第10話・罰ですか?
それからは私はジョエル君に手伝ってもらい、私の得意料理、そう島で作っていた素朴だけど素材を活かした料理を作っていった。
島の主食であったコメを釜で炊き、野菜を軽く塩揉みし、浅漬を作り、魚を炭火で焼き、野菜と鶏肉やキノコ類を適度な大きさに切り、小鍋に海藻で出汁を取り塩で味を調える。
鍋は温かいままお出ししたいから、ダイニングで火をつけましょう。玉子焼きを作り、薄切りにした肉に下味を付けた野菜を巻いて、フライパンでじっくり焼き、軽く唐辛子を刻みかける。
幸いにも、この厨房には、塩や砂糖以外にも、様々な調味料が置いてあった。唐辛子は島の畑でも栽培してあった為、使い慣れた調味料だった。
「マリアーヌ様。こんな感じで大丈夫でしょうか? マリアーヌ様に言われた通り、釜の蓋は途中開けてませんが……言われた通りの時間が来ましたけど?」
コメを炊くのをお願いしていた、ジョエル君に呼ばれ、様子を見に行く。
そして、そーっと二人で釜の蓋を取る。
「いくわよ?」
「はい! マリアーヌ様!」
ジョエル君の目がキラキラしている。
コメが炊けた良い匂いが既にこの厨房中に漂っていた。
私はゆっくりと蓋を取る。
ふわ~~~んと、極上の甘い匂いが部屋中に立ち込める。
「やったー! 成功よ! ジョエル君!」
「やりましたねぇ! マリアーヌ様」
ジョエル君と私は手を叩きあって喜んだ。
私達は出来立てのご飯を入れた釜を、そのままワゴンに載せる。
出来立て熱々の美味しいコメを食べて欲しいからだ。
他の料理もワゴンに載せて、いざ出陣!
料理が冷えないように私達は急いで、ダイニングルームへ向かった。
部屋に入ると直ぐに女中の方達がカトラリーを持って来てくれたが、私はそれを断る。
給仕の女中さん達は、そんな私に怪訝そうな表情を浮かべたが、私は「私に任せて欲しい」とお願いした。
──そしてついに……待つこと暫くして。
来た!
陛下が部屋に入って来て無言で席に座った。
謝らないと……
昼食のことを……
私は目を閉じて深く深呼吸を一度して、ゆっくりと目を開ける。そして覚悟を決めて陛下に言った。
「シュバイツェルン皇帝陛下、昼食時の御無礼をお許し下さい。陛下のお気持ちも考えず、一方的に失礼なことを言ってしまい、申し訳ございませんでした。そのお詫びにと思い、今度は私の得意料理を御用意させて頂きました」
私は陛下に向かって深く頭を下げた。
「ふーーん。得意料理ねぇ。今度も不味かったら、タダで済むと思うなよ? 娘?」
「はい! ありがとうございます!」
「陛下!」
レッジンさんが、陛下を急ぎ諌める。
私はそのレッジンさんを制して、料理の給仕を始めた。
私が昨夜自分で木を削って作った二本の「ハシ」と言うカトラリーを陛下の前に置く。
私の島ではナイフやフォークも使用していたが、魚やコメを食べることが多かった為、この「ハシ」が多く利用されていた。
先ずは、玉子焼きと焼き魚をお出しする。
それを見た陛下は無言で、一瞬私の方を見た。
そして、玉子焼きを一口食べる。その後、焼き魚に手を付けた。
二口目を食べた? 私は心の中でガッツポーズをした。
私はそれを確認し、小鍋をテーブルにセットする。
「こちらは鍋料理になります。具材に火が通りましたら、お好きな具材をこの取り皿に取りお食べ下さい」
そう説明すると、側に居たレッジンさんと、女中さん達が怪訝そうな顔を浮かべ私を見た。
鍋が出来るまでの間に、私は野菜の肉巻きと、炊きたてのコメを碗に装いお出しした。
「ほう。コメか」
陛下から一言だけだが、言葉が発せられた。
それに驚いたレッジンさんと、女中さん達は固まっていた。
レッジンさんに至っては、口をポカーンと開けたままだった。
陛下が肉巻きと、コメを口にする。
無言でコメを口にする陛下に、私は新鮮な野菜で作った浅漬を出した。
無言でその浅漬をポリポリと音を立てて食べる。
ちょうど、鍋の具材も火が通り、良い感じになって来た為、私は陛下にたずねた。
「陛下、私がお取り分けいたします。何を入れましょうか?」
そう言うと、陛下が少し驚いた顔で私の顔をじっと見た。
その顔は、絵に書いたように整っていて、綺麗なコバルトブルーの瞳を見ると、故郷のモレシャン島の海を思い出した。
そして小さな声で陛下が一言だけ私に言う。
「任せる」
私は陛下に、にっこりと微笑んで、鍋の具材を取り分けて、陛下に差し出す。
それを黙って受け取った陛下は、またも無言で食べ始めた。
それでも、殆どの料理を全て食べている?
そのことに私はとても嬉しくなった。
そして、陛下が私の方を見て言った。
「その玉子は?」
フフフッ良いところに気づきましたね? 陛下。
「これはですねぇ。こうして……」
私は玉子を小鉢に割入れ「ハシ」でかき混ぜる。
そして、少なくなってきた鍋に、残しておいた「コメ」を入れ、煮立ったところで先程の玉子を回し入れる。小ネギを散らし取り皿に入れる。
「雑炊でございます。身体が温まりますよ?」
にっこり微笑んで陛下にお出しした。
──全ての料理を完食した陛下の姿に、ダイニングルームにいた皆が驚愕の表情を浮かべていた。
そんなみんなを無視して、陛下が一言だけ私に言った。
「明日の
そう言って陛下が立ち上がり、部屋を出て行った。
え? 今何て言った??
朝って言わなかった?? 陛下って朝食ってフルーツとかサラダしか食べないんじゃなかったの??
私はレッジンさんを見た。
レッジンさんは固まったまま、首を縦にブンブン振って頷いている。
え? 朝も作るの私???
ええええええええええ?
聞いてないしいいいい!
朝食も作るなら、早起きしないといけなくなるじゃんかああ!
私の心の叫びは無残にもこの後レッジンさんによってかき消されたのであった。
「朝は7時に執務室に陛下の朝食を運ぶように!」
レッジンさんが言う。
グスン……
返してぇえええ私のスローライフ!
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