第7話・初仕事
皇帝の昼食を作る決心をした私は、ジョエル君に手伝ってもらいながら、次々と料理を完成させていく。
「それにしてもマリアーヌ様の料理の手際の良さには驚きました。まさかここまで、お出来になるとは感服しました」
そう言って目をキラキラさせて私を見るジョエル君に、何だか私は弟が出来たみたいで、少し嬉しくなった。それに一番は、この豊富な食材だ。
生まれてから初めて見るこの、豪華な
「だって、こんなに食材が豊富にあるのよ? もう嬉しくて~~ねぇ? ジョエル君? 陛下って好き嫌いってあるの?」
ジョエル君が、私の質問に少し悩んだような顔を見せる。
「好き嫌いですかぁ……あまり……というか……」
ん? また言葉を濁した?
そのことに気になった私はジョエル君に詰寄り聞く。
「ねぇ? 何か隠していることがあるのなら? 正直に言ってくれない? そのほうが私も覚悟出来るし!」
私は「人質」として、ここに連れて来られた時から「いつかは殺されるかもしれない」と覚悟はしていた。何せ、
私のその言葉にジョエル君は言い難そうにしながらも、ゆっくりと発した。
「実は……陛下は、あまり食事を毎回お食べにならないんです……。嫌いな物があるとかではなく……誰が、何をお出ししても、ほんの少し召し上がるだけで、あとは毎回下げさせるので……結局それで今までの料理人は全員クビになり……」
「え? それって食べなかった理由も、ろくに聞かずにクビにしていたってこと? 何で残すのか本人には確かめたの?」
その問に驚いた表情をジョエル君が見せたが、私は続けた。
「残す原因が分からないと改善できないじゃない? 何が嫌いで、何が好きなのかも分からないとどうすれば食べてもらえるのか分からないじゃない?」
そう私が言うと、ジョエル君が小さな声で言う。
「まぁそうなんですけど……陛下にそれを聞く者もおらず……」
なんですってぇええええ! 誰も理由を確かめてないの? ありえない! そんなの!
私はちょっとムカついた。折角料理人が、心を込めて作った料理を、理由も言わず残すなんて。
しかも誰もそれを咎めず、理由も聞かないなんて!
食材様達に無礼にも程があるわ!
よし! それなら私が絶対理由を聞いてやる!
俄然ヤル気が出てきた私は、それから黙々と料理を作り続けた。
「氷帝」首洗って待ってろよ? 今日こそ、このマリアーヌ様が、その偏食を直して見せるわ!
フフフフッ……。
──その頃、皇帝の執務室では。
ブルッ。寒っ。
何だ? 今の寒気は?
皇帝は無言で部屋の中をキョロキョロと見渡した。
「陛下、どうかされましたか?」
「いや、何も。レッジンところであの娘はどうしてる?」
「? マリアーヌ嬢のことですか? 珍しいですねぇ? 陛下が他人のことを気になさるなんて?」
一瞬、シュバイツェルン皇帝陛下の眉が動く。
「気にしているわけではない。今日の昼食からだったか? あの娘が俺の食事を作るのは? 単にその確認だ」
「……左用で御座いますか? もう少しでお持ちいたしますが、此方でお召し上りですか? それとも陛下の私室へ?」
「いや、ダイニングでよい」
「分かりました。そのように申し付けておきます」
そう言って一旦レッジンは執務室を退出した。
一人になった皇帝は再び部屋を見渡す。
「……気のせいか?」
──ちょうどその頃昼食の準備が出来た厨房では、配膳のために料理をワゴンに載せていた。
使いの者が来て、ダイニングに運ぶように言われた私は、ジョエル君と一緒にダイニングへ向かう。
待ってなさいよ? 絶対に逃がさないから!
私は何故か? 戦う気満々だった。
そんな彼女の後ろ姿を、祈るような目で見つめるジョエル少年は、スタスタと廊下を歩く彼女の後を小走りについて行く。
──「此方で御座います」部屋の前で待機していた女中の人達に案内された。
私達の仕事は料理をこのダイニングルームへ運ぶまでが仕事で、陛下への給仕は、給仕担当の女中が行うと説明された。
陛下の食事が終わるまで部屋の端で待機し、終わったら食器を下げて厨房に帰り、食器を洗い片付けるまでが私の仕事だ。
目の前にある大きく重厚な作りのドアを、給仕の女性が開けた──
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