たない採掘工程です。 もうちょっと気張っていけ、根性無しのチキンども」

「ありゃりゃ、黒字の内にシティに戻って休みにありつくのも悪くねぇんじゃねぇかって思ったけどな。 艦長は怖ぇや」


 スヤンはおどけた様子で手を振り上げて、水蒸気を上げる電子パネルの前に向き直った。


「彼、何を私たちに齎してくれるかしら」

「さて、今はしばらくは聞かない方が、余計な波風を立てずにすむでしょうな」

「そうね……今は予定通り、ブツを掘り起こすのが先。 このまま工程は消化しましょう」


 千年前の人類の技術は、この星に住む者にとって常に改革を起こしてきた。

 それは例えば、シティそのものの安定の為に必要な技術であったり、灼熱と酷寒の大地を駆け巡っているこのシップ・スパイダルでもある。

 コウのような《祖人》の発見は、過去の繁栄を極めた技術結晶の遺産を発見したに等しい。

 少なくとも、このディギングに住む人々にとってはそうだった。

 だからこそ、目覚めたばかりの《祖人》ここで言えばコウには期待しているし、精神的な面まで含みケアをする義務がディギングの人間にはある。

 コウ達の持つ知識は、彼らの生き抜く糧に直結するのだから。


「でも心配だわ。 アンズちゃんはクソほど怒りっぽいし。 ゴミ滓みたいな結果になっちまうかも」

「あぁ? そりゃ多分あんまり大丈夫じゃねぇだろうな。 じゃじゃウマだしよ」

「だが、いい経験になるだろう」


 本来ならば艦長のジュジュが先頭に立って、コウの面倒を見るべきなのだろう。

 ジュジュもまた《祖人》とは初めて立ち会うし、興味もある。

 だが、立場でいうと難しいところだ。 惑星ディギングに住む者たちは今を生きるのにどうしても必死になる。

 目覚めた《祖人》達とはその常識の食い違いから喧嘩になって、結果として失ってしまうという話は多く伝え聞いている。

 シップ・スパイダル全ての人命の責務を負っているジュジュでは《祖人》との諍いが起きた時に、取り返しのつかないトラブルを生む危険性もあった。


「ああ、本当に心配だわ。 喧嘩早くて馬鹿なアンズちゃんで大丈夫かなぁ……」


 頬に手を当てて、ジュジュはこの話題をそう締めくくった。




 アンズに案内されていたコウの足がピタリと止まっていた。

 船内を順繰りに巡って、蜘蛛脚から脚へ渡る途中の腹の中。

 轟音が鳴って艦全体が揺れ始めてしまったからである。

 左右に身体を揺らされながら、コウは慌てていた。


「これっ、なんだ!?」

「ちょっと、くっつかないでよ! 危ないでしょっ!?」

「うわわっ!」


 勢いを増していく足元からの振動に、もう立っていられない。

 バランスを崩して勢い余り、アンズの身体を支えに態勢を整えようと必死に藻搔く。

 膂力のあるコウに押し倒されるような形で、アンズは地面に押し付けられて倒れ込んでくるコウと縺れるようにして転がってしまう。

 お互いに絡み合って止まった壁面にぶつかって止まったところで、ようやく静止する。

 コウの背中が熱波に晒されて一気に焼けて行く。


「んがぁっ、あっっついっす!」

「ちょっ、もうっ! 何やってんのよアンタ! 馬鹿なの!?」

「いつつ……だって、こんなに地面が揺れてたらしょうがないだろ!」

「冷却装置が駆動して振動しているだけ! こんなの毎日の事よ!」


 壁にぶつかったのがコウだったのは、幸いだったかもしれない。

 この振動に慣れているアンズは、一人であったなら間違いなく何の問題もなかった。

 彼女が巻き込まれて怪我をしていたら、転がっているコウの顔面を思い切り蹴飛ばされて殺されていたかも。

