戦闘狂の【氷帝】私が作るご飯が気に入って?〜ずっと家に居て私に構ってくるんですけど~

蒼良美月

第1話・プロローグ

 ──綺麗な澄んだコバルトブルーの海に四方を囲まれた小さな島国、大自然に囲まれたその島には、の王女がいた。

 王女の名前はエレノア・モレシャン。モレシャン王国だ。モレシャン王国、国王陛下のであった。


 母親である王妃によく似た、綺麗なブロンドヘアに、宝石のように輝くエメラルドグリーンの瞳。その顔はシャープで気高さを感じさせる、たいそうな美人だ。


 彼女はまだ17歳だと言うのに、母親譲りの豊満な肉体を持ち、一度でもその姿を見た者は、男性だけじゃなく、女性までも目を奪われてしまう程の魅力的な女性だった

 両親の愛情を、今日も優雅で贅沢な暮らしをしていた。

「お父様、新しいドレスが欲しいの。あと新しい宝石も!」

「ああ、エレノア好きな物を買うといい。こんな小さな島にいたら、買い物ぐらいしか楽しみがないだろう? 好きなだけ買いなさい。可愛いエレノア」

 そう言って、モレシャン国王はの美しい姿に目を細めた。


「本当? お父様? お父様大好きぃ~~」

 エレノアは、目を輝かせながら大袈裟に喜びを表し、飛び上がって、父である国王陛下に抱きついた。

 自分の豊満な胸を王である父にギューッと押し付けるようにして、下から陛下を目を潤ませながら見つめる。


「あ、あぁ……好きなだけ買いなさい。可愛いエレノア。直ぐに商人を島に呼ぶように手配しよう!」

「まぁ! お父様、素敵」そう言ってエレノアは、父王の頬にキスをした。

「あぁ楽しみだわ。ホホホホホッ」

 用件が終わったエレノアは、さっさと部屋を出て行った。その後を、大勢の侍女が急いで追いかける。


 この宮殿では、はいつも目にする光景だった。





 ──島にある宮殿の敷地の隅には、小屋のような小さな建物があった。

 以前はここは使っていなかったが、今はそこで一人の少女がひっそりと暮らしていた。

 その少女の名前は、マリアーヌ・モレシャン。モレシャンであった。

 彼女は、国王陛下の亡くなった前妻、故マーガレット妃殿下の忘れ形見だ。


 マーガレット妃殿下が、マリアーヌを産んで直ぐ亡くなったのをきっかけに、葬儀が終わって1週間で現王妃、エレノアの母と再婚した国王陛下の命令で、マリアーヌは、この薄暗く狭い小屋に追い出されたのだった。


「ああ、もうなんでエレノア様じゃなくて、こっちのに私がまわされないといけないのよ」

「本当よ。やってらんないわ」

 この小屋の掃除担当を言い渡された侍女達が、今日も不満の声をあげていた。

 そして、たいして掃除もせず文句だけ言って、そのままさっさと宮殿へ戻って行く。

 それが、ここ「離れの小屋」では日常だった。



「あら? あなた? お腹が空いたの? ごめんなさいね。ここには今は、食べ物がないのよ」

 そう言って壁の隙間から出てきたネズミに、自分の食事である硬いパンの端切れを、ちぎって少女は分けてやった。

 彼女に宮殿から与えられる食事は1日1回。

 古くなり石のように硬くなったパン1個と、味が無く具も何も入ってない冷めてしまったスープと、コップ1杯の水だけだった。それでも、配給されない日もざらにあった。



 だが、幸いにもこの島は外に出れば大自然。

 少し歩けば、山に実る豊富な果物や、目の前に広がる海に住む魚達。

 彼女は生きて行くために毎日、海で魚や貝を自分で捕ったり、山の中を食べられる山菜や、果物を探したり、時には自ら狩をしたりと駆けずり回った。


 木を切り削り、自分で作ったコップや調理器具を使い調理し、海に流れて来た金属を拾い集め小鍋を作り、海水を汲んで来ては火をおこし煮沸し、木の皮で作った繊維でそれをし、塩を作り、水を得る。


 彼女は、みんなに放置された一人で生きていく術を、歩き始めた幼少時より、自然と身につけていた。


「この服も、破れた箇所を直して着ていたけど、かなり小さくなってしまったわねぇ……。布団のシーツを使って縫い直そうかしら?」

 丈が短く、膝上になってしまっている自分の着ていたワンピースの裾を引っ張りながら言う。


「でも、先ずは食材の確保ね! 今日の晩御飯の食材を捕りに行きましょうか! 今日こそは魚を捕るわよ! 昨日まで降り続いた雨で木の実も、もう底をついてしまったしね。今日は頑張らないと!」

 そう言って彼女は部屋の入口に置いてある、木の枝を削って作った槍のような物と、木の繊維を使って自分で作成した網を持って今日も、大好きなコバルトブルーの海へ駆けて行った。


 豊かな自然があると言えど、そこは天候に左右される。長雨が続くと海は波が高くなり、山は道が悪くなり泥濘ぬかるむ為、食料を得ることは困難になるのだ。

 そんな日が何日も続けば、じっと空腹に堪えなければいけなかった。






 ──その頃宮殿では。


「何? この味付け! こんな薄い味、不味くて食べられないわ!」


 ──ガッシャン! 

 エレノアが侍女に向けて食器ごと投げつけた音が、静かなダイニングに響き渡った。


「も、申し訳ございません。今すぐ作り直します! エレノア王女殿下」

 給仕を行っていた侍女は、自分の頬を押さえながら、急ぎ退出する。

「本当、使えないわねぇ? 愚図なんだから。あの娘を見ていたら、何だかイライラするのよ。ほら? なんとなく、に似ていない? あの薄汚い女に? ねぇ? お母様?」


「アイツ? ホホホホホホッ まだ居たのね? もうとっくに死んでるのかと思ってたわ。ホホホホホッ」

 そう言いながら、真っ赤な露出の激しい身体の線がはっきり見えるドレスを纏い、ドレスの色よりも濃い真っ赤な口紅をした女性が、王妃には似つかわしくない仕草で、大きな口をパックリ開け最高級の仔羊のステーキを頬張る。


「あら? ほんとだ。エレノアちゃんの言う通りねぇ? まっずーーいこれ」


 ──ガッシャン!


 続いて王妃殿下が、床に「最高級仔羊のステーキ」を皿ごと投げ捨てた。

 それを給仕の侍女達が急いで掃除する。



 この光景が、ここ宮殿のダイニングでは毎日のように行われていた。



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