第12話・恩人?

 ──え? 何が起こったの?


 彼は自分の腕に覆い被さっていた大きな車輪をゆっくり退け、入口の扉の前近くにあった、テーブルを持って行き、崩壊した扉を塞いだ。


 え? 助けてくれた? 

 この嫌味だらけの男性が?


「馬車を引いていた馬が暴れて車輪が外れたのがこっちに転がってきたのか……」

 そう低い声で言いながら、彼はこちらに向かって歩いてきた。


「娘、ケガはないか?」

 しゃがみ込んでいる私に、その男は手を差し伸べた。


「い、いえ……ありがとうございました。危ないところを助けて頂いて……」


 え? 血? 彼の肩を見ると血が流れていた。

 よく見ると車輪の一部が刺さったようで、かなりの深手を負っている様子だった。


「お怪我を……」

 私が小さな声でそう言うと


「構わん。この程度。それより、入口のドアが破損している。テーブルのままでは無用心だ。直ぐに職人を呼び直させろ」


「今はドアのことより、お怪我のほうが!」

 私が少し大きな声で言うと、彼は少し驚いた表情で


「大丈夫だと言ったはずだ!」

 そう言って声を荒らげる。

 だが、その瞬間、傷を負った肩から赤い血がドバッっと床に流れ落ちた。

 そして一瞬、男性が肩を抑えようとし、少しよろけたのを見た瞬間


「大変!」

 その言葉と同時に、私は無意識に魔法をイメージしていた。

 ──ハイヒール



 ──その瞬間、温かい金色の光が彼の傷がある肩のまわりを包み込むように柔らかく光った。




「お、おま、お前……今……何をした?」


 はっ! しまった! 思わず流れ出る血を見て使ってしまった。

 職業病とも言えるだろうか。傷ついた人を見ると無意識に、無詠唱でヒールを飛ばしてしまう。



 暫くの沈黙が続いた……



「お前もしかして? いや……ありえないな。だがこれは……」

 彼は何やらモゴモゴと言っている。


 黙っていたら誤魔化せるかしら?

 笑って誤魔化しちゃう? いっそのこと?

 そう考えていた瞬間


「お前、もしかして魔法が使えるのか?」


 ──バレた?


 ……そして再び続く沈黙。


「返答が無いってことはそう言うことなんだな。勘違いするな。別に責めているわけではない。この国には魔法を使える者は、ほとんどいない。ましてや回復魔法など……」


 は? 今、何て言った?

 魔法を使える人がほとんどいない??

 確かに回復魔法、光属性を持った魔道士は希少かもしれないけれど、魔法を使える人は結構いるはずでは? そう私は色々考えていると彼は続けた。


「とりあえず礼を言う。改めてちゃんと礼はするつもりだ。このドアの修理をする職人を手配しておくゆえ、危険だから、今日は早めに2階に避難しておけ。では失礼する。ありがとう」

 そう言って彼は颯爽と去って行った。


 魔法を使える人が、ほとんどいないてさっき言ったわよねぇ?

 ここって?

 いったい私、何処に転移したの?


 てか、今まで何も知らずにバンバン使っていたけど……

 もしかしてヤバかった?


 まぁ、誰にも見られてないから大丈夫か……


「やっぱり店に結界魔法掛けとくべきだったわね」

 あの時、盗賊用檻を作成する際、出来上がりを試す為に一旦、結界を解いていたのは失敗だったわね。そのままにしておいたのが……


「……にしても、ケガを負わせてしまったわねぇ。大聖女が、カフェに来たに助けられる? 完全に私の失敗だわ。自分の身も守れないような失態……最近、この緊張感がないスローライフのお陰で、危険察知能力が低下していたようね……」


 私は自己嫌悪に陥っていた。




 ────スローライフに危険察知能力など、元より必要ないことに彼女は気づいていなかった。



「お見舞いをしたほうがいいかしら? いくらヒールで治したにしても、私のせいでケガを負わせてしまったわけだし……でも、何処に住んでいるのかもわからないし……」


 はぁぁ……

 深い溜息をつく。







 ──敵認定していた男性のことを、あれこれ想い心配する大聖女であった。














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