 怒鳴り散らす少女の罵声を聴きながら、コウはそんな事を思っていた。

 揺れに耐えられなかったのは経験がなかったからだ。 立っている場所が揺れるなんて、今この瞬間まで宇宙で過ごしてきたコウには想像も出来なかった。

 常に一定の重力で管理させ、揺れることのない大地で人生を過ごしてきたのだから、産まれて初めて地震を経験したような物である。


「あーもうっ、ほら、背中見せなさい!」

「いや、大丈夫―――」

「じゃない! 甘く見て死にたいわけ!? 火傷で死んだ人だって大勢いるの! 案内くらい面倒かけさせないで普通にさせなさいよ、馬鹿!」


 コウの言葉を遮って、アンズは大きな声で罵倒した。

 そう口に出すアンズの大袈裟で逼迫した様子は、コウにとって面白いものでは無かった。

 しぶしぶと背を向けて座ると、服を捲ってアンズが手元から取り出した軟膏のようなものを塗りたくられる。

 なんだよ、そんなに悪い事かよ。

 コウは思う。 確かに自分が凍眠している間に、この惑星ディギングでは様々な常識が出来て形作られたのであろう。

 今の地面が揺れる一件だけでも、コウの知らない事が多岐に渡ると思えた。

 その位は分かる。 だが、今は起きたばかりで何も知らないのだ。

 常識とか、約束事とか、暗黙の了解だとか。

 多分もっと、色んな事が分からない。 それこそ目の前のアンズとどう接すれば良いのかさえも。

 望んでこの場所に居る訳じゃ無いんだ。

 いきなり千年も時間を越えていて、誰も知らない土地に放り出されて、そんな事を聞かされて鬱憤は溜まっている。

 あああーーーーーっと、大声で今すぐにでも叫びたいくらいである。

 背後から怪我は酷く無い、良かった。 という安堵したように息を吐くアンズの声が、それを押しとどめていた。

 しかし募っていた不満は口に出てしまった。


「そんなに面倒見たくないなら良いって。 別に頼んでもいないっす」

「あんたねっ!」


 むっつり顔で胡坐のまま顔を逸らして言い放ったコウに、案の定アンズは食って掛かった。

 怒る少女を無視して頬を膨らませるコウの耳朶に、わざとらしい大きな大きなため息が聞こえてくる。

 

「あのね……アタシは案内しないわけには行かないのよ。 クウルに聞いてないの?」

「クウル? なんでクウルが出てくるんだよ」

「この星の事を、何処まで聞いたのかって尋ねてるの。 オウムみたいに質問を質問で返さないで頂戴」


 アンズの厳しい言葉に、コウは奥歯を噛んで肩を震えさせた。

 どうしてそんな事を言えるんだろうか。

 相手の気持ちを考えることが出来ないのだろうか。

 目が覚めればガイノイドの出来損ない。 移民船は千年以上も前に事故で壊れたなどと言われ、誰かと話をすれば無遠慮で好奇心にまみれた視線をぶつけられ、距離感には壁がある。

 もしかしたら、艦長であるジュジュだって、喉が焼けたなどという嘘をついて自分を馬鹿にしていたんじゃないか?

 こうして疑い始めてしまったら切りは無かった。

 コウの中に淀んでいた不満が、疑念の渦となって態度にまで現れてしまうのを、止められなかった。

 質問に黙り込んだコウに、呆れた視線を突きつけて、アンズが口を開く。


「あっそう……応える気は無いって事ね。 子供だってもう少しはシャンとしてるわよ」

「っ、好き勝って言ってくれちゃってさ! 俺の何がアンズに判るんだよ!」

「あんたこそ、此処の何が分かっているて言うのよ! もうアンタもこの星に住む一人の人間よ! 何時までも拗ねて話も聞かないなんて、格好がつかないわ、そうでしょう!?」

