ハルトたちはそれからあてもなく、


島のめずらしい草花や景色を味わいながら散策を続けていた。


フラップは島の動物や植物のことをいろいろと教えてくれた。


そのおかげで、ハルトたちはおだやかで有意義な散策ができていた。



とある池のほとりで、モモイロガモという水鳥の群れをながめていた時だった。



「――おっと、通信が入った。はい、もしもし」



フラップは、


ゴーグルについた青い丸ボタンを押しながら、だれかと交信をはじめた。



「あ、モニカさん!


はい……ええ、はい、ハルトくんたちと楽しくすごしていますよ」



相手はあのモニカさんのようだ。他の隊員たちをさしおいて、


わざわざフラップに直接通信を入れてきたのはなぜだろう?



「――ハルトくん、スズカさん。今ね、モニカさんから連絡が入ったんです。


白竜さまの湖のほとりに集合だそうです。お昼ごはんの時間だって」



「もうそんな時間かあ。あっという間だなあ」



いつの間にか、さびしい気配のするお腹をさすりながら、ハルトは言った。



「自慢じゃないけど、じつはモニカさん、ぼくの専任サポーターさんなんですよ」



センニンの、サポーター? ハルトたちは首をかしげた。



「そっか、おふたりにはお話してませんでしたよね。


オハコビ隊員の中にはね――」



『わたしのように、特定の竜さんとタッグを組むサポーターもいるの。


たいていのサポーターは、ひとりで多くの竜さんたちの支援を請け負うけどね』



フラップのほうから、


モニカさんの声が拡声スピーカーから飛びだすような音質で聞こえてきた。



「えっと、今モニター出しますね!」



フラップは腕の端末を操作し、端末の表面をだれもいないほうへスライドさせた。


スライドした方向に、ぱあっと大きな空中モニターが現れ、


そこにモニカさんの顔が映し出された。


彼女は、なかなかいかした白いヘッドセットをつけて、


ゆったりとしたソファらしきものに腰かけている。


でも、なぜだか乗り物用のシートベルトを身につけていた。



『ハルトくん、スズカさん。楽しんでくれているみたいね。


今、ターミナルのサポートタワーから、通信しています。


酸素の補給はちゃんと行ってる?』



「ああ、うん、やってるよ」


「やって、ま、す……」



『ならオーケー。慣れない土地では、油断大敵だよ。



わたしはね、一般的なサポーターの中では、


ちょっとだけ高いランク評価をもらってるんだ。だから、


フラップくんのように、普段大事な業務を行う優秀なフライターについて、


ツーマンセルで仕事をしているの。まあ、ふたりには関係ない話かもね』



「へ、へえ~、そうなんだ」


ハルトは思いがけず、モニカさんの秘密を知ってしまった気分になった。



「モニカさん、優秀だなんてぼく……照れちゃうなあ」



フラップは、嬉しそうに身をひねるしぐさをした。まるで女の人みたいだ。



『ほらほら、浮かれちゃいけないよ。それはそうと、集合時間。


他のみんなは、とっくにほとりに集まってるよ。フラップくんたちも急いでね』



ハルトはひとつ気になった。


フラップが普段行っている業務は、普通の隊員業務とはいくらか違うようだ。


いったいどのような仕事なのだろう?



再びフラップに運ばれて、急ぎ湖のほとりに来てみると、


そこには二十二人のツアーメンバーとそのオハコビ竜たちが、


巨大な青と白のしましまレジャーシートに座って、


すでに昼食の支度らしいことをしている様子だった。


それも、半球形の透明ドームの中で――。



フラップが言うには、オハコビ隊が用意した特殊装置だという。


中は密閉されているが、ちょうどいい酸素と温度が保たれているらしい。



ドームの入り口には、二頭のスーツ姿のオハコビ竜たちが待っていた。


ハルトたちは、彼らの案内をうけ、


大きな二重ドア――酸素をもれにくくするためのようだ――をくぐった。


そして、東京の四人組とようやく合流した。



フリッタとフレッドが、一度スーツを外しなよとすすめたので、


フラップも腕の端末をささっと操作し、フライトスーツを一瞬でぬいだ。


まわりの隊員もみんな、同じようにしていたからだ。





「これうまっ! あのさ、これなんて料理名?」



ケントが、


黄色い生地に巻かれた白い餅のようなものをしめして、フリッタに聞いた。



「それはねえ、『ポフスト』っていう、魚人族から生まれた料理だよん。


中にツナっぽいのが入ってるでしょ?」



「うーん、あたし、このお花を使った肉料理も好き!


ね、これ前にも食べたよね?」



「そうでしたね。


あの、フレッドさん、この料理はなんて言いましたっけ?」



アカネの食べている小さな赤い花の茎を巻いた肉料理を指さして、


トキオがフレッドにたずねた。



「ああ、それかい? 『白豚肉のアマシバナ巻き』だよ。


アマシバナは、摘みたてで食べてもおいしい。


さっぱりした味わいだから、ネコ族のメスたちの間で人気なんだ」



子どもたちは、何もない静かな湖の景色をながめながら、


竜たちと和やかな昼食を楽しんでいた。



竜たちが班ごとに用意した大きなランチボックスの中には、


見たことのないさまざまな料理が、所狭しと詰まっていた。


食欲をそそる香りに満ちた、スカイランドのご馳走弁当だ。


不思議な酸味があるタレを使った鶏肉や、


とても甘みの強いジャガイモを使ったかわいい渦まき型コロッケ、


雲のようにふわふわでもちもちとした食感がくせになるチーズ料理――


このあたりが、ハルトのお気に入りになった。


他にもいろいろあって、ハルトはどれも少しずつ割りばしで紙皿にとり、


しっかりといただいた。



いっぽうでスズカは、ハルトの後ろに隠れて、


ケントたちの目を忍ぶかのように食べていた。


そのそばにはフラップがついていて、


スズカにお弁当の献立について教えてあげているようだった。



(今のスズカちゃんは、フラップにまかせておこう)



ハルトは、今はとにかくスカイランドの料理や、


ケントたちとの会話に集中したかった。

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