第3話・もしかして大金持ち?

  テーブルの前には一人の男性が座っている。名はグレディと言うらしい。

 そしてこの商業ギルドのギルド長だと先程紹介された。

 何故このような所に私が来ているかと言えば、少々話は遡る。


 私がポケットに無造作に入れたの宝石。あれを見た受付の女性が、この部屋に案内したからだ。そしてその宝石をマジマジと見る男性は、私にたずねた。


「失礼ですがこの宝石はどちらで手に入れた物でしょう?」と。


 まさか勇者パーティーに長年同行した際の戦利品です。なんて言えるわけもなく、私は咄嗟に誤魔化した。

「亡くなった祖母が持っていた物で、私が生前譲り受けた物ですが? 何か問題でも?」

 私が、嘘がバレないように毅然とした態度でそう言うと男性は、少し驚いた表情を見せたが直ぐに

「いえ、すいません。立ち入ったことをお聞きして、お祖母様は随分と高価な物をお持ちだったようで……」

 そう言葉を濁した。

 私は少し不思議に思い考えていた。

 この程度の大きさの宝石が高価ですって?

 この程度の物なら何処にでも転がっているレベルのはずでは?


「こちらをウチで買取させて頂いても?」

 再び男性が私に聞く。

 さっきからそう言っているのに……

 ちょっと私はイラっとした。何度も同じことを言わされ……

 開店の書類を提出し、宝石をさっさと換金し終えたら、店の開店に向けて準備を行う予定だったのに……

 あ! いけないいけない。つい昔の癖で。何でも効率重視を考えてしまうこの癖。

 如何にして一人でパーティーメンバー全員にバフを掛けサポートしながら、敵を体力を効率よく削るデバフを掛け、合間に攻撃を行うと言う行動を繰り返し続けたせいで、全てを効率重視、秒単位で計算してしまう癖が出てしまったわ。

 私はスローライフを送ると決めたのだったわ!


「申し訳ございません。お待たせしました。それでは此方の金額で良ければサインをお願いします」

 そう言って、先程案内してくれた受付の女性が部屋に戻り、私に一枚の紙を差し出した。

 そこに書かれていた金額は。

 100万ギル。


 え? 100万? こんなゴミみたいな小さな宝石が?


「最高品質のイエローダイヤモンドでございますね」

 そう言ってその男性が微笑んだ。


 最高品質? は? こんなのどう見ても屑石でしょう? 1万ぐらいになればいいかな? と思って持って来たのに?? 100万ギル?


 嘘でしょ?


「提示金額にご不満でしょうか? 確かにここまでの高品質であるなら、宝石商に持ち込まれたほうが、高値は付くかもしれません。申し訳ございませんが私共ではそこまでの流通経路の確保が宝石についてはあまりなく……」男性がモゴモゴと言葉を濁した。


「あ、いえ大丈夫です。ここにサインをすればいいのね?」

 私がたずねると、男性は安堵した表情で頷いた。




 ──無事換金することが出来た私は、ギルドを後にした。

 あの程度の宝石が100万? 嘘でしょ? あの程度ならアイテムボックスにまだ20個以上転がってるはず。あ! でもイエローダイヤモンドって言ってたわよね? そう言えば黄色い色だったわね。

 他にあるのは、ピンクや薄いブルーや紫に赤や濃い青。虹色や黒いのもあるはず。あまりにも沢山あるから、そう言えば鑑定もせずにボックスに、つっこんでたかも……



 あれを全て換金したら??

 もしかして、私って大金持ち?

 卑しくも私は頭の中に金貨がザクザク山盛りになっているのを想像してしまった。


 は! 私ったら何ていうことを!

 聖女として恥ずべき行為だわ……


 自分の卑しい感情を直ぐに打ち消し反省したが、元々聖女などと呼ばれてはいたが、今だから言えるが、正直あんな奴隷的な職業に本当は嫌気がさしていた。

 常に人の目線があるため、みんなの前ではしたくもない愛想笑いをし続け、戦闘になれば、真っ先に表に立ち、支援魔法をサービス業のように皆に切らさず振りまく。全員の効果時間を把握し、切れる前に個々にかけ直し、受ける状態異常をいち早く予測し、受ける前に治す魔法を掛ける。少しでも遅れると前衛達は私に「のろま。役立たず!」と罵声を浴びさせる。


 何が楽しくてそんな人生を。そもそも私は補助魔法より攻撃魔法のほうが好きだった。

 なんといってもあの魔法を放った時の爽快感!

 チマチマと時間を気にしながら補助魔法を掛けるより、よっぽど楽で楽しい。


 勇者パーティーで回復役の聖女が、攻撃魔法を放ちまくると、勇者より目立つ為、プライドの高い勇者はそれを嫌う。

 みんなにチヤホヤされる、お坊ちゃま勇者君は、たいした実力もないくせに、たまたま勇者となって伝説の剣「勇者の剣」が使えるから天狗になっていただけの、おこちゃま君だった。

 おまけに女ぐせも悪い最低な男。

 馬鹿馬鹿しい。あんなガキに命令され、媚びるようにアイツらを支え続けて。

 世界最強? 笑わせないでよ。そんな物は、切れ間なく掛かっている身体強化の効果のお陰に決まってるでしょ。


 攻撃力2倍、クリティカルヒット率2倍、速さ2倍、防御力2倍、魔法耐性2倍。物理攻撃衝撃バリアーに、魔法攻撃バリヤー。常にこれだけのバフが掛かっていて、それでも受けたダメージは直ぐに回復。


 装備は世界最高峰と言われるアダマンタイトやオリハルコンを惜しみなく使用した防具や盾に伝説宝剣「エクスカリバー」を使う戦士に、世界最強の「勇者の剣」を持つ勇者。一本何万もするミスリルの矢を撃ちまくるアホ弓士に、攻撃魔法撃ちまくって勇者からタゲとる脳筋魔道士。

 これで敵に殺られるようなら、ただのマヌケとしか言いようがないわ。


 馬鹿馬鹿しい。今考えただけでも、私の人生何だったの? って

 虐げられて生きてきた8年間。


 ふん! せいせいするわ!

 私はスローライフを目指すんだから!


 まぁお金には心配することもなさそうだしね。夢にみたスローライフに思いを馳せながら私は家路を急いだ。


 家に着いた私は、早速、先程買って来た材料を冷蔵庫に入れ、茶葉を用意したり、カップ類を洗浄したり、店に花を飾ったりと忙しく? を駆使して働いた。


 食器類を洗浄魔法で洗浄し、カーテンやテーブルクロスを空間転移を駆使して設置し、野菜をエアーカッターでスライスし、使用するパンもエアーカッターを使いサンドイッチ用にスライスした。

 火魔法で茹でた卵を、風魔法のトルネードを使い混ぜ、卵ペーストも作成した。


 そして果実をアイテムバッグから取り出し、水魔法で果実水を作り、ティポットは火魔法を水魔法を混合させ適度な温度を保てれるようにした。


「こんな感じでいいかしらね? 意外と準備に時間掛からなかったわね?」


 明日から本格的にオープンとすることにし、今日はサンドイッチの試作を作り、ご近所さんへ開店の挨拶を行うことに決めたのだ。


 錬金術で作り出した箱に魔法で切ったパンに野菜や卵をはさめばサンドイッチの完成だ。


「意外と楽勝かもね?」

 そう言って私は、キッチンに見える魔法で切られた大量の野菜を見た。


 よし! これでオッケー! 挨拶に行ってきましょう!





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