第16話・陛下がおかしい(2)

 最近、私は新しい悩みが増えました。

 陛下がおかしいのです。

 戦争に行かなくなったのは嬉しいことなんですけど、それにこれから冬になりますしね。


 それとは別に新たな悩みが。

 陛下が私に優しい? いや? 拷問? いや、優しいのか?

 取り敢えず、構って来るのです!


 最近は毎食陛下と一緒にで食事をします。

 そして昼食後はそのまま執務室に呼ばれ、陛下と一緒にを飲みます。

 その後夕食までは自由時間なんですが……。

 この間に、部屋に色々な物が届けられます。

 お菓子に花に、ハンカチや香水、洋服に本、靴やバッグ。そして宝石まで。


 一体どうしたのでしょうか? 

 陛下だけでなく兵士さん達からのプレゼントも毎日届きます。


 えっと……私って確か「人質」でしたよねぇ?

 これってどういうことでしょうか?

 私は部屋の片隅に積み重なる贈り物の箱を見つめる。


 城の侍女さん達は皆さん口々に言います。

「お願いですから、マリアーヌ様、大人しく貰っておいて下さい」と。

 そして、レッジンさんにも同じことを言われました。

「絶対にお前、陛下に断るなよ? 返すとかありえんからな! 俺達の平和の為だ!」と何度も念を押されました。

 皆さん必死で私に懇願します。これはどうするべきなんでしょうかねぇ?


 あ、もうこんな時間だ! 陛下の夕食の準備しなきゃ!


 このドレスのような服、汚れると勿体ないから、エプロンでも縫いましょうかしら?

 今度いらない布地が無いか聞いてみましょうかね?

 私って「人質」でしたよねぇ? 確か?

 美味しいご飯食べれて、こんな立派な部屋に泊めて頂いて、おまけにこんなに沢山の贈り物を頂いて。

『冷酷無慈悲な氷帝』でしたっけ? あれれ?


 まぁいっか? ご飯作らないと!





 ──「なぁ最近さぁ俺達何か大事なこと忘れてねぇか?」

「ん? 何かあったっけ?」

「今日も訓練ちゃんと俺はしたぞ?」

「ああ、俺だってしたぞ!」

「来週から、森に木の実と山菜採りに行く演習らしいぞ?」

「ああ、それとは別に、また海水持ってくる仕事もあるってよ?」

「冬になる前に行くって言ってたなぁ」


「マリアーヌちゃんに俺、土産買って帰ろっと」

「俺もそうしよっと」

「なんか最近、平和だよなぁ」

「そうだなあ。何か忘れているような気もするけど? まぁいっか?」



 世界最強と言われたシュバイツェルン帝国軍の兵士達は今日も平和にで帰宅していたのだった。



 ────「お待たせしました。本日の夕食をお持ちしました」

「ああ、わかった。今行く」


 最近はダイニングルームではなく執務室の隣にある、陛下の私室の食堂に食事を運ぶことが増えた。

 ダイニングルームだと広過ぎて落ち着かないと私が言うと、こっちにしてくれたのは有難いのだが……近い、陛下との距離がとにかく近いのだ。

 自分で言っておいて何ですがテーブルがあまり大きくないので、二人で座ると直ぐ目の前に陛下の顔が……。

 

 目の前で、この整った顔を見ていると、恥ずかしくなってしまうのは何故かしら?

「今日は何だ?」

「はい。本日は山菜を使った鍋をメインにしました」

「そう言えば来週には山菜を採りに山へ行くが、お前も来るか?」

「え? 私も行っていいんですか?」

「あぁそのかわり、ちゃんと言うことを聞けよ?」

「はい!」

 ガラガラガッシャン!

 あ!

「お前またかよ……」

「ごめんなさーーーい!」

「食事の時は静かに食べろってあれだけ言ったろ」

「今、拭きます! 陛下お召し物濡れませんでしたか?」

「ああ、危ないからいい。ランパート! ランパートはいるか?」



「はい? お呼びですか? 陛下」

「ランパート悪いがここを片付けさせてくれ」


「ごめんなさーーい本当に」

「ハハハハハッ。相変わらずそそっかしいなぁ。怪我はないか?」





 陛下が笑ってる……。

 俺の見間違いか?

 陛下が他人を気遣ってる……。

 

 俺の耳がおかしいのか?

 陛下に仕えて初めて、陛下が俺に「悪いが」って?

 

 やっぱりマリアーヌ様には陛下のお側にずっと居てもらわねばな……。

 冬場に城を凍らされるのはもうゴメンだしなぁ。


 このまま平和な日が続くといいなぁ。





 今日もシュバイツェルン帝国は平和だった。


 一人の青年の思いが通じたかのように……。













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