だだっ広い真夏の雲海が、少しずつ黄金色にそまろうとしている。



ハクリュウ島でのひと時は、子どもたちにとって幸せなものとなった。


ターミナルへ戻る途中、フラップはいろいろと説明してくれた。



まずは、オハコビ隊のよりくわしい組織図について。



オハコビ隊には、フライターとサポーターが存在する。


でもそれは、お客を島から島へ運ぶという、


みんなにもっとも親しまれている『お運び部門』をさして話したにすぎなかった。



オハコビ隊には他にも、フーゴが統率する『警備部門』や、


お運び部の客人に急患が発生した時などに活躍する『救援部門』、


オハコビ・インを経営する『ホテル部門』、


オハコビ隊のメカを作る『エンジニア部門』などがある。


そしてほとんどの部門が、


オハコビ竜と亜人で組織されているというのだ。


人間がおもに関わっているのは、お運び部門と、エンジニア部門くらいらしい。



『人間さんは、頭がとてもよろしいので、


高度な開発技術やコンピューター技術が要求される部署では、


どうしても欠かせないそうなんです。人数はとても少ないですけどね』



それから、オハコビ・インについて。



これからむかうホテルは、普通のホテルとは一味も二味も違うという。


まあ、人間が経営するホテルではない時点で、


普通ではないのは目に見えている。



さらにフラップは、


まるでこれから自分が泊まりにいくみたいに、わくわくした調子でこう話した。



『とにかく面白いものばかりなんですよう。中にはロボットもいっぱいいて、


泊まる部屋にもロボットに乗って移動するんです。


あとね! 大浴場には流れるプールみたいなのもあるし、


最上階のレストランはご馳走が食べ放題なんだよ~!』



そうこうしているうちに、


雲海の彼方にぼんやりと見えていた巨大な空中施設が近づいてきた。


出発した時にはふり返る余裕もなかったが、


今になってはじめて、ターミナルの外観を見ることができた。


なんだか、上をむいた白いイッカクのような形だ。


角にあたる部分が、モニカさんの言っていたサポートタワーだろうか。


その周辺にも、いろんな施設が密集しているようだ。



「――雲海シロハネクジラは、どのくらいの大きさだったっけ?」



ハルトは、息をのみながらフラップに聞いた。



『ターミナルの三十分の一くらい……といっても分かりませんよね』



たしかに、空港と都市が丸ごとおさまるのもうなずける。


東京ドームがまるまる二十個くらい、余裕で入りそうな大きさだ。


とにかく、月みたいにでかすぎる施設だったのだ。





ターミナルの離陸デッキに降りると、


子どもたちは二時間半ぶりに地に足をついたので、少しふらついてしまった。


亜人たちが行き交うコンコースをぬけ、スピードリフターの搭乗ホールに行くと、


そこに隊員姿のままのモニカさんが待っていた。午後五時頃のことだった。



「みんな、お帰りなさあい。ハクリュウ島の探索は楽しんでもらえたみたいだね。


さてと、さみしいけど、竜さんたちとは一旦ここでお別れして、


これからわたしといっしょに、オハコビ・インにむかいましょう」



さすがに、いっしょに宿泊できるわけではなかったらしい。


子どもたちはわりと長い時間、彼らと体が密着していたようなものだ。


にわかにさみしさをつのらせる子も多かった。



「大丈夫ですよ、また明日も会えるんです」



フラップが子どもたちに優しく言うと、他の竜たちもにこっと笑顔を送った。



子どもたちは、それぞれのオハコビ竜に手をふりながら、


モニカさんに続いて貸し切りのスピードリフターに乗りこんだ。


子どもたちは、リフターが下に降りてフラップたちの姿が見えなくなるまで、


ずっと手をふり続けた。




天井から降り注ぐ黄金色の光を受けた広大なターミナルは、


午前中とは打って変わって、飛び交うオハコビ竜の数もずいぶん減り、


おだやかな雰囲気に包まれていた。



他の子たちがまた外の景色をながめるなか、


ハルトは、モニカさんにむかってたずねた。



「モニカさん、スズカちゃんの様子はどう?」



「うん。連絡によるとね、すっかり元気になったみたい。


でも今夜は、例の黒い竜からの保護もかねて、


警備部門が経営する医療施設に泊まることになったの。


ハルトくん、あとでフラップくんが迎えに行くから、


いっしょに会いに行っておいで。スズカちゃん、絶対に喜ぶよ。


クロワキ主任やフーゴ総官から、許可は下りてるから」



ハルトは、うん、と強くうなずいた。


でも、フラップも来てくれるとは思いもしなかった。

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