「探したんだよ、ハルトくん!


探し物があるからって山のほうへ行ったきり戻らないから、


あたし心配しちゃったよ」



草木をかき分けながらひょっこり現れたのは、同じ班のひとり、アカネだった。


彼女はハルトのことを指さし、かなりご立腹の様子だ。



「ごめん、ごめん。これから戻ろうと思ってたところなんだ」


「もう、大人たちにばれたら、怒られちゃうよ。


こんな危ないところにいて、うっかり崖から落ちたら、話にならないでしょ!」



アカネは、ハルトよりひとつ年上の六年生だ。


だから、ハルトをこうも頭ごなしに叱るのは、当然のことだった。



「ここで何してたわけ? 探し物は見つかったの?」


「いや、その……そういうわけじゃないんだけどさ」


「ケントたちも心配してるよ。


このあとも、大人たちがお楽しみの時間を用意してくれてるんだしさ。


どうするの、たったひとりで熊とか、山姥とかに襲われたら」



いや、熊は分かるけど山姥って……。


ハルトがのどに言葉をつっかえさせている間に、


また雑木林のなかから子どもが出てきた。



「ああっ、やーっと見つけた! こんなとこにいたのかよ」


「ふう、探したよハルトくん」



今度はふたりだ。ケントとタスク。ふたりともアカネとおなじ六年生の男子だ。


ケントは元気のよさが自慢の男子で、


タスクは大人のような落ち着きのある男子だった。



「あれ、ふたりも来たの? あたしだけで十分だって言ったのに」


「だってさー、気になるじゃん。ハルトがなんの探し物しているのかさ」


「にしても、ここが例の写真が撮られた崖かあ。


ハルトくん、もしかして竜の写真を撮りにきたの?」



タスクの質問に、ハルトは思わず目を丸くして、聞き返した。



「あのサイトに載っていた竜の写真のことを、知ってるの?」


「タスクだけじゃなくて、おれたちみんな知ってるぜ。ちょっとした話題だもんな」


と、ケントが答えた。



「まあ、ぼくら四人が参加したのは、べつに写真を撮るためじゃないんだけどね」


「え、どういうこと?」



ハルトが眉をひそめて聞き返した時だった。


また雑木林からひとりの男の子が出てきた。



「はあ、はあ……みんな、ぼくを置いてかないでくださいよ。


山道は苦手なんですから」



眼鏡をかけたこの少年は、トキオといった。


礼儀正しいしゃべり方だが、ひょろりとした背格好が今にも取って食われそうで、


軽く手で押したら簡単に倒れそうな子だ。


彼も六年生だが、小柄な見た目から三年生くらいに間違われることもあるようだ。



「おお、トキオじゃん。お前、無理してついてくるなっていったのに」


「だ、だってケントくん、


四人の中でぼくだけ置いてけぼりなの、嫌だったんですよう」


「でもトキオ、あんたスズカちゃんをひとりキャンプ場に残してくるなんて、


そっちのほうが男の子としてはずかしいでしょ!」


「だ、大丈夫ですよ。


あそこにはほかの子たちや大人たちがいますし……ところで、


ここって例の影が撮影されたっていう場所ですよね?」



やっぱり、トキオも例の写真を知っているみたいだ。


ここは同じ班のよしみ。


ハルトは、スマホに記録したあの竜のシルエット写真を、四人にも見せた。



「ていうかお前、待ち受けにしてるのかよ。ちょーウケるな!」


「なるほど、ハルトくんはこっちの謎をおって、ここに来たわけだね」


「こっちの謎? ほかにもこのキャンプ場に謎があるの?」


「あるよ、聞きたい?」



アカネのいたずらなまなざしに、ハルトは、もちろん! と首を縦にふった。




「フフ……あのね、


ハルトくんは、まだこの長野の自然界に、オオカミがいると思う?」

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