第18話・デート(3)

「ご馳走様でした。とても美味しかったです」

 私は給仕してくれた女性達や、先程のオールバックがよく似合う老紳士にお礼を言った。

「では? 行こうか?」

 そう言って彼が私の前に手を出した。


 え? お手? 

 ワン?


 少し戸惑っている私の顔を見て彼は無言で私の手を取った。

 そして優しい声で

「何処か行きたいところはあるか?」と。


 へ? 食事をしに来たのでは? 途中、寄り道と言うか、あんな高価な服まで買って頂いたし……

 他に何処に?


「い、いえ特には……」

 そう小声で答えた私に


「そうか……ならば俺が行きたいところでも良いか?」


 は? 何処に行くんですか? てか、まだ何処か行くんですか?

 そして先程から繋いだ手は、これは?

 もしかしてずっとこのまま繋いどくとかはないですよねえ?


「サーシャは馬に乗ったことは?」


 は? 何? いきなり? うまああああああああ?

 馬ってアレですよねぇ? そこの馬車に繋がれている? アレですよねえ?

 あるわけないだろ……騎士じゃあるまいし……


「いえ、ないですが?」


「よし! ならば決まりだ!」


 は? 何が決まったんでございましょう?


 そして、彼は見送りに来ていた、老紳士に何か言っている。

 老紳士は優しい笑顔で彼に頷き、直ぐに去って行った。

 その間私はと言うと……

 えっと……この手は? いつまでこのままなんでしょう?

 そして、何か説明はないのでしょうか?


 暫くすると、綺麗な白馬を引きながら先程の老紳士が戻ってきた。


「よう! ダリシオン元気にしてたか?」


 へ? ダリシオン?

 私の驚いた表情に彼は笑顔で言った。


「ああ、この馬の名前だ。ダリシオンと言うんだ」

 そう言って彼は馬を撫でている。


 いや、名前じゃなくて……この馬をどうするおつもりでしょうか?


「ノクト、世話になった。ではまた」

 そう言って彼は私をヒョイと抱き上げた。

 ええええええええええええ?

 ちょおおおおおっとおおおおおおおお!


「キャッ」

 突然のことにビックリした私は思わず声をあげてしまった。

 と思った瞬間、景色が! 高くなり……


 は???

 馬に乗っている? いや……乗らされている?


 うそーーーーーーーーーん!


 そう思った瞬間!

 彼がヒョイっと馬に跨ってきた。

 そして私の腰に手をまわした。


 ええええええええ?

 ちょ、

 何いぃ~~これええええ!

 あまりにも突然で声が出ない。


「サーシャ、しっかり俺に捕まっておけよ?」

 彼の声が聞こえたかと思うと? 馬が駆け出し始めた。


 うそおおおおおおーーー

 ちょおおおおお

 待ってぇええええー


 私が驚いて目をつぶっていると彼が優しい声で言った。

「サーシャ、目を開けて景色を見てみろ、この辺りは緑が綺麗だぞ?」


 彼の言葉で私は、そっとゆっくり目を開けて見る。



 ──そして視界に飛び込んで来た光景は。


 木々が生い茂る美しい森の大自然だった。

 真っ青な空に、深い緑や、薄い緑、少し黄色や薄い赤に色付き始めた木々。

 向こうには、森の木々に反射してエメラルドグリーンに光る湖。

 山肌から流れ落ちる滝の薄水色。

 計算ではなく自然が作り出した美の世界。


 まるで絵画のような美しい世界。


「綺麗……」

 思わず私はそう呟いていた。


 彼はそんな私ににっこり微笑んで馬から降りたあと、私を抱き上げ、馬から降ろしてくれた。


「俺が一番好きな場所だ」

 そう言った彼の笑顔は、その美しい景色を背に、太陽の日差しを浴びたプラチナブロンドの髪がキラキラと光輝き、とても尊く美しく見えた。


「サーシャ、こっちに?」

 そう言って彼は私の手を引き、湖の近くに連れて行く。


「うわ~~綺麗」

 思わず声が出た。

 綺麗なエメラルドグリーンの湖に太陽の日差しが反射して、キラキラ光り、まるで宝石を散りばめたようだ。そしてその湖面には、美しい山々の姿が、赤や黄色がユラユラ揺れながら逆に映し出され、幻想的な空間だった。


 そして私達は暫くその美しい光景を見ていた。


「サーシャ、また誘っても構わないだろうか?」


「え?」


「店で会うのとは違った君の顔を見てみたい。だからまた誘っても構わないかい?」

 優しく微笑んだ彼を見て私は、断る理由がなかった。


「は、はい……私でよければ……」

 頬が赤く染まった自分が恥ずかしく、私は俯いて誤魔化した。


「ではそろそろ帰ろうか? 今日はありがとう」

 そう言って彼は私ににっこり笑った。




 そして再び馬へと。

 帰りはしっかりと景色を堪能出来た。

 思いの外、馬上が怖くなかったことに私はちょっと驚いた。そして店の前まで送ってもらい家へと戻った。




 ──部屋に戻り、バッグにしまっていた小箱を開ける。綺麗なブルーの宝石のネックレス。

 そのネックレスを見て、彼の綺麗で澄んだ瞳で私を見る彼の顔を思い浮かべた。


 自然と頬が熱くなった。



「……今日のあれは? 食事会??」

 再びそのネックレスをじっと見つめる。


「もしかしてデート?」


 そう口にした瞬間、物凄く恥ずかしくなり、私はベッドにダイブして布団を頭まで被り、ゴロゴロと布団に巻き付いたまま、イモムシのように暫く丸まっていた……




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