第11話・懺悔
得意料理を作った罰で? 私は現在は1日3回陛下の食事を作っていた。
「まぁ、最初から陛下の『飯炊き女』として連れて来られたんだから仕方ないとして、これはどういうことかしら?」
最近では私が厨房で料理を作っていると、それを見学? に来る兵士さん達で、厨房の前は人集りが出来るようになっていた。
「す、すいません。マリアーヌ様、私からレッジン将軍に言っておきますから……」
額から汗を流しながら、ジョエル君が言う。
最近では、私の周りに少し変化があった。それは、この「見学者」だけでなく、実はもっと驚いたことがあった。あのレッジンさんのことだ。
ジョエル君に教わったんだけれど、レッジンさんたら、ビックリ! この大帝国シュバイツェルン帝国の大将軍様だそうで。
私の前ではそんな感じには見えないんだけどねぇ?
結構ああ見えて優しい? 世話好き? まぁ怒ると怖いけどね……。
「マリアーヌちゃん? いる?」
「はーーい? 何かしら? ランパートさん?」
そう、驚いたことの二つ目がこの人。
最近毎日のように、現れる。
まぁそれも、
「はい、コレ! マリアーヌちゃん、お待たせ~」
「あ、ありがとう御座います……」
そう、毎日のように届けられる、
ことの始まりは、私がふと呟いたことがきっかけだった。
──話は少し遡る。
ある日の夕食時のこと。
「ほう、今日は魚の煮付けか?」
「はい、良い魚が手に入りまして。煮付けにしてみました」
「活の良い魚が手に入ると刺身で食べたら美味しいんですけどねぇこの魚って……」
「ん? 刺身??」
「あ、鮮度の良い物だと火を通さず、生のまま食べれるんですよ。お魚って」
「ほう。火を通さず食するのか」
陛下が腕組をして一瞬考えたかと思うと、
「ランパートを呼べ!」
「え?」
私達が驚いていると、直ぐにランパートさんが部屋に入って来た。
「ランパート。活魚を手に入れよ!」
「へ?」
「「「え?」」」
ちょっと待って? ここ周り海ないですけど?
この城の周辺って山しかないですよ?
何を言ってるんでしょうか? この方は???
バカなの? アナタ???
「え? 陛下?? 活魚で御座いますか??」
ランパートさんが驚いた顔で陛下に聞く。
そりゃあそうでしょうよ。こんな山に囲まれた城でどうやって活魚を手に入れるって言うのよ?
そんな私達の考えを無視して、このお方は
「俺に同じことを言わせるつもりか? ランパートよ?」
部屋の空気が一瞬で変わった。
最近は比較的、会話は少ないにしても温和な雰囲気での陛下の食事の時間が一気に冷え切った。
「は! 申し訳ございません、直ぐに手配します!」
そう言ってランパートさんが急ぎ部屋を出た。
はあ? 頭おかしいんじゃないの? いくら大帝国だと言っても周りに海が一切ないこの城でどうやって活魚を手に入れるって言うのよ? モレシャン島からここまで来るのに何日掛かったと思ってるの?
私は、安易に活魚なら火を入れずに食せることを口走ってしまったことを反省した。
「陛下! 申し訳ございません。私が余計なことを申したばかりに。海のないシュバイツェルン帝国。活魚を手に入れるのは無理で御座います!」
私は陛下に深く頭を下げて謝った。
「マリアーヌ。このシュバイツェルンに『無理』と言う言葉はない。シュバイツェルン帝国に『不可能』は存在しない」
そう鋭く低い声で言って陛下が席を立ち退出しようとした。私は急ぎ提案した。
「陛下! 川魚で! 川魚も美味しく召し上がることが出来ます!」
「くどい! 不可能は無いと言ったはずだぞ!」
そう言いながら足早に立ち去ってしまった。
はあああ????
やっぱりコイツ頭おかしいわ……。最近はちょっとマシになったかも? と思ったが、やっぱり撤回!
山に囲まれたこの城下で、海にしかいない魚をどうやって活魚の状態で手に入れると言うのよ?
それに川魚はダメって……。
城の保管庫にある魚は全て氷漬けにされて、遠方の街より運ばれて来た物だった。
確かに全く海がないわけではない……。だがそこは国の最端部。国土の広い大帝国シュバイツェルン。同じ国内と言っても、モレシャン王国とは訳が違う。最端の海岸付近の軍港がある街までは、どんなに急いでも最低でも片道10日は掛かる距離だ。
と思ったら!
流石は大帝国シュバイツェルン。
活魚を手に入れる為、城下に人工の海を作ったのだった。
やっぱり、この男頭おかしいわ……。
巨大なプールのような物を作り、その中に何日も掛けて、海水と活魚を運んできたのだった。海水と活魚を運ぶ為だけに行われた大遠征。
これには私も呆れたわ……。
ていうか、誰かこの案止めなかったのか? 君たちバカなの?
流石「戦闘狂」頭おかしいわ……。
──その甲斐あって? こうして毎日のようにランパートさんが、私のところにその「巨大海水プール」から網ですくったお魚さんを届けてくれるのだった……
絶対頭おかしいってこの人達……
「本当にごめんなさい……。こんな無駄使いさせてしまって」とランパートさんに謝ると
「ん? 陛下も喜んでるし? 良かったんじゃない? まぁちょっとした旅行気分?」って笑顔で言ったランパートさんの顔を見て、
私はこの日を境に、この人達には絶対食材のおねだりや、変わった食べ方などは今後一切口にすまいと、固く心に誓ったのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます