第15話・食事のお誘い

 ──そろそろ時間かしら?

 そう思い私は時計に目をやる。時刻は12時25分。


 カランカラン


 来た!


「いらっしゃいませ!」

「あ、あぁ。昨日はすまなかった。ありがとう」


「い、いえ。そんな……私のほうこそ、助けて頂いて。それに扉の修理まで……あ! 代金を! おいくらでしょうか?」

 私が急いでレジに向かうと男性が言った。

「いや、あれは俺の傷を治してもらったお礼だ。だから代金は必要ない。気にするな」

「え? でも。元々は私を庇っての……」

「気にするなと言ったはずだ。それよりもう12時半が過ぎてしまう。また、帰れと言われたら、かなわんからな。いつものセットを早く用意してくれ」

 そう言って彼はいつも座る端の席に向かって自らスタスタと歩いて行ってしまった。


 今日は他のお客様も、もう帰ってしまい、今はこの男性しか店内にはいない。

 なんとなく、昨日ののせいで私は気まずく感じつつ、サンドイッチを作る。普段はサンドイッチ2切れとドリンクのセットだが、昨日のお礼にと私は、サンドイッチを3切れ用意し、サラダも添えた。


「お待たせしました。どうぞ」

 私がテーブルに持って行くと、彼は少し驚いた顔をして

「いつもより多いようだが? それにサラダまで?」

「昨日のお礼と言うか……こんなことしか出来ませんが……」

「そうか、気遣いありがとう」

 そう言った彼が初めて私に見せた笑顔に私は少しドキリとしてしまった。

 そのことを悟られまいと、私は足早にカウンターへと向かった。


 何なの? 今のは? ちゃんと笑顔も見せれるんじゃない……

 それなら最初からそうしてくれれば……


 何故だか私はモヤモヤする気持ちを抱えながら、厨房の後片付けをしていると、足音が聞こえた。


 え?


 そこには何と、彼が食べ終わったトレーを返却口に置いていた。


「えええ? 自分で下膳した?」 


 驚いた私は思わず声をあげてしまった。


「何だ? 食べ終わったらここに置くのではないのか?」


「い、いえ。ありがとうございます。助かります?」

 何故か疑問形になった私を見て、彼が再び笑った。


「ありがとう。美味かった」


 え? ありがとうって言った? 今? 私の聞き間違いじゃないよねえ? ありがとうってって確かに言ったわよねぇ? この男???


「主人。ところで約束の礼をしたい」


「へ? お礼?」

 あっ、思わず変な声をあげてしまった……

 私は恥ずかしくて、俯き誤魔化す。


「明日の10時半にこちらに迎えに来る。礼に食事をご馳走したい」


「は?」

 今なっつった? この男? 食事? ええええええええええええ?


「では、また明日」

 カランカランッ


 意味がわからなくて私は固まった。頭の中に??? が沢山飛んでいる。

「え? ちょ、ちょっとぉーーー」

 カランカランッ

 急ぎ扉を開けた時には彼の姿は既に見えなくなっていた。


 え? 嘘でしょ? 一緒に食事??

 それって、お礼と言うより寧ろ拷問の間違えじゃないの?

 私は驚いて、椅子に座り込んだまま、思考回路が止まっていた。


 ──暫くして、ゆっくり考える。

 でも、今日の彼は、怒ってなかったわよねえ? いつもみたいに偉そうでもなかったし?

 どちらかと言うと、優しい感じ?

 イヤイヤイヤないない!

 私は頭をブンブン振り、今までの彼とのやり取りを思い出す。


 でも、ちょっと待ってよ? 最初に訪れた時に、確かに横柄な態度ではあったけど、それに対して私もツンツンして返したような……


 そして、次の日にはオーダーストップを看板に付け足して……

 意地悪なことをしてきたのは私の方?

 お客様だというのに?


 そんな私に怒ることもせず、毎日決まった時間に。それもちゃんとルールを守って12時半までに来てくださった……


 そんな私の態度に怒るどころか、昨日は、自分があんな大怪我を負ってまで私を助けてくれた……

 私は今まで自分が彼にして来た行動の幼稚さに恥ずかしくなり反省した。


 私ったらなんてことを……

 酷い女だわ……


 それなのに、お礼にって食事に?

 どうしましょう……


 何故か胸がモヤモヤして、鼓動が早くなり、頬が熱くなる自分に私は戸惑いながらも、今までの自分の態度に後悔していた。



 謝らないと!


 私はそう心に誓った。







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