第十四層から第三層へ――


スピードリフターは、チューブを降りたり曲がったりしながら、


ホテル前まで一気に移動した。



ターミナル下部に集まる厚いプレート層のなかには、ハルトの読み通り、


いろんな商業施設がモール街のように立ちならんでいた。


ここ第三層もまさにそれで、


おもに旅客むけのホテルやサポート施設が集中しているのだ。



オハコビ・インは、近くで見上げてみるとびっくり仰天だった。


赤青黄色のスポット模様が入った白い卵のような建物で、


まるで第四層から第七層までのプレートを突きやぶって落ちてきたかのように、


どんとそびえ立っているのだ。



「「「いらっしゃいませ、お待ちしておりました!」」」



大きな正面玄関の前で、空色のホテル従業員服を着たオハコビ竜たちが、


子どもたちをうやうやしく出迎えてくれた。


メスのスタッフたちが首に巻いている、レモン色のスカーフが爽やかだ。



正面玄関をくぐると、驚くほど美しいエントランスが待っていた。


宇宙のように幻想的な模様の壁と、


天井に浮かぶ土星のような形をした大照明が見事だ。


ホテルなのに、まるで宇宙博物館に来たようなワクワク感すらもおぼえる。



子どもたちがうっとりして声をもらしていると、奥から何かが近づいてきた。


すいーっと宙をすべるように飛んできたのは、犬のような耳を生やした、


一メートル半くらいの大きさがあるロボットだった。


正面の画面に犬の顔があって、なんとも愛らしい。


頭に角が生えているということは、オハコビ竜を模したロボットに違いない。


これの他にも、エントランスには同じようなのがいくつも動いていた。



『イラッシャイマセ。チェックインハ、ワタクシノホウデ受ケツケテオリマス』



きゃあ、かわいい! 女子からそんな声がいくつもわいて、少しうるさかった。



モニカさんはロボットの胸のパネルをいろいろ操作し、


手早くチェックインをすませた。



すると、ロボットの体から何枚かのカードキーとプリントが出てきたので、


モニカさんはそれらを受け取って戻ってきた。



「これから男女に分かれて、部屋にむかってもらいます。


ここに部屋ごとの名前リストがあるから、


どこが自分の部屋になるか確認をして、ルームメイトごとに集まってね。


そしたら、あとで部屋の代表者にカードキーをわたします。


そうそう、夜七時になったら、最上階のレストランに集まってね。


それまでに、みんなお風呂をすませておくといいかも」





ハルトは、ケント、タスク、トキオ、


それから他の班のマサハルとシンと、おなじ部屋になった。


半数は当然いっしょになるとして、マサハルとシンとはあまりなじみがなかった。


ふたりは静岡県の出身で、別々の学校に通っており、ふたりとも四年生のようだ。


彼らは、とくにケントと仲よしになっていた。


どうやらちょっとしたアニキとして、したっているようだ。



「だって、ケントさんは『ドラスポ』の大先輩なんだもん」


「強いドラゴンいっぱい持ってるから、びっくりしちゃった」



ドラスポというのは、ハルトもハマっているスマホゲームだ。


ミニチュアサイズのドラゴンたちが、いろんなスポーツでバトルを繰り広げる、


要するにカワイイ感じのゲームだ。


ハルトもキャンプ場でケントと対戦してみたが、まったく歯が立たなかった。



それはともかく、部屋のカードキーはそのケントが管理することになった。


彼がどうしても持つと言い張って聞かなかったのだが、


タスクとトキオは、ケントがカードを失くしてしまわないか不安そうだった。



女子部屋のリーダーに選ばれたアカネが、ハルトにこっそりとこう教えた。



「リーダー気取りはいいけど、ケントはそそっかしいところがあるんだよねえ。


――うちの者が失礼をしますが、どうぞよろしくお願いしますね~」



すべての部屋のメンバーがそろったところで、


子どもたちは犬型ロボットに案内されて、エントランスの奥へやってきた。



そこは、左右に青く光る通路が伸びた広いトンネルの出発地点だった。


なだらかな上り坂が左手に続いている――



プラットホームだ。子どもたちの前には、


デジタルな犬の顔がついた空飛ぶ車のようなロボットが、ずらりと並んでいた。


