第2話・襲撃
「逃げろーーーーシュバイツェルンの『氷帝』だーー」
「女、子供も容赦しねーって言う『氷帝』が攻めて来たぞーー早く逃げろぉ!!」
「キャァアアーーーー助けてぇえーーーー」
「早く! こっちだ!」
「シュバイツェルン帝国軍だ! 帝国軍が攻めて来た! 早く防壕へ逃げろ!」
「ママァーーママァ何処?」
「アーーン、アーーン、おかあさぁーーん」
──朝日が水平線から、うっすらと東の空に姿を見せ始め、薄紫から徐々に白みががったグレーと淡いピンク色が混ざり合い、神秘的で幻想的な美しく穏やかなこの時間──
四方を海に囲まれた、小さいが自然豊かなこの島国に、突如として大国からの襲撃の知らせが、島中に轟いた。
鳥達が一斉に羽ばたき、森の動物達の遠吠えが島中に木霊する。
──島にある小さな宮殿の一室。
島内を一周するのに、半日も掛からないほどの小さな島に似つかわしくない、豪華な建物中では、島民を避難さす為に、衛兵達が右往左往しながらも急ぎ走り回っていた。
四方を海に囲まれている、ここ『モレシャン島』は国として独立した頃から、300年間以上もの間、一度も他国からの侵略を受けたことがなかった。その為か戦闘を得意とする兵士などはおらず、いるのは、近所の「警備員の人」と変わらない衛兵だけだった。
衛兵の仕事は、島内を定期巡回しながら群れや、親とはぐれた動物の保護や、雨などで壊れた家屋や、道路の補修、ケガ人等の手当、農作業の手伝いや土木工事など、その仕事は到底「兵士」と呼べる物ではなかった。小さな島での民達は、皆顔見知りばかりで、たまにケンカは起きるが、犯罪などもなく、毎日が平和だった。
──そんな平和で穏やかな暮らしの中、夜明け未明に起きた大事件。
宮殿内は、ハチの巣をつついたような、大混乱だった。
「おい! 敵は既に島内に上陸しているのか?」
「情報を! 敵の数は? 情報を!」
「本当にシュバイツェルン帝国か?」
「何故あんな大国が? シュバイツェルン帝国の『氷帝』自ら攻めて来たのか?」
「ええい! 情報だ! 情報を今すぐ集めろ!」
「お父様……」
「大丈夫だ。安心しなさい。この国は、この島はどんなことをしても守る。この美しい島を血で穢すようなことは儂が絶対させん!」
そう言って、お父様が私の
エレノアは、お父様の腕の中で私の方を見てニヤリと笑った。
そして、
そんなエリノアの姿にお父様は目を細め、鼻の下を伸ばしながら、いつものように言う。
「おお、儂の可愛いエレノアよ。案ずることはない、この父がお前のことは、儂の命に変えても守ってみせよう」そう言って頭を撫でる。
目線はしっかり、彼女の豊満な上半身の大きな山の谷間だ。
お父様は、お母様が亡くなって直ぐに、兼ねてから噂のあった子連れの侍女を王妃として迎えた。
従って、エレノアとお父様は血は繋がっていない。
長女である私が、離れに追いやられてからは、王宮は
私は、この日はたまたま、エレノアに頼まれていた針仕事の品を朝一番で彼女の侍女に、こっそりと届け、早急に離れに帰ろうとした途中で、帝国の来襲の知らせを聞いて、そのまま宮殿にいたのだった。
「陛下! こ、ここは危険です。
「チェスターよ。急ぎ儂の家族が脱出する為の船を用意せよ。
お父様が、大きな声でチェスター様に命令した。
急いで部屋にある金目な物を集めるお父様の姿を見て、衛兵達もそれを手伝っている。
「御意!」
チェスター様はその、私の父である国王陛下の姿を見て、深く頭を下げた後、王妃殿下と、妹のエレノア
「王妃殿下、エレノア王女殿下お急ぎ下さい! お先に参りましょう! 陛下は直ぐに参りますゆえ」
二人はチェスター様に手を引かれ、急ぎ出て行った。その後を、数名の侍女達が追う。
その後、部屋にある宝物類を山のように持ったお父様と、衛兵が脱出に向けて準備を始める為、部屋を急ぎ出て行った。
──そこに一人残された私は……。
「私はどうなるんだろう?」
そう小さく呟いた瞬間、若い衛兵が私に声を掛けてきた。
「マリアーヌ殿下、殿下もお逃げ下さい! 私がご案内いたします」
まだ、あどけなさが残る顔をした、その少年は真剣な眼差しで私に言う。
「でも……」私が小声で躊躇した表情をすると
「殿下、時間がありません! ご案内します! さあ、此方へ! 私についてきて下さい」
そう言って彼は私の手を取る。
「ちょ、ちょっと待って! 島民のみんなは? 島民達は無事なの?」
「も、申し訳ございません。ご無礼をお許し下さい。私の名前はダレリィーと申します。島民達の避難は順調に進んでおります。ですからご心配はいりません。殿下、今は時間がありません。私が必ず殿下を安全なところへお連れしますから! さぁ参りましょう! ついて来て下さい」
先程同様に真剣な眼差しで私を見る彼に、私は小さく頷いた。
そして彼の手を取り、走った。
宮殿内に作ってあった地下通路に向けて──。
ここは本来、災害時に緊急避難出来るように作ってあった壕のような場所へ繋がっている所だ。
その壕の側面に、小舟を下ろし外海に出て島民を避難さす予定であった。
私達は薄暗い地下道を走った。一生懸命に──。
あと少し、あと少しで壕の入口に辿り着く。
外の明かりが微かに見えた。地下道の出口が見えてきたわ!
そう思った瞬間!
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