第三章『スカイランドへの旅』
1
もとのキャンプ場。その近くにある広い野原。
ハルトは、そこで異様な光景を見ることとなった。
仲直りしたケントたちといっしょに、竜につかまって戻ってくると――
そこには、他の班たちをともなってやってきたオハコビ竜たちが、
ずらり集結しているではないか。
竜は、驚くことに全部で十四頭もいた。おのおの違う背中の色をしていて、
赤、青、黄色はもちろん、緑や紫、キャラメル、ネイビー――
はてはピンク色なんかもいた。さながら竜の着ぐるみパーティーのようだ。
みんな、「見つかっちゃった」だの、
「子どもたちと仲よくなれたよ」だのと声をかけあって、
和気あいあいとしている。
彼らが使う不思議な力『竜の秘術』とやらのおかげで、今このキャンプ場は、
エアコンの効いた室内なみの涼しさにおおわれている。
たしか、涼みの術といっただろうか。これはこれで大助かりだ。
いっぽう、キャンプ参加者たちは、みんなキツネにでも化かされたような具合で、
ガヤガヤとどよめき声をわかしていた。
どうやら、みんなも同じようにサプライズを食らったようだ――
二度目の参加となるケント、タスク、アカネ、トキオの四人は、
周囲を見て平然と笑いあっていたが。
しかし、ハルトが一番気になったのが、
この光景をしてやったりな笑顔でながめている、引率者の大人たちだった。
参加者たちが竜といっしょに風に乗ってここへ帰ってきた時、
彼らは、平々とした顔で手をふりながら出迎えたのだ。
モニカさんときたら、
フラップに運ばれてきたハルトとスズカのところへ近づいてくるなり、
得意げな、それでいてわびを入れたそうな複雑な顔で、こんなことを言った。
「サプライズ大成功だったみたいね。わたしからもごめんねを言わせてね。
こんなびっくりするような秘密を隠して、
みんなをだますような計画に手を貸しちゃって――」
フラップは、すでにモニカさんと知り合いのようだ。
それどころか、大の仲よしのようにすら見える。
長い尻尾を犬のように振りまくり、砂煙まで立てているの見れば、一目瞭然だ。
「モニカさん、ぼく、ふたりと仲よくなれましたよ!」
「さすがフラップくん。つかみは上出来ね。
――くわしい話は、リーダーから直接聞いてほしいな。わたし、
子どもたちに竜たちのことを隠していて、申しわけない気持ちでいたんだ」
「モニカさん、ぼくは嬉しいよ! こんな素敵すぎるサプライズははじめて!」
と、ハルトは答えた。
スズカも同じ気持ちだ。それを言葉にするかわりに、
くちびるをちょっぴりゆがませて、はずかしそうな笑顔を見せるのだった。
*
集会がはじまる。
キャンプ参加者たちは、このキャンプの真相を今まさに伝えらようとしていた。
竜たちと引率者たちがうやうやしい表情で注目するなか、
主催者クロワキ氏は、いやにいさぎよい笑顔で参加者たちの前に現れた。
「みなさん、お帰りなさい!
お宝がちゃんと全部見つかったようで安心しましたよ。
それと……いやあ~、じつに面目ない! みんなびっくりしたでしょう?
お宝の正体がなんとかわいい竜たちなのでした! なんて、
意表をつくにもほどがあるって感じでしょ?」
さすが、何度もこのキャンプを開催してきただけあって、
ノリが軽く、ひょうひょうとしている。
子どもたちに何をどう言えばいいか、熟知している様子だった。
「弁解させてもらいますとね、
何もみなさんを怖い目にあわせたいわけじゃないんですよ、われわれはね。
ただ、かわいい~竜たちとの出会いの場をね、
少しでも多くの子どもたちに分けてあげたいなと。もうね、それだけなんです」
そこへ、参加者のひとりが手をあげて、急き立てるようにたずねた。
「すみません! クロワキさんたちって、いったい何者なんですか?」
「おお、ズバリ聞いてくれましたねえ!
われわれは、スカイランドという世界からやってきた者です。
あれれ、スカイランド? それってどこ!?
みたいな顔してますね、みなさん。うん、あそこです」
クロワキ氏は、ふり返りざまにまっすぐ空を指した。
「空の上にあるんですか?」
「スカイランドってなんですか?」
「オハコビ竜も、そこから来たんですかー!?」
「教えてくださーい!」
熱烈とした鋭い質問が次々と発射されていく。
クロワキ氏は、こうなるのもいつものことだという具合に、
両手で子どもたちを鎮めるしぐさをすると、
何か重大な事実を告げようとするみたいに沈黙をこめてからこう答えた。
「スカイランドとは、文字通り空の上に広がる、地上界からは見えない世界です。
次元的にも離れた場所にありますからねえ。
そして、このキャンプは、今日ここに集まってくれたみなさんを、
不思議いっぱい、楽しさいっぱいのスカイランドへ招待するための、
特別なツアーイベントだったのです! はい、拍手! パチパチパチ……」
沈黙。あぜん。呆然――子どもたちの驚く顔といったら、もうなんなのだろう。
目玉が飛び出しそうな子や、すっとんきょうな声を上げる子、
雷に撃たれた顔をする子、石のように固まる子なんかもいた。
とにかく、だれもが拍手する余裕など一ミリもなく、ひどい驚きようだったのだ。
案の定、子どもたちの質問攻めがはじまった。
「あのー! パパやママは、そのことを知ってるんですか?」
「いや~、じつはね、これはだれにも内緒なんです。
無論、みなさんのご家族にもね。だから、スカイランドに遊びにいくかどうかは、
みなさんの自由です。われわれオハコビ隊はね、
サービスを強制することはなるべく避けたいので」
「スカイランドって、テーマパークか何かですか?」
「あー、ねえ……そんなふうに感じる場面もあるかもですねえ。
くわしくは、行ってみてのお楽しみ、ということで」
「行って、ここに戻ってくるまで何日ですかあ?」
「ツアーの期日ですね。三泊して、四日後のお昼にここに帰る予定ですよ。
キャンプの日程にぴったり合致させるのは当然ですからね」
「スカイランドって、泊まるところはあるんですか?
それとも、テントを張ってキャンプするんですか?」
「そこも気になりますよねえ。大丈夫、ちゃんとした宿泊施設があるんです。
とってもりっぱなホテルですよ!
もともとキャンプをしにここへきたみなさんにとっては、
なんともいえない気分かもしれませんけどねえ……あははは」
この人の話を、真に受けてもよいのだろうか? だれもがそう思った。
でも、甘い綿飴のように膨らんでいくワクワクをおさえられる子はいなかった。
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