第9話・どっちが勝つ?

 私は、昨日の? をいかして、店の看板横に掛けてある、営業時間や、当店の注意書きなどを書いてあるボードをに追加した。

「オーダーストップまで」と


「13時閉店なんですもの、オーダーストップが30分前なのは普通よね?」


 フフフ……私は一人ほくそ笑んだ。


 見てろ! アイツ!


 その男は閉店間際の12時45分から12時55分頃やって来ていた。

 最初に来た日は自動精算機に怒りそのまま帰って行った様子。そのまま二度と来ないかと思えば、再び昨日来て、今度は店内で食べると。

「何よ! あの勝ち誇った顔で偉そうに!」

 今、思い出しただけでも、イライラしそうだわ。


 そして私は考えたのだ。昨日の夜。

 そうだ! 最終オーダー時刻を決めればいいのだわ!

「12時半より前にオーダーしなければ、店内で食事出来ないようにすれば!」

 これを思いついた瞬間、私は自分の天才さに震えた。

「これでアイツを撃退できるわ!」と。



 幸い、近くの常連さん達は、皆さん自分の店をやっていたりでお昼の休憩時間に利用する為、12時半を過ぎて来店される方はいない。

 毎日のように今でも利用してくださる騎士様達も、13時から午後の訓練が始まる為、皆12時40分頃には帰っていく。

 ウチに来るお客様のほとんどは10~11時半、遅くても12時ぐらいまでに来店して、12時半過ぎにはみんな帰っていたのだ。


 提供している物が、サンドイッチとお茶類だけの軽食だと言う理由もあるだろう。

 ちょっと遅めの、ブランチを食べに来る人が多かった。


 フフフ……

 しょぼくれて帰るあの嫌味な男の顔が目に浮かぶようだわ。



 私は高まる高揚感を抑えつつ、開店準備を始めた。



「ありがとうございましたーまたの起こしを~」

 忙しい時間もだいぶ落ち着いてきたかしら?



「いつも、本当にありがとうございます。お気をつけて~これ、良かったら皆様で、少ないですけど……」

 私はウチの常連さんであり、お客様が混雑している際は人員整理や、接客のお手伝いまで自発的にしてくださる騎士様達が帰る際に、お礼にと思い、作っておいた土産用のサンドイッチを渡した。


「そんな! 俺達が勝手にやっているのに、こんなことして貰ったらご迷惑では? 申し訳なくて受け取れませんよ」

 そう言って金髪イケメンのアンディさんが言うと

「うわ! 嬉しい! ありがとうございます! サーシャちゃんが作るサンドイッチは極上なんで嬉しいです!」

 そう言って、サンドイッチの入った箱を嬉しそうに受け取るマーク君。

「「おい! マーク! お前失礼だろ!」」

 怒るアンディさんとカイルさんに私はにっこり微笑んで言った。


「無事こうしてお店を続けて行けるのも皆さんのお陰ですから。これぐらいのお礼しか出来ませんが是非受け取って下さい」


 そういうと、マークさんを睨みつけていた二人も、恐縮そうに頭を下げた。

 カイルさんなんて、その強面と大きな身体に似合わず、何度も、何度も「すいません、本当に」と言いながら頭を掻きながら、お礼を言ってくれた。


 本当にみんな良い人ばかりだわ。

 私は心が温まる気がした。


 そう。私が望んでいた暮らしは、こういうのよ!

 決して贅沢な暮らしでなくてもいい、信頼できる人達に囲まれて、穏やかで温かい生活。


 素晴らしいわ! スローライフ! 何もかもが順調過ぎて怖いくらい。



 私は騎士様達を見送って、ふと時計を見る。

 よっし! 12時半過ぎた!


「フフフッこれで私の勝ちね」

 私はニコニコしながら、店内の片付けをしていた。









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