「訳わかんねぇっての! 知らねぇよ!」


 怪我を見ていたアンズの手を振り払うように立ち上がって叫んだ。

 睨む視線を真っ向から返し、アンズも負けじと立ち上がる。


「言っとくけど、この星の事をちゃんと聞かないと死ぬわよ。 義務って言うのもあるけど、私はこれでも親切心で言ってあげてるんだから!」

「義務だって?」

「そうよ、カプセルから出た《祖人》には、惑星ディギングの事を一から十まで説明する義務があるの。 そうしないと、皆すぐに死んでしまうから」


 その《祖人》という言葉そのものが、同じ人ではないレッテル貼りじゃないか。

 そんな文句を飲み込んで、コウはアンズの死んでしまうという言葉に口を噤む。

 船体の壁に身体を押し付けただけでも、火傷という怪我を負ってしまう。 こんな星の中で生きる為に知識は絶対に必要だ。

 そりゃあ義務にもなってしまうだろう。

 でも、それでも、納得がいかなかった。 感情が爆発してしまいそうだった。

 自分でも癇癪を起こしているというのが分かっている。 でも、どうにも意地ようなものが邪魔をして素直になれなかった。


「3億人も居た《祖人》がどれだけ残れたのかも聞いていないみたいね。 たったの30万人。 それしか残れなかった。

 もちろん、カプセルに入って無事だった人も大勢いたけど、事故の影響でこの星に散らばってしまったせいで総数すら不明なのよ。

 だから、まだアンタみたいにカプセルに入ったままの人も居るかもしれない。 バラバラに時代を越えて来てしまうの」


 それまでの語気の荒い様子から一転して、苦い声色で話すアンズの声がやけに耳に通った。

 コウは自分たちが居た時代の技術が、どれだけこの星の人たちに臨まれているのかを、惑星ディギングに必要であるのかを知った。

 シップ・スパイダルの大きな目的の一つは、間違いなく彼らが《祖人》と呼ぶ自分たちの捜索も含まれているんだろう。

 貴重な技術を持っている人間に、勝手に死なれてはたまらない。

 だから義務になっている。

 アンズが押し黙って話を聞いているコウを見つめて息を吐く。 ともすれば、今にも泣いてしまいそうなほど顔を歪ませている目の前の男にクウルと似たような感情をアンズは抱いていた。

