「ふしぎ」と出会ったその日から、少年は変わっていく!

どこにでもいそうな地味系高校生、拓磨(たくま)。母を亡くして以来開いてしまった父とのビミョーな距離感に悩みつつも、静々とスクールライフを送る普遍的な少年です。VRゲームの腕にはちょっとした自信がありますがそれ以外は引っ込み思案で、クラスメイトたちとも少し壁を築いてしまっている――そんな彼がある日、ゴミ捨て場でふしぎなカラスと出会うことで物語は幕を開けます。

カラスとの“キス”(!)以降、拓磨のまわりでは次々に怪奇現象が起こるように。それらの現象を起こしているのはどうやら『神粒』と呼ばれるエネルギーたち。使い手によって良くも悪くも絶大な影響を与えるそのエネルギーを蓄えやすい特殊体質であることに気づいた拓磨は、力を身につけるため多くの人物を頼ることに。

しかしようやく修行をはじめたばかりの拓磨を追い詰めるように、大きな陰謀が日本と世界を巻き込んで動き始めます。急速に発展していく怪しい宗教団体、政府の者でありながらやけに強引な手で拓磨のクラスメイトを狙ってくる謎の人々……こうなってはもう、拓磨はただの大人しい男の子ではいられません。現代っ子の知識と閃きをフル稼働させ、少年は大人顔負けの行動力でトラブルに挑んでいくのです。

しっかりとした構想に裏付けされた文章は安心して読み進めることができるのはもちろん、本作の面白みは「科学」と「オカルト」の間を行くようなファンタジーさ、そして何より骨太のヒューマンドラマにあると感じました。たとえ「ふしぎ」なしゃべるカラスと出会っても、妙なエネルギーの粒が見えるようになっても、さらに付喪神として手が生えている打掛(羽織り)に気に入られようとも――拓磨はやっぱり、ただの高校生の男の子なのです。自分の生活を放り出して世界を救う旅に出るわけじゃありません。

父との距離の修復も、愛への飢えがもたらす寂しさも、未知へのワクワクだけでは消し去れない。スーパーチートを身につけて全部解決!なんて調子良く運ぶはずもなく、拓磨は身近な問題につまずき失敗し、迷惑をかけながらもひとつひとつ丁寧に向かい合っていきます。長い前髪と伊達メガネをかけ俯きがちだった少年はこうして、ちゃんと自分のちからで強さを得ていくのです。うーん、そこがたまらなく良い!

拓磨の変化を助けてくれるキャラクターたちも、もちろん魅力的。学校でも随一の美少女ながら少々残念なオカルトオタクに、強気な態度に爽やかな笑顔が印象的な神社の跡取り息子。謎多きアンティークショップを営む『神粒』に通じた優男、そして“キス”することで美少女に変身するカラス。ゲームの世界に引きこもっていた少年がこれだけ強烈な人物たちと出会えば、変わらないはずがないのも納得です。

第一部は『神粒』の仕組みや拓磨の身辺状況を把握するため、大変丁寧な出だし……と思いきや、最後にはドキドキなアクションパートもがっつり仕込まれていたのには度肝を抜かれました。ここまででもしっかりと拓磨の成長を感じることができ、綺麗に話もオチてすっきり!早くも再開が待ち遠しくなっている読者です♡それまで『神粒』の修行、しっかりやっておきますね(蝋燭と紙を用意しつつ)。


ちょうど良い文量であっという間に読めてしまう第一部。追いつくなら今ですよ!

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