第15話・陛下がおかしい(1)

 ──いつものように私は陛下の昼食をダイニングに運ぶ。

 朝食と昼食は特に品数が多くない場合は、私一人で運ぶことも最近多い。

 その間に、ジョエル君が、厨房に運ばれてくる食材をチェックしたり、片付けたり、下ごしらえの手伝いをしてくれたりするのだ。とてもよく働くジョエル君に私は感謝している。


 いつものように陛下に配膳を終え、私は部屋の端で待つ。


「ところでお前は、食事は何処で食べているのだ?」

「え?」

 私ですか? これ言ってもいいのかなぁ? 陛下の作る際に私の分も作っているって?

 ジョエル君の分も作ろうと思って言ったら「臣下が陛下と同じ食事を食べるなんて」と断られてしまったから、一人でこっそり厨房の隅で。


「使用人棟の食堂まで行っているのか?」

「…………。」

 正直に話しても大丈夫なんだろうか?


「い、いえ……」

「ん? では何処で食べているのだ?」


 私は怒られるのを覚悟して言った。


「すいません! 実は、陛下のを作る際に一緒に自分の分も。あ! 毒見です。毒見! いや? 味見? かな?」


「お前は、俺の食事に毒を入れているのか?」

 陛下が私の顔をじっと見ながら言う。

「いえ。決して。違います。間違えました! 味見です!」

「ふーん。まあよい。ならば、次回からお前もここで一緒に食べろ」


「は?」

 今、何って言った? ここで食べろ?

 ええええええええええええ?

 新たなる拷問ですか? それ?


「どうせ、同じ物を食べるのであろう? ならばここで食べれば一度で済むし効率的であろう?」

 いや……私は一人で大丈夫です。寧ろ一人が良いです。一人で食べさせて下さい。

「次回からこちらに運ぶように」


「は、はい」

 怖いです。殺さないで下さい。まだ生きたいです……私。


「この後、執務室にくるように。下膳はそこの女中に」


 え? 何か新しい拷問でしょうか? 


 え! ちょ、ちょっと待ってーーーー。

 さっさと陛下は部屋を出て行ってしまった。


 私は部屋の隅で待機していた、給仕担当の女性を見る。

 皆さんにっこりと微笑んで、入口のドアを開けてくれた。

 仕方なく私は一人トボトボと陛下の執務室に向かう。


「あ! マリアーヌちゃん。待ってたよ。こっちこっち!」

 そう言ってランパートさんに手招きされる。

 え? そこって陛下の私室では?

 えええええええええ? 昼間っから? まさかの??

 嘘でしょ?

 夜伽じゃなく、昼間に???


 ええええええええ! いくらなんでも、心の準備ってものが……。

 って『氷帝』でしょ? 無理無理無理無理いいいいいいい!


 ドアの前で色々考えていたら

「何やってんだ。入口に立ったら邪魔だ。さっさと入れ!」

 そう言って蹴られた。


 ちょ、蹴ることはないでしょ……酷い。

 初めてなんだから、もう少し優しくしてくれても……。

 グスン……。

 でも、私は「人質」求められれば断ることなんて。

 今まで、優しく大事にされていたのが間違いだったのかも……。



 ──そう思い私は覚悟を決めた。




「マリアーヌちゃん。こっちこっち」


 へ? 人がいっぱいいる?

 え? もしかして陛下ってそういう趣味があるの? 嘘でしょ??

 みんなに見られている中で??


 うそおおおおおおおおおおおおおお!

 いやあああああああああああ!

 覚悟は決めたけど、やっぱり無理ぃいいいい!


「お前何やってんだ? さっさと中に入れ!」

 陛下の低く鋭い声が聞こえた。


「では、後はお願いしますね」

「はい。お任せ下さい。ランパート様」

 そう言ってランパートさんと、陛下が部屋から出ていく。



 え?????

 訳がわからないまま、私は数名の女性達に囲まれ、服を脱がされ、サイズを計られ……。


 えっと……これは?

 この国って夜伽の女性ってサイズまで測られるの? 

 な、何の為に? 

 


「終りましたよ。お疲れ様でした。マリアーヌ様」


 え?


 ドアが再び開けらた。

 ソファで優雅に紅茶を飲む陛下と、その横で何やら色々と書類にサインをしているランパートさん。

 これは一体?


「では、取り敢えず本日は既製服にはなりますが、5点程ご用意させて頂きます」

 そう言って先程の女性達の一人が何やら、ガラガラと台車を押して部屋に入って来た。

 何これ? 女性用の服? 

「マリアーヌお前のだ」

 陛下が私に言う。


「え? 私にですか?」

「お前の服はどうも俺の趣味には合わない。今後はこの服を着るようにしろ」

「え?」

「これは命令だ! 拒否は許さぬ」

 ええええええええええええええ?

 何それ??

 ていうか、この服どう見ても、お高そうなんですけど……。

「ランパート部屋に運ばせろ」

「はっ!」

 ええええええええ?

「マリアーヌ、部屋に帰って着替えよ」

 え?


「陛下、差し出がましいようですが……湯浴みをされたほうが……」

「ああ、そうだな。今後は専属の侍女をつけるか」

「左用で御座いますね。数名直ぐに用意します。それと陛下、食事のことですが、片付け等は専門の者を付けたほうがよろしいかと」

「そうだな。お前に任せる」


 えっと……そこで二人で勝手に何か決めてますが……

 専属の侍女って何ですか? 新しい監視役でしょうか?   

 片付け専門の人? 何ですか? それ?


「ささ、参りますよ。マリアーヌ様」

 そう言って私の手を取る女性達。


 ちょおおおおおおおお! 待ってええええ!

 何処に連れて行くのお!



 ──夜伽の前の準備ですか?

 

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