第6話 掘らねば死ぬ
振動に揺られながら、あちらこちらに身体をぶつけてしまうが、とにかく艦橋を目指す。
あの《土蚯蚓》の資料を読んでから、居ても立っても居られなくなった。
なんだってこんなに揺れてるんだ。 いや、分かっている、移動しているから揺れているのは。
重力下にある船はこれだから、などと文句言いながらも艦橋にコウが慌てた様子で走り込んできた。
入口に一番近いジュジュが気付いて、驚いて声をあげる。
「コウ君!?」
「あのっ、ミミズって―――」
「ちょっ……っと! 動いているシップ・スパイダルで船内を動き回るなんて、イカレてんのか、もしくは神すら憐れむ低能ね、怪我はしてない!?」
「いきなり酷いな!? 大丈夫、ちょっと痣が―――あっ!」
艦橋のモニターに映る十二機の艦外作業機に気が付いたいのか。 コウは質問の最中に大声をあげて固まった。
アレは、あれは見たことがある。
コウの専攻していた宇宙艦外作業機リペアマシンナリーに酷似している。
違うのは尾部へ円錐状に取り付けられた大型のジェネレーターの有無と、装甲が無く、外骨格がむき出しなところだ。
なんであんなマシンがこの惑星にある。
「なぁ、ジュジュ。 あれって何だ?」
「我々はホーネットと呼んでいる。 資料で見た蜂に形状が似ている事から、そう名付けられた。
そして今、ホーネットに乗り込んだクルーは土蚯蚓を誘導する作業を行っているんだ」
「ってことは、人が乗っているんだ」
ボッシからそう説明されて、慣れない振動に壁に手を当ててバランスを取りながら、モニターから視線を外して顔を上げる。
彼はそんなコウを一瞥してから頷いた。
シップ・スパイダルは今も移動中だ。 速度こそ落としたが、安全圏まで移動して、太陽光エネルギーの蓄積を一刻も早く行う必要がある。
モニターにはどんどんと艦外カメラで映されていた、ホーネット達の機影が小さくなって、やがて土煙に隠れてしまった。
それが意味するところに思考が及ぶと、思わず口に出してしまう。
「あの、なんだっけ……ホーネットに乗ってる人達は、置いていっちゃうのか?」
「今は彼らに任せています」
「い、良いのか? 死んだらどうすんだ!?」
惑星ディギングの資料を見て、ミミズどもが押し寄せて、数多の災厄を人類に及ぼしたのを知ってしまった。
コウはあのミミズ達の引き起こした数々の事件や事故を見たばっかりだから、どうしても嫌な予感を募らせてしまう。
意思こそ無いものの、最低でも3メートルを越える全長を持つ、岩の塊と言って良いバケモノだ。
パワースーツに着ていたところで、高速で動く質量の塊が生身に直撃すれば、まず死は免れない。
ホーネットという艦外機がどれほどの強度を持っているのかは分からないが、無事では済まないだろう。
コウの言葉は、艦橋に響き渡っていた。
が、誰もその声には答えなかった。
長い沈黙が、艦橋では続いて、鋼鉄の蜘蛛の脚がずりずりと這いまわる振動と異音。 そして電子機器の音だけが鳴っていた。
蜘蛛の脚に付けられた冷却装置が音をたて、艦橋の窓を水蒸気の煙が覆って視界がなくなり、蜘蛛の動きは熱砂の中で停止した。
コウは艦長であるジュジュへと顔を向けると、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「私たちは出来る最善を尽くして、生きています」
「最善って……」
ようやくコウに返ってきた言葉は、犠牲が出ても容認するような声だった。
人が乗る必要があっただろうか。 艦外機はオートパイロットの機能があったはずだと思ったところで気付く。
その方法が失われているんだ、と。
顎のあたりを手で擦り、鉄面皮を張り付けたボッシがコウの隣まで歩いてきて、肩を叩いた。
「コウ君。 君が心配している事は、艦長も含めて全員が同じだ。 ただ、全員で生き残るのに最も良い方法を選んでいるつもりだよ。
もしも君ならどうする? 確実に船内の人間は助かるし、もし上手く運べば、全員助かるかも知れない。 そんな選択肢を考えて、選んだつもりだ」
低く落ち着いた声が、諭すように降りかかる。
