第10話・大聖女VS嫌味男の第一ラウンド

 私は、昨日の? をいかして、店の看板横に掛けてある、営業時間や、当店の注意書きなどを書いてあるボードをに追加した。

「オーダーストップまで」と


「13時閉店なんですもの、オーダーストップが30分前なのは普通よね?」


 フフフ……私は一人ほくそ笑んだ。


 見てろ! アイツ!


 その男は閉店間際の12時45分から12時55分頃やって来ていた。

 最初に来た日は自動精算機に怒りそのまま帰って行った様子。そのまま二度と来ないかと思えば、再び昨日来て、今度は店内で食べると。

「何よ! あの勝ち誇った顔で偉そうに!」

 今、思い出しただけでも、イライラしそうだわ。


 そして私は考えたのだ。昨日の夜。

 そうだ! 最終オーダー時刻を決めればいいのだわ!

「12時半より前にオーダーしなければ、店内で食事出来ないようにすれば!」

 これを思いついた瞬間、私は自分の天才さに震えた。

「これでアイツを撃退できるわ!」と。



 幸い、近くの常連さん達は、皆さん自分の店をやっていたりでお昼の休憩時間に利用する為、12時半を過ぎて来店される方はいない。

 毎日のように今でも利用してくださる騎士様達も、13時から午後の訓練が始まる為、皆12時40分頃には帰っていく。

 ウチに来るお客様のほとんどは10~11時半、遅くても12時ぐらいまでに来店して、12時半過ぎにはみんな帰っていたのだ。


 提供している物が、サンドイッチとお茶類だけの軽食だと言う理由もあるだろう。

 ちょっと遅めの、ブランチを食べに来る人が多かった。


 フフフ……

 しょぼくれて帰るあの嫌味な男の顔が目に浮かぶようだわ。



 私は高まる高揚感を抑えつつ、開店準備を始めた。



「ありがとうございましたーまたの起こしを~」

 忙しい時間もだいぶ落ち着いてきたかしら?



「いつも、本当にありがとうございます。お気をつけて~これ、良かったら皆様で、少ないですけど……」

 私はウチの常連さんであり、お客様が混雑している際は人員整理や、接客のお手伝いまで自発的にしてくださる騎士様達が帰る際に、お礼にと思い、作っておいた土産用のサンドイッチを渡した。


「そんな! 俺達が勝手にやっているのに、こんなことして貰ったらご迷惑では? 申し訳なくて受け取れませんよ」

 そう言って金髪イケメンのアンディさんが言うと

「うわ! 嬉しい! ありがとうございます! サーシャちゃんが作るサンドイッチは極上なんで嬉しいです!」

 そう言って、サンドイッチの入った箱を嬉しそうに受け取るマーク君。

「「おい! マーク! お前失礼だろ!」」

 怒るアンディさんとカイルさんに私はにっこり微笑んで言った。


「無事こうしてお店を続けて行けるのも皆さんのお陰ですから。これぐらいのお礼しか出来ませんが是非受け取って下さい」


 そういうと、マークさんを睨みつけていた二人も、恐縮そうに頭を下げた。

 カイルさんなんて、その強面と大きな身体に似合わず、何度も、何度も「すいません、本当に」と言いながら頭を掻きながら、お礼を言ってくれた。


 本当にみんな良い人ばかりだわ。

 私は心が温まる気がした。


 そう。私が望んでいた暮らしは、こういうのよ!

 決して贅沢な暮らしでなくてもいい、信頼できる人達に囲まれて、穏やかで温かい生活。


 素晴らしいわ! スローライフ! 何もかもが順調過ぎて怖いくらい。



 私は騎士様達を見送って、ふと時計を見る。

 よっし! 12時半過ぎた!


「フフフッこれで私の勝ちね」

 私はニコニコしながら、店内の片付けをしていた。




 ──カランカラン


 !

 来た! 戦いのゴングが鳴ったわ!

 私はすかさず店内の時計を見た。

 時計の針が示している時間は12時45分。


 よっしゃーー! 勝った!

