第24話・事件(1)
週末の彼とのデート? も無事終り、店の方も変わらず、親切なイケメン騎士様達や、気さくに話しかけてくれるイケメン冒険者の方達、いつも優しいご近所の方々などに支えられ、順調にいっていた。
変わらず彼は閉店30分前を厳守して、ほぼ毎日通って来てくれるようになり、私は充実した、楽しい毎日を送っていた。
聖女時代のあの、ブラックな過酷な生活に比べたら、今は天国のような生活だった。
「平凡で幸せな生活。スローライフ。なんて素敵な響きかしら!」
私は一人想いを馳せていた。
────そんな幸せで平凡な生活が…………
「さて、今日も頑張るぞ! いらっしゃいませ~『ひだまり亭』開店です~」
カランカラン
「こんにちは~サーシャちゃん。今日も可愛いわね。その服とても似合ってるわよ」
「本当、最近どんどん綺麗になって~良い人でも出来た?」
「やだぁ~もう~やめてくださいよ。今日はいつものセットで良いですか?」
なんとなく恥ずかしく思い私は早々に、その場を離れた。
「ええ。お願いね?」
「はい。直ぐに」
今日も良い天気ねぇ? 外を眺めながら、私は注文のサンドイッチをいつものように作る。
──カランカラン
「サーシャちゃんおはよう~」
「あら? アンディさん? 珍しいわねぇ。今日は早いわねぇ? それに今日はお一人で?」
「ああ、今日は非番なんだよ。週末、夜勤だったんでね。だから今日は俺一人だけさ。そのうちアイツ等も来るだろうけどね」
「そうなんですか。今日は何にしましょうか?」
「ああ、腹減ってるから、今日はビーフサンドをダブルでお願い!」
「わかりました。少々お待ちくださいね?」
実は最近、増えた男性のお客様向けに、ビーフのパテとチーズとたっぷりの野菜をバンズ型のパンで挟んだ、ボリュームたっぷりの「ビーフサンド」をメニューに加えた。
これが、今やうちの常連とも言える騎士様達や、冒険者さん達に、大変好評だった。
彼らは、この「ビーフサンド」を通常の倍の量ダブルで注文することも多かった。
今日も魔法で、ちゃっちゃと「ビーフサンド、ダブル」を作り、席へと運ぶ。
ちなみにウチの店では、テイクアウト料金にプラス100ギルで、ドリンクとのセットを店内で提供している。
「お待たせしました~~」
「おお~美味そう! それに、ここの果実水はいつもキンキンに冷えてて美味いからなぁ」
そう言ってアンディさんは喜んでくれた。
ここに来て驚いたのは、男性が好んで飲むエールや、他の飲料、果実水も大抵冷えてなく、生ぬるいのだ。やっぱり冷たい飲み物は冷えてるほうが美味しいわよね? と思って、ウチで提供している果実水は私の魔法によって、冷やした物を提供している。
まぁこれも大量に作り、一旦アイテムボックスで保管しておき、一日に使う分を、厨房の冷蔵庫に入れてあるんだけどね。
本当はお客様が自分で、好きなだけ飲めるサーバーのような物を用意し、提供してあげたいんだけど……
機械を作ることは出来るとは思うけど……
それを作ると、ちょっとヤバそうな予感がして、今のところまだ手を出していなかった。
小型の冷蔵庫を店内に置いても良いんだけどねぇ? また考えましょうか。
そんなことを一人で考えている矢先、事件は起こった。
──カランカラン
「ハァ、ハァ、ハァ。いた! アンディ! ハァ、ハァ……アンディ大変だ! 今すぐ来てくれ!」
「あら? レービンさん? どうしたの? そんなに息を切らして?」
珍しくレービンさんが肩で息をしている。いつもの柔らかな雰囲気は全くなく、緊迫した様子が感じられ、私は急いで果実水の入ったコップをレービンさんに手渡した。
「あ、サーシャちゃんごめん……ハァ、ハァ」
──ゴクゴクゴク
「……ありがとう。助かったよ。サーシャちゃん。それより、アンディ!」
?? 珍しいはねえ? いつも、にこやかで、ちょっと悪く言うと軽薄そうに見えるレービンさんがこんなに焦ってるなんて? 何があったのかしら?
「なんだよ? レービン! いきなり大声で!」
いつも温和で優しいアンディさんが眉間に皺を寄せ、珍しく声を荒らげた。
「悪りぃ。アンディ緊急事態だ! 急ぎ王宮へ来てくれ!」
「は? 何があったんだ?」
「森だ。第一騎士団が森で、マークが! マークのヤツが!」
レービンさんの顔が真っ青になり、震えている。
その異様な雰囲気に私も、何かとても大変なことが起きたのかと思い、不安を感じていた。
「マークがどうしたんだ? レービン! 何があった? 今日は、森の定期視察の日だろ? 早朝から森にお前たちは行っていたはずでは?」
「その森で……バジリ……」
「は? 何だ? 何があった?」
アンディさんが、レービンさんに詰め寄る。
「……バジリスクが大量発生した」
「はあああああ? 何であの森に?」
「それで、マークが……」
「おい! レービン! マークがどうしたんだ?」
アンディさんが、レービンさんの肩に掴み掛かって声を荒らげた。
「いいから! とにかく、直ぐに戻ってくれ! アンディ!」
レービンさんは、アンディさんの手を振り払うこともせず、必死の形相でアンディさんに言う。
「分かった!」
二人の顔色は青く、レービンさんの普段は艶やかな唇は、乾き真っ白になっていた。
バジリスク? 石化と猛毒を持つあの魔物?
まさか? バジリスクに襲われた?
嘘でしょ? ハイポーションを直ぐに使えば治るはずだけど……王宮勤めの騎士団なら所有しているわよね?
「サーシャちゃん、ごめん行かないと! 代金はここに」
そう言ってアンディさんが私に謝る。
「サーシャちゃん。町にも魔物が現れるかもしれない。直ぐに王宮からの『外出禁止令』が発動されるはず。だからサーシャちゃんも決して安全が確認されるまで、外には出ないように」
レービンさんが真剣な顔をして私に言った。
バジリスクが大量発生? ありえないでしょ? バジリスクが群れで現れる??
何が起こった? 森に???
私はレービンさんの言葉より、バジリスク大量発生の言葉に不安を抱いていた。
それよりマーク君!
私ならマーク君を救える!
大聖女である私なら!
でも……それをしたら、私が大聖女であることがバレてしまう……
いつも私に、にこやかな笑顔で話し掛けてくる、子犬のようなあの可愛らしい笑顔が頭に浮かんだ。隊員のみんなに揶揄われながらも、いつも元気で陽気なマーク君。
この店を開店した当初、私の不安な気持ちが、あの笑顔で救われたことを……
大聖女である私が、目の前で苦しんでいる人を、自分の出自を隠す為だけに見捨てる?
そんなこと……
──出来るわけない!
私は無意識に、ドアを開け、二人の後を追って王宮に向かって走っていた。
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