コウは申し訳ない気持ちになった。 そんな事を考えずに、蚯蚓どもの前に出る行動を起こす訳が無いじゃないか、と浮足立った気持ちも落ち着いた。
人を犠牲にするような、切り捨てるような考えで住んでいける星ではないだろう。
バツの悪そうな顔を俯かせ、コウは視界の端に映るモニターに首を巡らした。
ホーネット搭乗員の映像が映し出されている。
これは艦外作業機に直接取り付けられた映像なのだろう。 酷いノイズが走っていて、映像は砂嵐が混じって乱れていた。
話をしたことのある顔も、無い顔もそこには映っていた。
泥だらけになって、必死な顔をして。
蜃気楼で揺れる砂塵の中を、ホーネットというコウから見たら酷く不格好な艦外作業機を動かして。
「すみません……俺……」
ようやく絞り出せたその言葉には、複雑な気持ちが絡んでいた。
ボッシは僅かに目を細め、コウを一瞥してからジュジュへと振り返る。
そのジュジュは、ボッシが色々な事を代弁してくれたことに、感謝を示すように頭を下げた。
ジュジュもまだ20歳を迎えたばかりであり、シップの中では若輩にあたる。
トラブルを抱えてその判断を下すことになるのに、まだ全く慣れていない。
詰問するようなコウの言葉に、反論しようと口を開くことが在れば、きっと音声補助チップによる弊害から手酷い言葉を思う存分ぶつけてしまっていただろう。
それを止める様に、ジュジュの前に立って話してくれたことは、感謝に足る事であった。
「……全員、シップに異常が無いか点検は終わりましたか?」
「大丈夫です」
『通信・管制問題なし』
「温度、ジェネレーター、問題ありません」
矢継ぎ早に上がってくる報告に、ジュジュはクルーの優秀さに笑みを浮かべてしまう。
そうだ、大丈夫だ。
絶対に誰も死なせずに、このシップは皆でシティに帰るのだ。
大丈夫、このシップ・スパイダルの搭乗員は、みな優秀だ。
そう信じて息を吐くジュジュの耳朶に、切迫したホーネットからの通信が届いた。
ジュジュも、コウも、顔を上げてモニターへと視線を向ける。
『―――燃えちまうぞっ!』
切迫した怒鳴り声に、艦橋に詰める全員の顔が強張った。
砂塵をまき散らして通り過ぎた蜘蛛を見送り、アンズはホーネットが持つ巨大な円柱型の棒を大地に突き刺した。
これは艦外作業時において、一定な周波数を感知し、受信と送信を行う電信探査装置である。
シップ・スパイダルが全速で逃げている最中、余剰エネルギーが回せないために艦内には通信周りの出力が落ちてしまう。
その為、ホーネット同士の相互作業時には、このソナーが無ければ通信や探査が難しくなるのである。
当然、シップ・スパイダルの通信補助としての役割も担っている為、ホーネット乗りには欠かせない存在だ。
『探知開始! 周波数合わせ!』
『通信良好』
『問題なし』
『よし、良いぞ。 アンズ、展開急げ、10分しかねぇぞ』
『分かってるわ!』
口々に通信が繋がって、スヤンからの指示が早速飛んでくる。
アンズはホーネットとシップ、そしてホーネット同士の相互通信の管理と、臭気センサーを始めとした監視員で"ソナー"と呼ばれる役割を担っていた。
《土蚯蚓》は体表からかなりの濃度の腐臭をまき散らしている。
これは大地に潜っている時にはまったく無く、惑星ディギングの二つの陽光に焼かれる事で発生する物だと言われていた。
もしも地表にミミズどもが出ていれば、臭気センサーで相対距離と接触に至るまでの推定時間をかなり正確に割り出すことが可能なのだ。
そうした各種監視機器を、しっかりと大地に固定してアンズは機体を動かしながら、サブモニターをいくつも稼働させ始める。
『アンズ! おせぇ! イアン、アンズのフォローに入れ! 間に合わねぇ!』
『オッケーだ!』
熱砂舞う400度を越える灼熱の大地。
その熱を冷やす為に機体から冷却装置が稼働して、水蒸気の白煙を巻き上げる中、大地にホーネットの膝をつけたスヤンが毒づいた。
『おいおい、勘弁してくれよ。 岩盤じゃねぇか!』
『スヤン、柔らかい場所を探そう!』