 とても、やりづらい。

 だから彼女は、コウを慮って回りくどい説明をやめた。

 それはアンズの気遣いであったが。


「ねぇ、アンタって何が出来るの」

「何ができる……?」

「私たちに、何をしてくれるの? 今、私たちが世話をしてあげてるのも、それが知りたいんだから、教えてくれてもいいでしょ?」

「……」

「まただんまり……もう、いい加減にしてよ、ホント……」


 コウはまた腹の底が煮えるのを自覚した。

 そんな聞き方って無いじゃ無いか。 そんな風に聞かなくてもいいじゃ無いか。

 拾って保護したのは千年前の人類の技術が欲しいから。 そんなの、分かっているけど、じゃあ自分は知識だけしか求められていないのか。

 結局コウは、またも口を噤んで話はしなかった。

 口を開いたら、また余計な事を言ってしまうだろう。

 気遣いそのものが間違った方向に向かってしまったのは、コウよりも一歳年齢が若い、彼女の過ちだった。

 今は答えてくれないと諦めたのだろう。 落胆を隠さずにアンズが案内の続きを促して、足を進めて行く。

 その自分よりも小さな背を追って、コウは自然とつり上がった視線を彼女にぶつけて。

 その後、彼らはシップ・スパイダルの施設を全て巡り終える迄、必要な時以外の会話がまったく無くなってしまった。

 お互いがお互いに、不平不満の顔を崩さす、すれ違う艦内の人々から振り返られながら、事務的に各所を巡り終えた。



「ふうん。 それで、そんなに怒っているんだ」

「ああ、ったく。 何も馬鹿だなんて言わなくても良いじゃんか。 こっちは何にも知らないってぇのにさぁ」

「そうだね、アンズは怒りっぽいからね」

「そうだよな。 あの子ちょっとすぐに怒鳴りすぎだろ」

「うん……まぁ僕も謝らないとね。 しっかりと説明できなかったから」

「クウルが謝るようなことじゃないさ」

「ありがとう。 でも……アンズの気持ちも分かる。 僕も千年前の事は分からないから」

「そりゃ俺だって……分かってるよ。 でもまだ、ぜんぜん混乱してるんだ。 皆からすれば千年前から続く普通のことかもしれないけど、俺は……」

「アンズもきっと同じように思ってるよ。 僕からも謝る」

「……はぁ~~~……どうなっちまうんだろうなぁ。 俺……なぁ、クウルってアンズとはどんな仲なんだ?」

「どうって、友達?」

「そこ疑問形なのか」


 アンズと別れたコウは、行く当てを失って、結局最初に会ったクウルを捕まえて愚痴を零していた。

 クウルは艦内の通信機器などの整備が本来の職務であり、このシップ・スパイダルの管制を担っている。

 与えられた部屋で、趣味であるアンドロイドの開発以外は、ずっと電子パネルの前に座って過ごしていた。

 喫緊の問題が起きなければ、割合に暇と言っても良い場所であった。

 MM型のガイノイド、メルも一緒にこの部屋に居る。

 散乱した各種工具と、携帯用の小さな端末が所狭しと置かれていて、備え付けのベット以外に家具は殆どない。

 メルは生まれたばかりで、クウルのお茶汲みが日常的な仕事であった。

 今もステンレスで作られた簡易のキッチンに立って、お湯が沸いているのをじっと眺めて立っている。

 頭頂部に付けられた最新のアンテナが、やっぱり無駄に目立ってアンバランスだ。

 クウルの鉄の文字盤を叩いて入力していく音。 時折、艦内に滞った水蒸気を放出する音。

 そして、水が沸騰する音が、コウの耳に響いて。

 椅子に身体を預け、顔を真横に倒していたコウは原始的な"ポンコツ"を見て、ぼんやりとその音を聞きながら。

 

