第8話・ムカツクお客様

 ──王宮での一室。

「あの女ぁあああ! 絶対許さぬ!」


「で、殿下? 如何なされましたか?」

 側でオロオロしているのは、普段は冷静沈着、国内きっての秀才と言われる、この国の宰相ラカーシャ侯爵の長男、クランツ・ラカーシャだ。


「えぇい! うるさい! 下がれ! 一人にしてくれ!」


 そう言ってその男はドスドスと大きな音を立てて奥の部屋へと消えて行った。


「──はて? 何があったのでしょうねぇ? いきなり市井に出掛けると行って、出て行ったと思えば? あのように一人怒って? こんなに仕事が溜まっているのに。はぁ……」


 主が怒り入って行った戸を、ぽつんと一人残された彼は、机に山積みになった書類を見つめながら大きな溜息を吐いていた。





 ──その頃、カフェひだまり亭では。


「もう、何なのよアイツ! そりゃぁ? ちょっとは顔はイケメンかも? いやかなりのイケメン? いや! そんなことは関係ないわ! あの態度よ。態度! まるであの、お坊っちゃま勇者みたいじゃない! 実力もないくせに威張りちらして! 実力がないかどうかは? わからないけど。でも、は絶対口だけの男に決まってるのよ!」


 私は、店を閉店した後、片付けをしながら、先程の横柄な偉そうな男を思い出しムカムカしていた。


「ハァァ。イライラする! 塩でも撒いてやれば良かったわ!」


 そう思った私は、外の店の入口のドアの隅に塩を盛った小皿を置いた。


「ふん! これでよし!」






 ──そして次の日。


「はああ? 何でよ!」


 何故か、男がまたもや、閉店間際に入店して来た。

 私は仕方なく無愛想に


「いらっしゃいませ。店内でお召し上りでしょうか? それともお持ち帰りでしょうか?」

 まさに棒読みとはこのことだろう。ちょっと自分でも幼稚かな? とも思えたが腹立ったことには、かわりない。

「店内だ。案内しろ! 娘!」


 は? 店内で? この時間に? 時計に視線をやる。時間は12時50分。

 でも、13時までに入店してるわけだし……追い返すことも出来ないし……

 仕方なく私は席に案内した。


「どうぞ。メニューです!」

 ドンッ! 私はテーブルにちょっと荒めにメニュ表を置いた。


「ここのオススメで良い。一番自信があるのをさっさと持って来い」

 男の偉そうな態度は変わらず、私を見下した風な笑いを浮かべた。


 むううううう! カチーン!


 私はその、人を馬鹿にした態度にムカつき、急ぎ調理場に戻り、サンドイッチを魔法で作成し、果実水をトレーに乗せ、男の待つテーブルに持って行った。


「お待たせしました! どうぞ!」

 ドン!

 少し乱暴とも思える勢いで私は、それだけを言い、直ぐに厨房に去った。

 それから暫くして、男性はレジに来た。


「代金だ! 受け取れ!」


「お客様、当店では、食後の食器類はこちらの返却口にで返却して頂くシステムでございます」

 私がそう言うとその男は

「何だ? ここは何でも客にやらすのだな? お前は何か? 客に働かせるのが趣味なのか?」


 はぁあ? 何なのよ? コイツ!

 最初は私が食器類は下膳しに行っていたが、何せ、一人で店をやっている為、レジや注文が混雑した際は、みんなが気を効かせてカウンター横の台に食器を持ってきてくれていたのだ。

 それで常連の近所の主婦さんや、騎士様達とも相談し、厨房の一部の壁に切り込みを入れて、食器の返却口を作成した。厨房を外から一切見えなくしている造りは、魔法を駆使しているからだ。


 元々はこんなにお客様が来てくださることを想定しておらず「まったりしたカフェ」を考えていたので、私一人でやれる範囲と思い始めた店。今後も人を雇う予定はない。


 あくまでも私が目指しているのはスローライフ。

 人を沢山雇ってまで、儲けたいわけではない。

 せっかく贔屓にしてくれているお客様には申し訳ない気持ちはあるが、そんな常連さんが「ふら~と立ち寄れる温かい空間」を私は提供して行きたい。

 食器返却システムにしても、お客様が少ない時は私が行えるわけだしね。



「当店では、出来るだけお客様のペースでゆっくりして頂けるようにと思い、そうしております」


 私は何の感情も入れず綺麗な棒読みでその男を少し睨み言った。

 そして、こう伝えてやった。


「当店の方針でございます故、ご理解頂けない場合は、大変申し訳ございませんませんが入店をお断りさせて頂いております」


 私は真っ直ぐにその男の目を見て、胸を張って言った。


「ハハハハハッこりゃぁいい。娘! 俺は先程ちょっと腕を痛めた。もらえるかな?」


「は?」

 思わず私は言ってしまった。


「ん? この店では確か、ケガをしたり、老人や子供などには手を貸すのではなかったのか?」

 そう言ってその男はニヤニヤしている。


 はあああ? 何それ? マジむかつく!


「それとも何か? この店では腕を痛めた客にも食器の返却を強要しているのか?」


 カチーン!


「いえ、そういうことであれば、結構です!」

 私はムカツキ口調がキツくなっていた。


「では、これで」


 カランカランッ


 男は600ギルちょうどをカウンターに置いて去って行った。




 何あれ? 


 マジむかつくーーーーーー!




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