『馬鹿が、そんな時間はねぇ。 クソ、こんなところに降ろしやがって、恨むぜ艦長。 ショウ! エノク! 遅れてんぞ!』
『すいません!』
『そんなに硬そう?』
『スヤン、ダメだこりゃ! 杭じゃ頭すら入らない! ドリルの方が良い!』
『ラット、ドリルだってよ、テメェの番だ! アンズは解析まだか! 機材班、とっとと用意しろ! あぁ、くそっ! 暑くてたまんねぇな、おい!』
電磁ドリルの機材を持つ機体が辿り着き、直下に穴を穿ち始める。
一機がホーネットの外郭部を支え、もう一機がドリルで深い穴を岩盤に開けて行き、岩を砕いて凄まじい噴煙を巻き起こす。
大型と言っても、全長で4メートルのホーネットが開ける事の出来る穴は、直径50センチほど。 深さで言えば12メートルくらいが限界だ。
白と茶の煙が空中で絡み溶けあって、風に吹かれて混ざり合う。
爆音の鳴る荒野、スヤンはその間も周囲に振動探査の為の装置を次々に設置していく。
岩盤にドリルで穴を開けたのは、岩盤の底に空洞があるかどうか調べるためだ。
深く掘られた穴の中で振動エネルギーを与え、その余波から空洞のある場所を特定する。
これは《祖人》の古くからの知恵であり、ボーリングと呼ばれる技術である。
そして《土蚯蚓》の習性は深い峡谷にあって進路を変更するというもの。
地表だけでなく、大地の底も自由自在に這うミミズどもは、地下に大規模な空洞―――通り道を作り上げているのが常だ。
千年も前から存在しているこの現住生物は、巨大な地下洞を作り上げている。
一か所を特定すれば、地表に谷を作るのに苦労はいらない。
『距離3000~3500。 特定、10以上の音振を確認!』
『やっぱ団体さんか、嬉しくて涙がでるね』
『スヤンさん、ギリギリですか?』
『ああ、やべぇな』
この時点で時間は5分使っている。
既に四機のホーネットがドリルで岩盤に穴をあけているが、やはり硬質の岩盤は砕くのに時間が掛かる。
おおよそ3分の時間を掛けて、深度12メートルまで掘り進んだドリルの高速回転音が、岩を穿つ音ではなく空気を裂く音に変わった。
その瞬間、控えていたホーネットが四機、穿ったばかりの穴に向かって突進する。
放出される冷却風が、操縦者の視界を真っ白に染め上げて。
『撃つぞ!』
『良し!』
『固定した!』
『支えろ!』
『射手と支え手以外は、アンズのところまで退避だ!』
殆ど狙いすら付けずに、ホーネットが持っている携行電磁砲の銃身が開けたばかりの穴の中に突き入れられていく。
70口径、おおよそ5メートルにも及ぶ砲身。 この電磁砲はホーネットが携行出来る火砲の中でも最大級の威力を誇る。
更に大きな地上設置型の電磁砲も用意はしているが、よほどの厚さがある場所で無ければ使わない。
射手を一人を、発射の反動で怪我をしない様に、三機のホーネットが支えて機体を固定して。
確認を終えた射手が、操縦盤の肘から先を動かして、機体が追従する様に砲の引き金がひかれた。
僅かな時間を置いて、爆発音がヘルメットを突き抜けて音を響かせる。
まるで地震が起きたかのように鳴動する大地。
穿った穴から立ち昇る、行き場を失った火柱が地面から噴き出した。
『呆っとしてんじゃねぇぞ! 離れろ! 燃えちまうぞっ!』
スヤンの激が飛んだ。
巻き起こった火柱に反応が遅れたか、蹈鞴を踏んでもつれ合うようにして倒れ込む四機のホーネット。
舌打ちを一つ。
艦外作業―――特に《土蚯蚓》の襲来が予期される―――中では、一つのミスが命に関わる。
なんせ、艦外作業服とヘルメットを失えば、数十秒で死に至る熱砂の惑星だ。
作業機体のホーネットを守る事が、そのまま自分の命を守る事に直結している。
『スパイダル艦橋だ。 聞こえるかスヤン。 問題はあるか?』
『スヤンだ! 問題はねぇ! 悪ぃけどブリッジはちょっと黙っててくれ! アンズ!』
反響した振動から探知できる情報が来るのが遅い。
『もうちょっと! もう少し待って!』
『イアン! ショウの機体損傷確認! アンズ遅ぇ!! 何時までやってんだ!』
『待ってってば……今出たわ! 爆発地点から南南東25メートル! 東に41メートル地点! 直下に大きな空洞がある!
