「おー、極楽」



ケントが流れる浴槽でプカプカ泳ぎながら、


どこぞのオヤジのような言葉をもらした。



「こんなに面白いお風呂に入れるなんて、ぼく思わなかったよ」



ハルトは、こんな温泉施設が近所にあったら毎日だって通えると思った。


ここはそれだけ愉快な浴室になっていた。



言ってみれば、


リッチな宇宙船内にできた室内プール施設のようだ。とにかく広い!


タマゴ型の流れる浴槽をはじめとして、


十を越えるいろいろな色の入浴剤が溶けこんだ浴槽や、


噴水がわき出るおしゃれな浴槽。


はてはUFO型のくるくる回転する浴槽まであった。


くねくねしたすべり台のついているところもある。



ハルトたち六人は、狙いどおりに一番乗りすることができた。


すでに亜人の客が数名おとずれていたものの、


参加者の中では間違いなくハルトたちが一番だ。


六人は思い思いの泳ぎ方で、


お湯の流れに身をゆだねながら、じんわりと旅の疲れを癒した。


ほんの前日に、お風呂もない素朴なキャンプ場にいたのが、変に思えてくる。



「ホント、


お父さんとお母さんに内緒でここまで来た甲斐が、あるってやつですよね」


と、トキオがいたずらっぽく歯をのぞかせながら言った。


眼鏡は曇るのではずしていた。



「トキオ、父さんと母さんのことは言うなよ~。今は忘れていたいんだから」


タスクがそう答えた。



「おやおやぁ、タスクくんは家族が恋しいんでありますかな~?」


トキオはニタニタしながら、タスクを指さしてそう聞いた。



「いやいや、そうじゃないって! こいつ~、そりゃ!」



バシャッ! バシャアッ!


タスクはいかにも心中をはぐらかすように、トキオにむかってお湯をかけた。


顔面でそれをひっかぶったトキオが、目をぱちぱちさせると、


やりましたね、と言わんばかりにお湯をかけ返す。


激しい波しぶきの応酬がはじまる。



一度こうなったら、騒ぎはたちまち伝染してしまうものだ。


ふたりのかけ合いを見ていたマサハルとシンが、


自分たちも真似してかけ合いをやりはじめた。そこへさらにケントもやってきて、



「あははっ、はじめたなーお前ら!」


と叫びながら、自分も四人にむかってお湯をぶちまけはじめた。



そしていつの間にやら、ハルトもみんなに加わって激しくかけ合いをしていた。


理由なんてとくにない。面白いから混ざっただけ。


子どもの入浴なんてこんなものだ。



ハルトたちが通った場所では、お湯が波打って外へとこぼれ、


ぶっかけられたお湯が浴槽の外にも飛んで弾けた。



これはヤバイ、楽しすぎる――ハルトは心底そう思った。


しかも、オハコビ竜と遊ぶのとは、またずいぶん違う楽しさだ。


思えば、学校の友達とこんなふうに大はしゃぎしたことは、


そうそうないかもしれない。



スカイランドに来たついでに、


人生に欠かせない大事な経験をしたような気分だ。



あの恐ろしい黒い竜のことなんか、


ハルトの頭からきれいさっぱり吹き飛んでいた。

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