 私は心の中でガッツポーズをした。


 気分を良くした私はちょっとだけいつもより愛想よく言った。


「いらっしゃいませ~」


「娘、席に案内しろ」


「お客様、店内でのお召し上りは申し訳ございませんが、最終オーダーが12時半までとなっております」


 フフフ言ってやったわ! どうよ? 私の勝ちでしょ!

 私は勝ち誇った顔で自信たっぷりに言った。


 するとその男が


「ふーーん」


 少し小馬鹿にした感じで私を見下ろし、その端正な顔に手をやり、言った。

「ならば、サンドイッチ200個持ち帰りで頼む。金はここにある」

 そう言って10万ギルをカウンターの上に置いた。


 は? 200個? 


 私が一瞬考えていると


「どうした? が用意出来ないのか? 客に働かせている店なんだから造作もなかろう? ハハハッ」


 その男は、長身の身長で上から、これ見よがしに私を見下しながら、馬鹿にした薄ら笑いを浮かべて私に言い放った。


 はぁ? 何よ? 200個?

 いいわよ! やってやるわよ! 驚かないでよ? 舐めんじゃないわよ? 大聖女の魔法を!


 何か違う方向に魔法を使っていることはこの際は無視し、私はその男の挑戦状を受け取った。


「直ぐにご用意致しますので、こちらでお待ち頂けますか?」

 私はカウンター前のテーブルを案内し、椅子に座って待つように言った。


「では頼むぞ? 娘よ?」

 そう言ってニヤニヤしながら、その男は私を見て笑った。


 カチーーーーン! あんた今「直ぐに」ってわざとそこ強調して言ったわよねえ?

 私は久々に、戦地に立ったあの感覚。敵を前にして、相手をどうやってやり込めるか? デバフ魔法を選ぶ瞬間のワクワクする緊張感のような感覚。

 あれに似た物を覚えた。無意識に拳を握り力を込めた。


 私は小走りに厨房へ戻り急ぎ材料をアイテムボックスから取り出す。

 そして50個分を一気に魔法を駆使し作り、空間転移を使って箱に詰める。

 この作業を4回繰り返し200個を作りきった。

 もう少し広い場所だと一度に200個程度作ることは可能だが、流石にここでは場所が狭い。

 一度におけるサンドイッチの数の限界が50個分だったのだ。


 但し、全て空間転移を駆使しての作業な為4回行ったとしてもさほど時間はかからない。時間にして10分は掛かってないはず。

 私はアイテムボックスから、過去に作ってあった、適当な大きさの台車を取り出しそこに50個のサンドイッチを入れた袋を4袋のせた。


 ふん! どうよ? 大聖女舐めんなよ?

 私はちょっと胸を張って店内にその台車をガラガラと運び、その男に言い放った。


お待たせして申し訳ございません。こちらご注文の品の200個でございます。お確かめ下さい」

 にっこりと私は優雅に微笑み、その男に言った。


「ふーーん。なるほどな。予め作ってあったか」

 その男は小声で言った。


 違うわ! 今作ったのよ! と、言ってやりたい気持ちはあったが「魔法で瞬時に今作りました」と言う訳にもいかず、仕方なく私は愛想笑いをした。


「では、ありがとうございました」そう言って、にっこり微笑みながら私は入口のドアを開け、さっさと帰るように促した。

「台車はお貸ししますから、また後日お持ち下されば結構ですよ?」

 そう私が言うと


「いや、構わぬ」

 彼はおもむろに、サンドイッチが50個入った袋を両肩に掛け、残りの2袋を両手に持ち

「では。失礼する」

 そう短く言い、スタスタと歩いて行った。

 その男性が、店を出た後、時計を見ると13時をちょうど過ぎたところだったので、店を閉め私は一人呟いた。


「フフフッこれは私の勝利って言っていいわよね?」


 ふん! やったわ!








 ────その頃王宮の一室では。

「で、殿下……こちらは?」

「皆に分けてやれ! クランツ!」



 ──それだけ言って、無言で奥の部屋に立ち去ってしまった主が居るであろう真っ白なドアを見てクランツは途方に暮れていた。

「こんなに沢山のサンドイッチどうするんだよ? もうみんな昼飯食べて終わってるし……それに、この仕事どうするんだよ……」

 またも机に山積みになっている書類を遠い目で見ながら呟いた。








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