岩盤の厚さは46メートル、それとミミズは馬級が6の象級が1! 後は特定できない!』
『スヤンさん! 機体は無事です! ですが、砲身が!』
『岩盤直下空洞の位置に到着! 機材運びます!』
矢継ぎ早に上がる報告、スヤンは首を巡らして一つ息を吐いてから声をあげる。
『砲身の焼けた部分はブレードで切れ、後一発使って捨ててくぞ。 岩盤が厚いから破砕した岩に身を隠せるポイントを割りだせ! 時間は!?』
『3分22秒!』
『上等!』
ホーネットの腕から塗料が噴出されて、空洞位置を示すマーキングが大地に刻まれる。
周囲の作業道具を纏めて、避難の準備を始める隊と、岩盤を割る機材を運び込む隊に別れて道具が運搬されていく。
噴き出す汗に二度、三度と瞬きをして霞む視界の中でスヤンは次々にマーキングを行っていき作業は進んだ。
電気アクチュエーターの駆動音を盛大に響かせ、冷却噴射の水蒸気がどのホーネットからも頻繁に上がっていく。
既に機体の出力は全開だ。 エンジン音も喧しい。
凄まじい轟音と熱波の中で、通信そのものが拾えなくなるくらいである。
鋼鉄の杭が二機の蜂によって運ばれてくる。
岩盤を割って作り出した裂け目に、その杭が立てられて巨大なハンマーを振りかぶったホーネットに打ち付けられた。
この無骨で巨大な鋼鉄の杭は、火薬と特殊な信管が埋め込まれている爆弾だ。
大地の巨大な岩盤、厚さ60メートル級の岩すら砕くほどの威力を誇っている。
杭を打ち付けていたホーネットが離れ、固定化された合図が送られてくる。
六機のホーネットが破砕ポイントから次々に白い水蒸気の羽を生やして、飛び立って離れて行った。
耳障りな金属音と、徐々に体を熱くしていく熱波。 通信からも全員の荒くなった息が耳を打つ。
既に視界は殆ど無い。 時折、風向きによって砂煙と水蒸気が晴れると《土蚯蚓》の集団が目視できるほどの距離で突き進んでいるのが確認できた。
モニターの端に小さく刻まれていく時間は残り51秒。
―――間に合った!
