5
「おー、極楽」
ケントが流れる浴槽でプカプカ泳ぎながら、
どこぞのオヤジのような言葉をもらした。
「こんなに面白いお風呂に入れるなんて、ぼく思わなかったよ」
ハルトは、こんな温泉施設が近所にあったら毎日だって通えると思った。
ここはそれだけ愉快な浴室になっていた。
言ってみれば、
リッチな宇宙船内にできた室内プール施設のようだ。とにかく広い!
タマゴ型の流れる浴槽をはじめとして、
十を越えるいろいろな色の入浴剤が溶けこんだ浴槽や、
噴水がわき出るおしゃれな浴槽。
はてはUFO型のくるくる回転する浴槽まであった。
くねくねしたすべり台のついているところもある。
ハルトたち六人は、狙いどおりに一番乗りすることができた。
すでに亜人の客が数名おとずれていたものの、
参加者の中では間違いなくハルトたちが一番だ。
六人は思い思いの泳ぎ方で、
お湯の流れに身をゆだねながら、じんわりと旅の疲れを癒した。
ほんの前日に、お風呂もない素朴なキャンプ場にいたのが、変に思えてくる。
「ホント、
お父さんとお母さんに内緒でここまで来た甲斐が、あるってやつですよね」
と、トキオがいたずらっぽく歯をのぞかせながら言った。
眼鏡は曇るのではずしていた。
「トキオ、父さんと母さんのことは言うなよ~。今は忘れていたいんだから」
タスクがそう答えた。
「おやおやぁ、タスクくんは家族が恋しいんでありますかな~?」
トキオはニタニタしながら、タスクを指さしてそう聞いた。
「いやいや、そうじゃないって! こいつ~、そりゃ!」
バシャッ! バシャアッ!
タスクはいかにも心中をはぐらかすように、トキオにむかってお湯をかけた。
顔面でそれをひっかぶったトキオが、目をぱちぱちさせると、
やりましたね、と言わんばかりにお湯をかけ返す。
激しい波しぶきの応酬がはじまる。
一度こうなったら、騒ぎはたちまち伝染してしまうものだ。
ふたりのかけ合いを見ていたマサハルとシンが、
自分たちも真似してかけ合いをやりはじめた。そこへさらにケントもやってきて、
「あははっ、はじめたなーお前ら!」
と叫びながら、自分も四人にむかってお湯をぶちまけはじめた。
そしていつの間にやら、ハルトもみんなに加わって激しくかけ合いをしていた。
理由なんてとくにない。面白いから混ざっただけ。
子どもの入浴なんてこんなものだ。
ハルトたちが通った場所では、お湯が波打って外へとこぼれ、
ぶっかけられたお湯が浴槽の外にも飛んで弾けた。
これはヤバイ、楽しすぎる――ハルトは心底そう思った。
しかも、オハコビ竜と遊ぶのとは、またずいぶん違う楽しさだ。
思えば、学校の友達とこんなふうに大はしゃぎしたことは、
そうそうないかもしれない。
スカイランドに来たついでに、
人生に欠かせない大事な経験をしたような気分だ。
あの恐ろしい黒い竜のことなんか、
ハルトの頭からきれいさっぱり吹き飛んでいた。
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