第6話・皇帝陛下は大食い?
大きな厨房に一人残された私は、取り敢えず、綺麗に片付けられている調理器具を確認する。
「すごーーーい! こんなに沢山のフライパンや鍋! でも鍋って何個も必要かしら? 一体これで何を作るのかしら? もしかして皇帝の食事って何種類も作るフルコースなの? そんなの私作ったことないけど?」
「皇帝の食事を作るだけで、あとは自由にして良い」と言われた言葉を思い出し、私は自分が浮かれていたことを反省した。
「これ、作れないと『人質』である私って『氷帝』に殺されるってことよねぇ? ひえぇええええええー やっぱり私とんでもないところに連れて来られてしまったんだわ……」
「マリアーヌ様? マリアーヌ様?」
一人ブツブツといつものように独り言を言っていると、向こうから年若い少年に声を掛けられたことに、やっと気づいたマリアーヌは、
「は! ごめんなさいね? 私ったら? あなたは?」
私は、今までの独り言をこの少年に聞かれてしまったのか? と思うと恥ずかしく思い、少し俯き加減で彼に聞いた。
「申し遅れました。私の名は、ジョエルと申します。マリアーヌ様のお側でお世話をするようにと。何か私にお手伝いすることがあれば? 何でも仰って下さい」
「あ、ご丁寧に……マリアーヌです。よろしくお願いしますね? ジョエルさん?」
この方が、レッジンさんが言っていた小姓の方かしら? 見た目も可愛らしいけど名前も女の子みたいねぇ? お世話をすると言っても「人質」である私の監視役よね? まぁいいわ。
取り敢えず……。私は先程から気になっていたことを、このジョエルと名乗る少年に聞いてみた。
「ねぇ? ジョエル君? 皇帝ってさぁ、そんなに大食いなの?」
「へ?」
まだ、何処かあどけなさが残る、色白で茶色い巻き毛が可愛らしい、優しい雰囲気の少年ジョエルは突然の、このあっけらかんとした女性の質問に一瞬、素で答えてしまっていた。
「あ、し、失礼しました。マリアーヌ様……。陛下が大食い? などと言うことは決してないとは思いますが……。申し訳ございません。わたくしも間近で陛下が食事をされるところを見たことがなく……」
そう言いながら私に深く頭を下げ、額の汗を拭う可愛いらしい顔をしたジョエル君を見て、私は慌てて言った。
「ち、違うの! ごめんなさい! あまりにも此処に調理器具や食器、食材が大量にあるから、私はてっきり皇帝って大食いなのかと? 思って……」
私は、まだ年若い小柄な彼が、尚も小さくなって謝るジョエル君に、必死で説明した。
「そう言うことでしたか……ここの食器や食材に関しては、陛下にお出ししても、陛下がお気に召されず……下げてきた……ゴニョゴニョ」
ん?
ジョエル君が言葉を濁した。
レッジンさんといい、ジョエル君といい「皇帝陛下」のことになると、言葉を濁すわよねぇ?
やはり「氷帝」と言われるだけあって暴君なのかしら?
はぁぁ……やっぱり私って此処で早急に殺される運命なのかしら……
皇帝の御飯を作るだけで、それ以外は自由にしていいなんて「人質」にしてはあまりにも条件が良過ぎるものねぇ?
浮かれていた自分に情けなくなったマリアーヌは肩をガックシ落として、トボトボと厨房の奥へと向かって歩きだした。
「マリアーヌ様? マリアーヌ様! どうかなさいましたか?! 顔色がお悪いようですが? 何処かご気分でもお悪いのでしょうか? 長旅のお疲れでは? 直ぐに誰かを呼んで来ますね! ここでお待ちいただけますか?」
ジョエル君の心配そうな顔を私は見て、慌てて否定した。
「あ、違うの。私は大丈夫よ。ジョエル君。ちょっと慣れない場所でビックリしただけだから。安心して? それで、皇帝の食事は一日に何回作ればいいの? 私は?」
「そうですか……良かったぁ……」
ジョエル君が私の言葉に安堵し、優しく笑った。やはり笑顔が素敵な少年だわ。
何だか癒されるわ~~と、私はちょっと嬉しくなる。
「基本的には、昼食と、夕食の2回です。朝は陛下はフルーツとサラダだけとかで済まされることが多い為、下働きの女中が陛下のお召替えの際に、部屋にお持ちする感じですねぇだいたい……城に陛下がおいでになる時は……」
ああ、レッジンさんも言ってたけれど、1年の殆どを遠征に出ている為、城に居ることがあまりないから、私の仕事は少ないだろうって。そういえば言ってたわねぇ……。
なら? あまり「氷帝」に会うこともないから、殺される心配もないかしら?
私はちょっと安心した。
「ん? どうかされましたか? マリアーヌ様? 何か嬉しそうですが?」
そんな私に気づいたジョエル君が言う。
「ううん? 何でもないわ。じゃぁ、これから昼食をお作りすればいいのね?」
色々考えてても仕方ないわね。やるしかないんだし「人質」の立場の私としては。
そう思い私は、目の前の自分に与えられた仕事を
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