そう確信できる距離だった。
クソ蚯蚓に轢き殺されずに、奴等の餌にならずに済んだ。
そうした安堵を全員が抱いていた。
後は遠隔から、信管を起動してやれば岩盤を砕いて大きな谷が、この大地に出来るはずだ。
スヤンは水蒸気の靄と砂嵐を抜けて周囲を見回し―――1機足りない事に気付く。
なんだ、何処だ!? と思った瞬間に通信から声が届く。
『スヤンさん! 動けません!』
『何処だ! ハモンド! アンズ!』
『岩盤の上に取り残されてる!』
スヤンの怒鳴り声に、アンズがモニターを確認すれば岩盤の上に取り残されたホーネットが一機。
倒れ伏したまま動かないのは、先ほど杭撃ちをした時か。
そんな考えが一瞬過るが、それよりも岩盤の上に居るのがまずい。
アンズのすぐ傍に備えた装置から、ミミズの接近を知らせる警報がけたたましく鳴り響いた。
『馬鹿野郎! 何ですぐに通信しなかった!』
『すみません! っ、え、エネルギー切れです! 再起動を……くぅ、かけてました!』
『エネルギーだぁ!? くそったれ! 引っ張るぞ!』
スヤンを含めて複数の機体が動けないハモンドの下へと向かって行く。
救出に向かいながら、スヤンは舌打ちする。 ホーネットの動力源は電気だ。
ジェネレーターが付いている尾部に、コンデンサーも一緒にくっついている。
シップと同じく、肩の部分には太陽光エネルギーを電力に変換するパネルが装備されているが、それは殆どオマケの機能のようなもので、今のような緊急時以外には使われることは無い。
一時的にとはいえ、機体が全く動かなくなったのであれば、それは艦外作業服に送られるはずの冷風もカットされていた事を意味する。
この400度を超える熱波の中で。
少なくとも、火傷はしているだろう。
ホーネットが群がり、一機のホーネットを持ち上げて、全員で岩盤を滑り降りて行く。
その中でスヤンは怒鳴った。
『アンズは何で気付かなかったんだ! 何を見てやがった!』
『……っ!』
ソナー員として通信の管理が彼女の仕事だ。
蜂の目と耳になるのがアンズの役割だというのに。
丁度、空洞地点の精査作業が重なったために、ホーネットを結ぶ通信管理が疎かになって、電力ダウンを見落としてしまった。
彼女はあまんじて、スヤンの怒りを受け止めるしかなかった。
唇を噛んで、流れ落ちる汗に首を振れば、警告音と振動。
モニターには岩盤直下にミミズの存在が、這い寄っていた。
『スヤン! 下!』
アンズは叫んだ。
救出部隊とアンズ達が退避していた部隊を遮る様に、洞穴から地表へと《土蚯蚓》が顔を出す。
体表が灼熱によって焦がされ、猛烈な腐臭がまき散らされて土気色の煙が一気に空気を侵食していく。
アンズの場所からはハッキリと見ることが出来た。
初めてみる《土蚯蚓》は目も鼻も口も、おおよそ生物として必要な器官を全て削ぎ落した細長い岩の塊のような物体。
それがスヤン達の機体のほぼ真下から、大地が隆起したように飛び出していた。
海面から顔をのぞかせる、クジラの様に。
スヤンを含んだホーネット各機体から、唸り声に聞こえるほどの出力で《土蚯蚓》の上を踏みつけて走る。
『おい! イアン! とっととぶち―――』
地表に現れて暴れまわり始めた《土蚯蚓》。 スヤンからの通信が不自然に途絶えたが、言いたい事は全員に伝わった。
撃て。
そう言っているのだ。
アンズも、彼が言っている事は理解できた。
ここで《土蚯蚓》の進路を変えることが出来なかったら、自分たちの家であるシップ・スパイダルも失われる。
そうなれば全員、ここでお陀仏だ。
だが、分かっていてもアンズのホーネットは、大地に設置された電磁砲をへ向かうイアンの機体に向いてしまった。
『イアン駄目! 今撃ったら皆が巻き込まれるっ!』
『だが、アンズ! 撃たなければやられるぞ!』
『アンズ! 退がれ!』
例えどのような個体であっても、ホーネットが土蚯蚓に轢かれれば一たまりもなく圧殺される。
スヤン達はミミズを足場に、こちらへと向かって走り込んできている。
電磁砲の駆動音が、一際高く鳴り響いて。
『待って―――』
まるで時間が止まったかのように一瞬が引き延ばされて、鋼鉄の指が砲台の射出装置をつかみ取った。
五機のホーネットがミミズの上から跳躍して、中空に鋼鉄の蜂が飛ぶ。
砲台の引き金が引かれて。
何かが高速で通り過ぎたかのような、高い高い空気を切り裂く音が荒野に跳ねた。
アンズの視界に過ったのは何か見えない物が超高速で通り過ぎた影だけ。
次の瞬間には大地を引き裂き、撃ち込まれている弾頭爆弾が破裂し、膨張した力が逃げ場を求めて空を焦がす爆炎を放つ。
土と水蒸気の煙を引き裂いて、赤熱の閃光がアンズの網膜を焼いた。
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