「あのさ」

「なに?」

「やっぱ、俺が悪いんだよな」


 それまでコウが部屋に入ってきてから、一度も目線を送らなかったクウルの顔が上がる。

 たっぷりと時間をかけて、ぐりぐりの眼鏡の奥で彼の顔を見つめ、やがて頷いた。


「多分ね」

「そっか」

「コウみたいに眠ってた人は、僕たちが失った技術を持ってるのが大半で、それは事実としてディギングに住む人達に幸福をくれた。

 アンズが尋ねていた事は、本音を言えば僕も聞きたい事だ。 少しアンズは性急すぎるけど」

「そうだよな……うん、分かった。 俺、アンズに謝るよ」

「きっと彼女も同じだろうね」

「だと、良いけどさ」


 丁度、メルが話の区切りがついたと判断したのか、おずおずと二人の間に割って入る。

 雰囲気などという曖昧な人の会話の判断が判るのかは不明だが、それは丁度良い間の合間であった。

 テーブルの上に、湯気が立ち上るカップが二つ置かれていく。

 メルは人のように腰に手を当てて、胸をそらした。


「ふん、できました」

「うんうん、よく頑張ったね、メル。 えらいえらい」

「ありがとな、メル」

「いえ、ご命令に従ったまでです」


 不器用に顔の輪郭を駆動させて微笑むメル。 コウは早速カップに口をつけて微妙な顔をした。

 茶ではない。 ただの煮立ったお湯の味しかしなかった。

 もしも自分が知っている千年前のアンドロイドを見せたら、その完成度にクウルは嫉妬を覚えるんじゃないだろうか。

 いちいち、過剰なくらいに自作のガイノイドを褒めちぎるクウルに、コウは苛々した気分が払拭されて笑みを見せるようになった。

 移民船内で別れた親友の事を、思い出す。


「ははは、俺の友達なら、アンドロイドを専攻して学んでいたからクウルの役にきっと立ったんだろうな」

「そうなんだ、残念」

「俺と話をしていたこと位なら、教えてあげられるかも。 聞く?」


 笑みを浮かべるコウに、クウルは眉をしかめた。

 だが、アンドロイドについて。 しかも《祖人》の話となればその提案はとても魅力的だった。

 クウルは好奇心に負けたように首肯する。


「おっけー。 でもまぁ、もっぱら話してたのは性欲処理とか、人肌の再現方法とか、くっだらねー下劣な話ばっかなんだけどさ。 あはは、まぁ下ネタってやつ?」

「……っ、そ、それはっ」


 パッとクウルの頬が赤く染まった。

 コウは思い出すようにして、もう遥か昔となった馬鹿話。 猥談に近いものを口から滑らせる。

 乱れ飛ぶそのアレコレな話は、次第にコウ達の間で本題となっていた性行為に移っていき、いざこの話の本命ともいえる友人の実体験談に移ろうとしたところでクウルは目の前のテーブルを叩いていた。

 室内に大きな音が響き、メルの電子音がピピっと甲高い音を鳴らす。

 コウは身を引いて驚いた。


「ど、どうした!?」

「あの、えっと、僕、これでも忙しいから。 終わり」

「あ……ああ、ごめん。 無駄話しちまったな……」


 なんとなく迫力のある声に押されて、コウは謝った。

 流石に子供に聴かせる話でもなかったか? とコウは反省しながら謝った。

 アンドロイドの開発が趣味であるクウルには、技術的な面での話の方が良かったんだろうな、と思いながら気まずくなって立ち上がる。

 最後に一つ謝ってから、コウはしずしずと退室することになった。

 仕事の邪魔をするわけにもいかない。

 今のところ、気軽に話せる相手は年齢が近く、同性のクウルだけだった。

 アンドロイドという丁度良い話題があったせいで、少し浮ついてしまったのだろうか。

 今度はもう少し、仕事が忙しくない時に聞かせてあげようと考えながら、行く当ても無いので割り当てられた部屋へと戻ることにした。

 帰り際、シップの蜘蛛の腹。 発着場を通る事になって、時折揺らぐ振動に気を付けながら歩いていたが、薄茶色のシートに包まれている大型の機材のコードを足に引っかけてしまって転倒する。


「いってて……うわ、どうしよう、コレ」

 

 アンズに案内された時にもこの大型機材の事は尋ねたが、関係ないという有難い言葉を頂戴してしまい、ろくすっぽ聞けなかった。

 暫く、引っこ抜いてしまったコードを手に取って眺め、コウは頭を掻いた。

 余所者である自分が、下手に弄って別の場所に端子を突っ込む。 実はこの端子は予備であり機材に挿入する必要はない。

 端子の接続部分を誤ってショートする。 色々な考えが巡ってしまって、結局放置することにした。

 下手に弄ってまた怒鳴られたり、怒られるのもあほらしい。

 まぁ転んでしまったのは、不注意だったので今後は気を付ければいいだろう。

 そう一人で納得し、苦笑を零す。

 本当に、なんでこんな所に自分は居るのだろうか、と煮え切らない思いが笑いとなって腹を付く。

 戻って寝てしまおう。

 コウは見慣れぬ艦内の中を歩き回って、なんとか割り当てられた自室に着くと、対して眠くも無いのにベットの上へと身を投げ出した。



 扉一枚を挟んで出て行ったコウの足音が遠ざかるのを確認してから、クウルは落ち着かない様子で洋服の裾を掴んで居住まいを正して座り込む。

 真っ赤になった頬を覚ますように、手で顔を仰ぐ。

 メルは主人の体温が上昇していることに気付いて、肩に備え付けられた小型扇風機を取り出すと、腕で彼女の顔に風を当ててあげた。


「大丈夫ですか」

「うん、ありがとね、メル」

「質問なのですが、アンドロイドに備え付けるちつへき装置の差異と有意性においての選び方というのは何でしょうか」

「……今の僕とコウの会話、即刻に記憶のログから消去する様に、メル」

「何故でしょう?」

「なんでも!」


 不思議そうに首を傾げたガイノイドに、クウルは大声で叫んだ。



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