六人分のふかふかなシートまでついている。


スズカがこれを見たらなんと思うことだろう。



『ワタシタチ『オハコビムーバー』ガ、


ミナサマヲ、ソレゾレノオ部屋ヘトオ連レシマス。


班ゴトニ分カレテ、オ乗リクダサイ。


ソウソウ……面白ガッテユラシタラ、嫌デスヨ』



子どもたちはたまらない気分で、どんどんロボットに乗りこんでいった。



全員乗りこむと、オハコビムーバーたちは元気よく走り出した。



ロボットから流れる楽しげなオーケストラ音楽を聴きながら、


子どもたちはホテルの上階にむかってぐんぐん上がっていった。なんだか、


ジェットコースターの巻き上げ坂を昇っているような気分だったが、


さすがにこの後落下することはないだろう。


通路のむこう側からも、何台かのオハコビムーバーがやってきてすれ違った。


通路の両脇にはなだらかな階段もあるが、


これはロボットを使わずに上り下りしたい人のためのものだろう。



「そう言えば、フラップたちはあの後どこに行ったのかな。ねえ、分かる?」



ハルトはふと、そんなことをトキオに聞いてみた。


トキオぐらいしか分かりそうな子が近くにいなかった。



「うーむ、以前ぼくが聞いた話だと、このターミナルには、


オハコビ隊員が住むマンションがあるそうですよ。


きっとみんな、そこに帰ったんじゃないですかね」



そうこうしていると、トンネルの左手に丸いくぼみの列が見えはじめた。


それぞれのくぼみの奥にドアがあって、ドアの横には部屋の番号札がついている。


また、それぞれのくぼみの前だけ道が水平になっていて、


ロボットがくぼみの横を通るたび、


ゆうらりゆうらりと、メリーゴーランドの馬みたいに動くので、ちょっと面白い。



『708番ルームニナリマス』



ハルトたちを乗せたロボットが、そのドアのひとつにむかってクイッと曲がった。


ロボットは搭乗口をドアの前にゆっくりとつけて、停車した。


同時に、部屋のドアが左右にスライドして開く。



「うぉーい、まったお世話になりまあす!」



ケントが一足先に、部屋のベッドにむかっていき、どっとダイブした。


続いてタスクとトキオが入って、さすがは経験者たちらしく、


というよりまるで部屋の所有者みたいに得意げになって、


ハルトたちを中に招いた。



「ささ、どうぞどうぞ」


「くつろいでいってくださあい」



宿泊部屋も見事な未来感だった。とにかく、何から何までほぼ白い。


六人は平気で座れる横長のソファもあったし、


ふかふかなベッドも六人分そろっていた。


部屋の奥には、ターミナルの中をながめられる大きな窓と、丸いスツールが二つ。



「備えつけのリモコンを使えば、これ一本で空調やライトを操作できるんです。


あとね、空中モニターを呼び出して、テレビも見られるんですよ!」



「クローゼットには着がえとか、タオルとかも入ってるんだ。


冷蔵庫もレンジもあるし。


とにかく、なんでもバッチリそろってるのさ」



部屋のテーブルには、はじめて泊まる子のためか、


だれでも分かりやすい部屋の説明書が置いてあったが、


タスクとトキオのおかげで用ずみになりそうだ。



「なーなー、早いとこお風呂入りに行こうぜ。男子風呂に一番乗り!」



島の探検で、六人はわりとくたくたになっていた。


なので、ケントの提案に全員すぐに賛成した。



六人はワイワイはしゃぎながら、


手に手に宿泊用のシャツとズボン、そしてタオルをつかんで、


どかどかと再びオハコビムーバーに乗りこんだ。


ロボットは、行き先も何も聞かずに目的の場所へ連れて行ってくれた。



大浴場への入り口は、ホテルの中くらいの階層にあった。


入り口の前の広いロータリーに到着すると、


オハコビムーバーがしゃべってこう教えてくれた。



『脱衣場ハ、入ッテ右側ノ通路ガ男子用、左側ガ女子用ニナッテオリマス。


オ間違エノナイヨウ、オ気ヲツケクダサイ。



流レルオ風呂モアリマスカラ、


キットミナサンニ気ニ入ッテイタダケルト思イマスヨ。


――タダシ、オ湯ニツカル前ニハ体ヲ洗ッテネ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る